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 稲盛和夫さんの講演CD集『幸せになるための生き方』が先週、やっとわが社から発売となった。おととい日経新聞に広告を出したら、思った通りの大反響である。諸事情があって、2ヶ月ほど発売が遅れてしまった。

 私が稲盛さんに手紙を書いたのは6月だったから、半年の制作期間を要したことになる。稲盛さんも6枚のCDを確認のためにお聞きになるのは大変だったろうとお察しする。他人事のようにいうのはまずい。私がご面倒をかけした張本人なのだから。

 稲盛さんには昔、何度かお目にかかったことがある。そもそものご縁は、DDI創業間もなくのころ、書籍出版の話を、DDIの知人を通じて頂いたことだった。私は新潮社に在籍していて、出版部の部長に話したが、「経営者の本は売れない」と却下されてしまった。稲盛さんにとって最初の本となるはずだった。稲盛さんに申し訳ないと思い、そう申し上げると、気にしなくていいんですよといわれた。

 カラオケをご一緒したこともある。京セラの東京本社がそのころ、銀座というより数寄屋橋あたりにあった。稲盛さんは、何を思われたか、その地下に「慶」という名前の京セラ直営のクラブを作られたのだ。東京に来られたときは、毎晩のようにお客様の接待を自らしておられた。既に京セラも立派な会社になり、通信自由化の旗振り役として第二電電(その後のDDI)を立ち上げ、それも見事に成功させたその大社長がである。

 ある日、私は招待されてそのクラブに伺った。ドアを開けるとクラブとしてはいささか不似合いなガランとした広い部屋の奥のソファーに、御大が深々と頭を下げて私を迎えてくれているではないか。思わず、「やめてくださいよ~」と叫びたくなった。結構年配の和服姿のマダムはいたが、稲盛さんが自らホストとして甲斐甲斐しくお客の応接にこれ努めている姿に驚き、感激をしたことを覚えている。何事にもほんとに真剣勝負の方なのだと思った。

 得度される直前にもお会いした。お坊さんにもなられるわけだから、ラジオ番組で「稲盛法話」をやってもらいたいと思い、DDIの東京本社に企画を持っていった。そのとき、稲盛さんは私の目の前に座り、こちらの話を一生懸命メモしておられた。また思わず、「やめてくださいよ~」と叫びたくなった。「私の話なんてメモしないでくださいよ!」といいかけた。

 このCD集は、稲盛さんの「人生と仏教」の講演でまとめたいと初めから思っていた。そのことにご賛同を頂いて今回の企画が実現したが、思えば、稲盛さんは仏教の教えを身をもって体現されているようなところがある。仏教を学びその教えを語り伝えたりできる仏教者は多くいる。しかし、稲盛さんは、その教えを会社経営に生かし、人間関係に生かしてこられた稀有な方だと思う。

 だからといって、抹香くさいところはほとんどない。「平成の経営の神様」といわれるが、なんとも茶目っ気があって、魅力的なお人である。そしてもちろん、志の高さは無類である。

 生きるのに難しい時代だとつくづく感じる。そういう世の中で、多くの人が、この人のいうことなら耳を傾けてみたいと思う筆頭にあげたい人物だとつねづね思っている。