1959年、ジャンリュック・ゴダール監督がメガホンをとったフランス映画「勝手にしやがれ」を
フランスで買い付けて、しかも「Au bout de souffle.(息切れ)」というフランス語タイトルを
「勝手にしやがれ」なんてマジックのようなモダンな日本語にして
大ヒットさせたのは、日本人女性だった。

当時 映画配給会社に勤務していた若手・秦早穂子さんだ。

戦争体験の辛さから、本物だけを見つめる目を養い、
それが映画の選定の場に生かされた。





先日そんな秦さんのトークを拝聴した。
予算、いい映画とは?、ヒットするかどうか、様々な要素を総合して
限られた時間内で買い付ける映画を決めていく。

通常、日本語タイトルを付けるのは上司と決まっていて、
ネーミングの際、彼女の出る幕はないのだけど、
この映画だけは、直観でこのタイトルしかない、と上司を説得した。

(このタイトルに関してはネット上では諸説あるように書かれているが、
秦さんは、このタイトルは私が直観で決めたもの、
と言い切った。)



(右が秦さん。聞き手は作家の山口路子さん。

その前にプルースト研究者の芳野まいさんのお話しもあり

そちらも興味深かった)。


その「勝手にしやがれ」が、同じくゴダール監督の「気狂いピエロ」とともに
デジタルリマスター・寺尾次郎氏の新訳でよみがえり
現在公開中。

http://katteni.onlyhearts.co.jp/

上記のトークも、この映画の再リリースに際して行われたものだった。


トークには、「勝手にしやがれ」の主演女優ジーン・セバーグの話も登場。

アメリカ人の彼女のたどたどしいフランス語が
ゴダール監督の狙いのひとつだったという。

つまり、ネイティブでないことから生じる誤解や
食い違いなどひっくるめてニュアンスを出そうというのが
監督の趣旨だったそう。

そして、彼女の実生活における悲劇にも触れられた。
ヌーベルバーグの騎手としてその名を高めたものの、
その後、徐々に精神を病んで早世してしまう。


そういえば、4年前、モンパルナス墓地で
彼女のお墓を偶然目にしたのを思い出した。

朝6時にパリについてしまい、
早朝見られるものを求めて墓地に行ったのだった。

こぎれいだったが、意外に簡素な墓地だった。





そこにあるとは知らず歩いていたら、
写真があったので気が付いた。





映画人の写真だ、と思って足を止めたら、
Jean Sebergと書かれていた。
1938年 - 1979年。
享年40歳。





それに比べて、「気狂いピエロ」でジャン=ポール・ベルモンドと共演した
デンマーク人女優 アンナ・カリーナは現在75歳で健在。

ロミー・シュナイダーやセバーグが
早く身持ちを崩したのとは対照的に、
カリーナの方は健全に過ごしている、そんな話も出た。

映画としては、カリーナが出演した「気狂いピエロ」よりも

「勝手にしやがれ」の方が成功だった。

 

けれど、長い目で見た成功は、短期的な成功とは別物である、

などということをしみじみ感じた。