
「旅のぬり絵」シリーズの第1巻『おくのほそ道を歩く』がやっと仕上がった。長年の友人で画家の山本ミノさんが絵を描いてくれて、私が文章を書いた。刊行は9月末。
おかげで、この夏は、芭蕉の世界に浸ることができた。やはり面白い。江戸時代の俳人たちがどんな風に暮らし、どんな風な社会的存在だったのかにとても興味がある。芭蕉くらいになると、さすがに、みちのくのそこかしこで歓迎を受け、弟子や裕福な商家の俳句愛好家たちによって句会がもようされたことが、『おくのほそ道』を読むと分かる。一茶の江戸暮らしは貧乏この上なかったが、それでも、葛飾や千葉の俳句好きの「羽織百姓」から声がかかってそれなりに糊口をしのいでいたという。
10月10日には、四谷保健センターで山本さんを講師にして「ぬり絵教室」を開くことにしている。
私の師でもある遠藤周作が亡くなって、今年で20年になる。今週の29日が命日で、恒例の「周作忌」が周作クラブによって開かれる。周作クラブは、遠藤先生の死後、「三田文学」の編集長だった加藤宗哉先輩が中心になって作った先生のファンクラブである。会員がなんといまも700人以上いる。これはちょっと驚くべきことだ。
作家の命は亡くなったときから始まる、という言葉は逆説である。実際には、作家本人が亡くなると、当然、活動の話題が少なくなり、だんだん人々から忘れ去られてゆく場合が大半である。最近の例外としては、向田邦子、寺山修司・・・などがあげられる。死後にブームがやってきた珍しい作家たちだ。
遠藤先生は、身内贔屓でいうのではなく、ほんとに破格かも知れない。いまだに、ファンクラブに多くの人が集まり、本も読まれ続けている。全集は、新潮社から生前に1回、死後に15巻のものが出された。出版社からいえば、全集は商売になりにくい。全集で大きな利益が出た話はあまり聞かない。新潮社から昭和50年ころ出た三島由紀夫全集くらいではないか。私が入社して2年目に、三島由紀夫全集が予想を超える売り上げとなり、社員に金一封が出た。装丁に革を使った贅沢な作りの本だった。額はいわないが、かなり高額な臨時ボーナスであった。全集の作られ方で、その作家の出版社に対する経済的貢献度が分かるのだ。遠藤全集は、三島全集ほどではないが、立派な作りだった。新潮社は昔、「純文学書き下ろし特別作品」というシリーズを作って『沈黙』をまずベストセラーにしたが、その後も先生の『死海のほとり』や『侍』が同じシリーズでベストセラーになった。
そんな没後20年の節目の年に、待たれていた映画『沈黙』の公開が決まった(写真上)。マーチン・スコセッシ監督によるハリウッド映画である。今年の年末にアメリカで封切られ、日本では来年1月の公開となった。マーチン・スコセッシ監督は、「タクシー・ドライバー」で知られる名匠である。監督は敬虔なカトリック教徒で、30年くらい前に『沈黙』を読んですぐに映画化を決意したという。
窪塚洋介という役者がキチジローをやるほか浅野忠信や若い女優小松菜奈もでる。ロドリゴ役は、アンドリュー・ガーフィールドというハリウッド映画の注目株が演じるらしい。
この映画化の話は、すでに10年位前から聞いていたが、なかなか完成しなかった。撮影も難航したらしく、当初、渡辺健も出演予定だったそうだが、撮影延期によって浅野忠信に代わったという。ご難続きだったこの映画が完成してとにかく公開にこぎつけたことが嬉しい。先生が草葉の陰でほくそ笑んでいる!