仕事ができて
子供もあやしてくれて
あたしの趣味(ヲタ活←)にも嫌な顔一つせず見送ってくれる。
顔も人前に出すには恥ずかしくない←
文句無しの旦那がいるのに。
あたしはこの人と我が子の笑顔を見てるだけで

幸せなはずだった。
なのに。
いつからだろう。
あたしがこんなに汚れてしまったのは....
結婚したことも、子供が生まれたことも
あの人は知ってるはずなのに。
8年経った今でも新着メールの通知が届く。
開かなければいい。
あたしがアドレスを変えたらいい。
こんなに今幸せじゃない?
___________
8年前。
あたしとあの人は恋人同士だった。
まだ学生だったあたしたちは。
当時、カップルだらけのまわりに流されて。
相手がいることがステータス。
そんな見栄えだけの付き合いをしていた。
でもそう思っていたのはあたしの方で。
あの人は違っていたみたい。
3年が経ってお互いの環境も変わった夏の終わりに。
あたしから。さよならした。
嫌いになったわけじゃない。
でももう学校も卒業して
見栄えを気にすることもなくなった。
ただただそんな理由で。
その時のあの人は
「そう。あんたがもういらないっていうんなら
しょーがねぇな。じゃね。」
あっけなかった。
あたしたちはそれくらいの仲だったのか.....
それからあたしは別の人と
付き合ったりもした。
バイト先の先輩の翔さん。

人と付き合うのがうまくて
店長からも絶対的な信頼を置かれていて。
シフト管理もしていたから
よく同じ日に組んでくれたりして←
一緒に働いて一緒にいる時間を
大切にしてくれる人だった。
それから友達のお兄ちゃんだった
潤くん。

妹に見つからないようって
いつも会うのは町中じゃなくて
裏山の林の中←
植物に詳しくてきらきらした顔で
葉脈とかを語るの、
きらいじゃなかったなー←
そんな中今の旦那と出会ったわけで。
結婚式の二次会に来ていた幼なじみの
雅紀が飲み過ぎたのか
こんなことをあたしに言った。
「学生ん時お前和也と付き合ってたでしょ?
あいつねー。お前のこと相当好きだったみたいでさー。
3年くらい付き合ってたよな?
そん時の花見で呑んでる時にあいつ、
結婚考えてるとか。(笑)
んなこと言ってたぜ?
あいつ、そんなこというやつじゃないじゃん?
俺笑っちゃってさー。
でも。
そう言ったあいつの目。
真剣だったよ。
でも秋になる前には
終わっちゃってるからさー。
びっくりしたよー(笑)
あー!飲み過ぎた!!へへ!!!」

そんな話。
あたしは一回も聞いた事なかった。
ましてや
好き
とか
愛してる
も
ろくに口にした事ないよね?
あたしはこの日、結婚式を挙げたんだよ?
名字も変わって『妻』になったの。
今更あの時の和の気持ちを知っても
もう戻れないんだよ......
そんな気持ちも
子供が生まれて子育てに追われて。
家事をこなしてく毎日の中でいつしか消え去っていた。
___________________________
でも。
何もかもがうまくいきすぎていて。
なんだか物足りないの。
「刺激」を求めてる自分がいる。

だから開いてしまう。
返信してしまう。
顔が見たいなんて思って軽い気持ちで会ったが最後。
抜けられなくなった。
8年の月日が和を立派な大人の男に。
成長させていた。

あの頃にはカケラもなかった魅力が。
あたしが求めている刺激を。
和は与えてくれるの。
旦那に嘘をついて、特別な日にしかつけないような
甘い香りの香水を体に纏わせて。
いつもより強めに髪をカールさせて。
あたしはあの人と会って体を重ねる。

妻として、母としての自分を忘れて。
一人の女としていられる時間。
優しく抱いてくれる「和」の手は
いつも暖かくて。
優しくて。
でもどこか
切なくて冷たいの。

このままの関係を続けて、お互いいいワケない。
そんなことはカンケイをもってしまった時点で。
分かってる。
週末のお昼を家族3人で過ごしてる何気ないこの時間。
笑い声が部屋いっぱいに響いてる。

あたしがこのままだったら.......
この家族が悲しむ顔なんて見たくないよ。
もう会わない。
そう思って携帯が鳴ってもメールを開かない。
きっと中身は
「そろそろ会いたくなってきたでしょ?
んでも俺も色々忙しいのよ?
モテる男はつらいわー。」
なんて
いつものような俺様的な上から目線の内容だろう←
ここで負けるな!あたし!!
1ヶ月未開封のままのメール。
少しだけ気持ちが落ち着いてきた
子供を寝かしつけた昼下がり。
携帯から着信音が鳴る。
普段人から電話なんて滅多に来ないあたしは
うとうとしていた体がびくつく程驚いてしまった。
かけてくるなら旦那くらいだけどこの時間は仕事間っただ中なはずー。。
ディスプレイに目をやると
和の名前。
「ちょっ.....なんで。電話なんてかけてこないくせに。
でも。こ....え.....聞くくらいなら、、いい.....かな。」
なんて
いつもの誘惑に勝ってたあたしの心は
新しい誘惑には一瞬で負けてしまった。
(だめだな。あたし。)
「もしもし。」
電話の向こうから和のいつもの透き通った声が聞こえてきた。

「あ(笑)やっぱりね。出たでた。あんたさ、メール。見てんでしょ?
この電話にでたってことは俺に会いたくなったんだ?
っと分かりやすいわー。」
くそう←
あたしが離れていかないっていう確信でもあるの?
何もかもお見通しのようなその言葉が
久しぶりのあの声が
むかつくんだけど
心地よかったりしてしまう←ドMかw
結局関係は終われないまま。
1年が経って
バレンタインの時期がやってきた。
家でふんふんと鼻歌なんか歌いながら
旦那と和の分のデコレーションマフィンを
つくって。
キレイにラッピングまで施したものを2つ並べて。
「あたし何やってんだろ..........」
毎年あたしの手作りを楽しみにしている
旦那の顔が浮かんで。
今日仕事に出てく時はいつもより
ちょっとだけ浮かれているのを知っていた。

これを渡したら。本当に最後にする。
『和へ。
今日19時にいつもんとこ来てくれる?』
『はいはい。
もう我慢できなくなった?(笑)』
読んで恥ずかしくなるような内容を
和は平気で送ってくる。←
返信はせずに受信画面を閉じた。
旦那が帰ってきて作ったマフィンを渡すと

顔がこのままふやけちゃうんじゃないかっていうくらいの笑顔で
「ありがとう!」
って。こんな太陽みたいに笑ってくれる旦那を見て
幸せを感じる心の片隅で
胸が締め付けられるように
ぎゅうううって痛くなる。
今までにない決意を抱いて。
子供の面倒を旦那にバトンタッチして
あたしは友達の分を渡しにいってくるなんて
バレンタインの夜にわざわざ出掛けるなんて
普通の旦那なら絶対怪しむような嘘をついた。
それでも
いつものほわほわした眼差しで。
何の疑いも持たずに
「喜んでくれるといいね。
でもすげーうまかったから絶対喜んでくれる!
うん!!(笑)
お友達によろしくねー。
なんか雪るみたいだからきをつけて帰ってくるんだよー?」
と手をひらひら振って
大好きな絵画の本を開きながら見送ってくれた。

そう。あたしはこの家に
心もちゃんと帰ってこなきゃ。
絶対言うの。今日こそは。
旦那に嘘をつくのもこれで最後!!!
いつもの場所に止まっている車に乗り込むと
いつもの優しい顔の和が微笑む。

「さみぃから早く閉めろよ!(笑)」
(この笑顔が見られるのもこれで...)
なんて考えてぼーっと顔を見てたあたしに
和が言う。
「久しぶり。あんたの会いたがってた和くんですよー。」

くっ.......!!!!!
どこまでも上から目線!
しかもこの女子よりかわいいのが
ほんと腹がたつ!!!!!!←
調子狂わせないでよ............
別れを決意しているあたしの顔は
少し引きつっていたようで。
和はすぐにそれに気づいた。
「なによ。いつもの顔と違うけど?」

「へっ....??そ、そんなことないよ、
今日仕事でね、、ほら。疲れが出てるのかも!!」
(感づかれたか!?)
と慌てて口から嘘がでる。
「そ?旦那と喧嘩でもしたかと思ったわ。」
とあたしの顔を覗き込んでいた体を
シートに戻した。
(ほっ。違うのか)
「してないよー。至って平和ですので!」
「あそ。」
たわいのない話をし始める和の横顔を見つめながら。
言うタイミングを伺っているあたし。
「ね、今日バレンタインでしょ?
何を用意してくれたのかな?」

こいつww
用意は前提なのかい!
これを渡すタイミングだな。
........よし。
「これ。作ったの。
初めて作ってみたやつだから
味は保証しませんけど!←」
て言ってきらきらのパールみたいのでデコレーションしてある
マフィンは大きいのもあれば小さいのも入った袋を差し出す。
不器用なあたしなりの、手作り感満載の出来栄え←
「んだよ、これ(笑)食えんの?」

いつもなら
「はぁ!?あたしが愛情込めて作ったもんが食べられないとでも!?
そんなん言うなら返してよー!自分で食べるから!」
なんて言って
「わぁーったよ(笑)
うまそーだって。
ちゃーんと全部美味しく頂きますよー。」
って食べるのだけど今日は。
「そうだよね。
食べれないならいいよ。
捨てるも返すも好きにしてね?」
言ってしまった........
ろくに喧嘩もしてこなかったあたしたち。
こういう時和はどんな顔をするんだろう。
それを見るのが怖くて
あたしは目の前のグローブボックスを見つめたままでいる。
でもそこからでも
和の上がってた口角が下がり、目線がマフィンからあたしに
移るのが横目でわかった
「は?なにそれ。」

「なにって?食べられないと思ったんなら
その2択でしょ?」
「ちげーよ。
.......違うだろ。」

「........これでね。こうやって会うのは
最後にしようと思ってる。
和といるのはほんとに楽しいんだよ。
子育ての疲れとか、家事の事とか全部忘れて。
和の話聞いて顔が痛くなるくらい
笑ってられるこの時間がすごく好き。
.......あたしが結婚した時にね、幼なじみの雅紀、
覚えてるでしょ?
聞いたよ。
結婚......
考えてくれてたの?
そんな話、これっぽっちも
してくれなかったじゃない!
あたしは3年も一緒にいて
何も変わらない和に嫌気がさしてたのもあったの。
会う度に必ず持ってくるゲーム。
やりだしたら会話なんてほとんどなくて。
一緒にいる意味が分からなくなってた。
でも.......一言でも。
言ってくれてたら......
今頃..........
和が一人で考えててもわかんないんだよ!
このままじゃ。
既婚者のあたしが
心の拠り所にする場所は
ここじゃだめなんだよ。
だから、
と顔をあげて和の方に目をやった瞬間。
和の唇が重なった。
それはいつもしていたものとは違う。
今までで一番力強くて強引なキス。
和の両手であたしの体は和に引き寄せられる。
その拍子にマフィンが袋から落ちて運転席の足下に転がった。
(ちょ...!!!!!)
体は愚かで。
全身の力が抜けて一瞬負けそうになった。
でも。
あたしは両手で和の肩を掴んでその体を離した。
「ごめんね。」
これ以上一緒にいたら......
別れると決めていたはずの心が
揺れ動くのが分かって
あたしは慌てて車を出た。
振り返らないように
必死に走った。
邪念を振り払うように。
昔からあたしはわがままだった
一方的になんでも決めて
寂しい思いをたくさんさせてきたのは
あたしの方だったんだよね
最後までこんな女でごめんなさい。
降っている雪の冷たなんて
これっぽっちも感じなかった。

その日から1年。
またこの時期がやってきた。
あれから和からの連絡はない。
今だにふと思い出して
メールの受信画面を見てみたりする日もあるけど。
あの時
和が何も言わずに口づけをしたあの時。
分かってたんだよね?
和も全部。
身を引く覚悟はいつもしていたんだと思う。
最後に唇が触れ合ったその時。
すべてを悟った気がしたの。
これでよかったのよね。
今頃和も愛する人と出会って
その人の前で笑っているかもしれない。
俺様ぶりを発揮しているかもしれない←
あたしはこの笑顔を見られるだけで。

今年もあたしの手作りバレンタインを
楽しみに帰ってくる家族がいるから。

しあわせなんだよね?