シルクロードの砂漠で | 美術家 村岡信明 

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漂漂として 漠として  遠い異国で過ごす 孤独な時の流れ
これを 私は旅漂と呼んでいる


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ウズベキスタン、サマルカンド

シルクロードの砂漠で 



村岡 信 明



シルクロードの古都、サマルカンドからタシケントに行く国道は、今も数千年の昔から数多くのキャラバンが通りすぎた砂漠の中の道である。

私がウズベキスタンの古都、サマルカンドを訪ねたのは初秋の9月だった。滞在を終えて、夕方のバスに乗ってタシケントに向かった。国道といっても舗装されていない土道なので、バスは大きくバウンドしながらガタガタと左右にゆれるので、長時間の道中は苦行に近かった。

砂漠は起伏はあっても何もなくどっちを向いても地平線が続いている。陽が沈むとその地平線も闇の中に消えて暗黒の世界に変わる。

やがて東の地平線がぼんやりと明るくなってきた。明るさが増すほどに空はセピア(濃い茶色)に変わっていく、アフガンスのせいだ。

砂漠では毎日のように砂嵐が吹いて何も見えなくなる。砂嵐は収まっていくが、空に舞い上がった砂は全部は地上に落ちてこず、目に見えない微粒子の砂はそのまま中空に漂っている。この砂嵐をアフガンスと呼んでいる。

バスの車窓から見える黒い地平線に、大きな満月が昇り始めた。満月はアフガンスのもやに包まれてセピアの濃淡まだら模様で、どこか不気味さを感じさせるような深い神秘性を持っていた。

その頃、日本でも仲秋の名月が中天に昇っていたであろう。

           ♪ ♪

薄暗いバスの中は、すべてがイスラム文化であり異宗教に包まれていた。黒い布で顔を覆って、目だけを出した女、白い髭を胸まで垂らした男、華やかな色彩の流れ模様の民族衣装を着た女たち、などさまざまな乗客たちが乗り合わせていた。喋る人も無く、ただ黙々と激しく揺れるバスのなかで、同じ運命の時を共有していた。

4時間ほどかかってタシケントに着いた。ホテルの部屋にもどってもまだ体が揺れているようだった。倒れる様にベッドに寝たが、眠れないので、深夜のテラスに出てみると、砂漠の光景は一変していた。満天に星が煌めき、手でつかめそうなほど近くに見え、満月は澄んだ濃紺の中天で、まぶしいほど照り輝いていた。

その透明さは、宇宙船地球号に乗って、果てしない宇宙で満月を眺めている錯覚さえおぼえるほどの美しさであった。


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