もう見られない すまけい   | 編集長ブログ

編集長ブログ

ブログの説明を入力します。

朗読のスタジオで


何日か前の朝日の夕刊に「すまけい」の追悼記事が載っていた。亡くなってから2か月近くたつだろうか? 訃報を聞いたときも悲しかったけど、いまもその死が悲しい。そんなにたくさん彼の映画や芝居を観たというわけではないけど、なんだかとても悲しい。なぜだろう。

もう、20年くらい前になるけれど、こまつ座の「人間合格」に出たときのすまけいが忘れられない。太宰治は風間杜夫がやって、すまけいは、太宰が行きつけだった屋台のおでん屋のおやじ役だった。ラスト近く、屋台に羽織姿の太宰が酔いつぶれて寝ている。おやじがそのそばでかたづけをしながら、今日この人には悲しいことが二つもあったんだ・・・・と観客に向かって話し始める。友達の死を知らされて、耐えられないのだ、と酔いつぶれているわけを語る。その語りが実にいい。優しいといえば、これほどの優しさもないというしみじみ思いやリにあふれた語り。
その語りの後で、「港の見える丘」を静かに口ずさむ。「あなたと二人で来た丘は 港の見える丘.・・・・」。幕がおり始める。哀調が太宰の後ろ姿にかぶる。すまけいは歌い続ける。憎い栗山演出。目頭が熱くなった。
若いころからずいぶんたくさん芝居をみてきたが、こんなに思いが残るラストも少ない。すまけいの語りと歌のうまさ、そして味わい深さ。また少し太宰という人がわかった気がした。
こまつ座はリバイバルで同じ舞台を何度も上演するから、いつかまたすまけいのこのラストが見られると思い込んでいた。もう二度とみられないのだと気づいたら、なんだからたまらなく悲しくなったのだ。すごい役者だった。脇役も脇役。でも、彼のあのラストシーンのセリフと歌をもう一度聞きたい.・・・・
井上ひさしさんと初めて会ったのは、井上さんがこの芝居を書いている最中だった。池袋西武の最上階にあった「スタジオ200」というホールの楽屋。スタジオ200は新潮文庫の定期講演会の会場だった。「初めは太宰を悪く書こうと思ってたんですよ。人間失格の・・・・。だけど、いくら悪く書こうと思ってもだめなんですよね。いいところしか見つからない。だから、タイトルが人間合格、になっちゃった」といって、井上さんは笑った。この時も, 原稿が遅れてみんなに叱られているんですといっていた。