六本木一丁目駅から至近距離にある泉屋博古館分館は、
住友家のコレクションを擁する美術館。
もう10年以上前になりますが、初めてこちらを訪れたとき、
開催されていたのが青銅器展でした。
これまで見たこともないような不可思議な文様のついた青銅器がずらり、
なんとも壮観でした。
当時はロビーに住友家の歩みを書いた説明ボードが掲げられていて、
この住友という財閥が、もともとは別子銅山に端を発した有力者であったことが
大々的に書かれていました。
そこで青銅器の展示となれば、なるほど、住友家の人々は、
銅つながりで草創期のころから青銅器収集を行ってきたのかもしれないなぁ、
などと思っていました。
(実はこれは誤解だったことがこのほど判明するのですが。)
その後時々一大コレクションである青銅器の展示はたびたび開催され、
このほど神々のやどる器―中国青銅器の文様―展として
再び戻ってくることになりました。(すでに開催中、12/24まで)。
先日本展覧会の内覧会に出席し、関係者の方に直接確認させていただいたところ、
住友家は、長年にわたりこつこつと銅製品を収集してきた、という私の想像が
誤りだったことに気づきました。
第15代の春翠氏(*)の時代に一気に買い揃えられたのだそうです。
(*1865-1926年:西園寺公望氏の弟で、住友家に養子に入った人。
この方の時代に収集した美術品がメインとなって泉屋博古館のコレクションが
形成されています)
というのも、それまで中国の清朝が自国の青銅器をがっちりと守り
国外からの購入は難しかったという社会的事情もあったようです。
たまたま、春翠氏の時代になって、清朝も経済的にひっ迫したのかどうか、
とにかく売買が行われるようになり国外へ流出するようになったとのこと。
世情を味方につけてこそのこの一大収集だったのですね。
展示されている、精緻な青銅器群は、祭祀用であり
実用品ではありません。
先祖を手厚く祀ることで祟りを防ぐといった意味合いがあり、
ゆえに吉祥模様が見受けられます。
先週末には夫とともに本展を再訪したのですが、
夫は青銅器展といってもこれほど大々的なものとは思わなかったらしく、
「すごい数だねぇ」などとびっくりしていました。
時代は中国・商時代、大体紀元前14世紀ぐらいから紀元前12世紀にかけてのものが
数多く見受けられます。
その古さのわりにこの精巧さ。
技術力の高さに舌を巻きます。
*写真撮影は内覧会で許可を受けました。
こちらは、トラのような神様に人間が抱きついている、守られている?
作品。愛嬌たっぷりです。
11世紀あたりの西洋の中世美術の彫刻にこうした
お茶目な人物像を見かけます。
でも、こちらの方は紀元前ですからね。
《 虎卣(こゆう)》商時代後期 前11世紀
(参考;数年前に訪れたイタリア・モデナの大聖堂にて・12世紀頃)
《 虎卣》の後ろ側。
頭部にロバのような四つ足動物がいて、取っ手の下にも牛のような顔が見えます。
真後ろには象の鼻のようなもの。
つまり、いろんな動物があちこちに隠れていて、
細かい模様に見とれながらも動物探しが楽しめる仕掛けです。
こちらの《蛙蛇文盤(あだもんばん)》 春秋前期は、
模様的には他よりシンプルともいえますが、泳ぐ蛙は見ていて飽きません!
こちらのみみずくも、表面に複雑な模様が入っていて、
よく見ると足の部分には鳥が描かれています。
いや描かれるというのは不適切でしょうか。
これらは彫り物ではなく、鋳造品なので。
《戈卣(かゆう)》 商時代後期
これまでこの類の祭祀目的の青銅器は、饕餮文(幾何学的な動物の文様)が
なかなか読み取りにくいなぁという印象がありました。
初めて訪れた青銅器展には、解説があって、饕餮文の説明も書かれていたのですが、
どの模様がどんな動物に相当するのか、パッと見ただけではわかりません。
でも今回並んでいた作品には、饕餮文だけでなく、
親しみやすくわかりやすい動物を表したものが多々あり、
しかつめらしいことを考えず、ストレートに楽しむことができました。
動物も想像上のものから実物、あるいは折衷など、多種多様。
豊かでおおらかな発想を満喫してきました。
《日癸罍(にっきらい)》 西周時代前期
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展覧会名: 神々のやどる器―中国青銅器の文様―
会場 : 住友コレクション 泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
会期 : 2018年11月17日(土)~12月24日(月・祝)
開館時間 : 10:00~17:00(入館は16時30分まで)
休館日 :月曜日(12/24は開館)
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/index.html