円空破れ笠、白蛇池の浮き島に入る、 | 美術家 村岡信明 

美術家 村岡信明 

漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる

円空れ笠17、雨乞いの祭壇・白蛇池、2       

     白蛇池の浮島に渡る。

~~~~~~祠に散乱する雨乞いのお札、 ~~~~~~

                

翌朝は台風一過、青空の広がる快晴であった。登山の身仕度に整えて山人の家を出てから3時間ほどで雨乞山の麓に着いた。白蛇の山とも呼ばれる山容は異様であった。山の中腹は細い雑木林だが、山頂あたりだけが槙か桧のような大木が繁り、冠のような深い森になっていた。

 下草や蔓草を鉈で切り払いながら一気に登って行くと、山頂は密林のように大木で覆われ、太陽の木漏れ陽が幾条もの細い筋になって差し込んでいた。

 山頂の平らな場所に出ると、そこが白蛇池の跡地で、根こそぎ倒れた巨木が横たわり表面は厚い苔に覆われていた。

 「ここから先が底無し池です。ほら、この倒木の先に見えるでしょう祠が、あれが雨乞いの祭壇です」。

 倒木の先端を見ると盛土の基壇の上に小さな祠が在った。

 「倒木は苔でヌルヌルして滑るから気を付けて下さい」

 そう言いながら山人は倒木の背を身軽に渡っていった。

 地面から2m以上ある倒木の背まで木の根を掴んで登り、背に立つと苔がつる!とむけて足をとられて落ちそうになった。

慎重に倒木を渡り浮島に着くと、山人が細長い枯木を持ってきて、池の中に差し込むと、どこまでも深く入っていき水が湧き出てきた。腐葉土が堆積して地表のように見えるが池はまだ生きているのだ。

               Ψ

 明治の初めごろに建てられたという祠も分厚い苔に覆われていた。黒く朽ちかけた観音開きの扉を開けて入ると、中は薄暗く腐った木の臭いだろうか、異様な臭いがこもっていた。

祠の中には木符が散乱していた。墨蹟は見えたが判読できるものは一片もなかった。雨乞いの祝詞だろうか、折りたたんだ和紙の残欠が何枚もあった。手に持つと砕けるように崩れていった。

歩くと抜け落ちそうな床を隈なく探したが、期待していた修験者の鉈彫りの彫像は一体も無かった。日本中にどれだけの聖がいたのか、その数は未だに分からない。でも私度僧(しどそう)と呼ばれた無数の修験者が各地の山里で、僻地の村里で、庶民のなかで生きてきたのである。  

円空もその修験者の一人であった。

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2017110日(火)、撮影・村 岡 信 明