今話題の武井咲さん主演のテレビ朝日系列で放映中の「黒革の手帳」。
武井さんは、粋筋の女を演じるには初々しすぎるのでは?
などと事前には思ったのだけれど、
想像以上の好演で、いやはや堂々たるママぶりである。
ところで、松本清張氏の原作とテレビドラマを比較してみると、
名前を含め、原作には忠実な方だという印象を持った。
その一方で、ある決定的な違いがある。
正確に言うと、一見とても小さな違いなのだけど、
先のことを考えると劇的な違いを生み出すであろうという差異だ。
それは -- 楢林クリニックの設定だ。
ここでは美容クリニックになっている。
ところが原作では、婦人科病院。
マイナーな変更のように見えるけれど、
この違いは、物語の結末を大きく左右することになる。
小説では、楢林は絶対に婦人科の医師でなくてはならない。
ということは、ドラマでは、エンディングを大幅に修正するのだろう。
ここで以前放映された米倉涼子さん主演のTV番組「黒革の手帳」の概要をチェックしてみた。
同様に美容クリニックになっていたようだ。
ということは、武井版「黒革・・」は、米倉版と同じような内容に落とし込むと思われる。
つまり、松本清張が描いた主人公元子のあまりに悲惨な末路を少しだけ和らげて、
異なるかたちでそれ相応の報復を受けることになるのだろう。
(また、江口洋介さん演じる安島富雄も、
小説よりも「いいひと風」になっている。
原作のエンディングでは、元子は安島のことを
いまいましい人物として吐き捨てるように語っている。)
この原作のエンディングは、凡人の予想の遥か斜め上を行っており、
あっぱれとしか言いようがないのだけれど、
確かに原作通りの結末はテレビ向きではないかもしれない。
それほど松本清張氏の筆は、いつものごとく冷たく冴えわたり、
背筋が凍えるほどのホラー仕立てになっている。