中国陶磁へのおさそい~「五彩花枝文桃果形水注」(デイヴィッド・コレクション:大英博物館に寄託)
大英博物館のデイヴィッド・コレクション室に展示されている「五彩 花枝文桃果形 水注」をご紹介する。
桃の果実をかたどった胴部や、桃の枝に似せた 注ぎ口と把手の形態も面白い。
高さ11.6センチ。
制作時期は大英博物館サイトによれば 1662年から1722年。
すなわち清朝第四代康熙帝の治世に同じ。
個人的に興味深いのは、この作品が「南京赤絵」と、「南京赤絵」の後に出現し、しばらくは並行してつくられた「康煕五彩」の両方の様式をもっていることだ。
過渡期の作品ということだろう。
文様の描き方は「南京赤絵」に近い。しかし「康煕五彩」で初めて使われた「紺青」の色が、この作品にも用いられているのだ。
以前の投稿でも言及したが、大英博物館サイトには、中国での上絵具の青色は1700年ごろ開発されたと書かれている。
そしてこの作品の(紺青を含む)花と枝の色は「康煕五彩」の、それも「後期のパレット」(*)によるとある。
(*)「パレット」:意訳すると、その時代固有の絵の具セット。
「康煕五彩」は狭義には康煕帝の治世につくられたものを指すので、この西暦1700年は治世の後半にあたり、康煕五彩磁器にとっても後期となるからだろう。
いっぽう「南京赤絵」の制作時期は、明時代末期から康熙帝治世の1690年代まで。(角川日本陶磁大辞典による。)
だから、この作品は1700年前後につくられたということになるのだろう。
個人的には「紺青」の上絵具は、それを使っている日本の「古九谷」様式が17世紀の後半の、それも1650年からそれほど過ぎていない時期につくられてはじめているらしいことから、この大英博物館の作品も、もっと早い時期のもののようにも思う。
細かいことを書いてしまったが、この作品は清朝初期の五彩磁器の名品だと思う。同手品があったら扱いたい。
ご参考用に大英博物館の作品サイトを貼る。