ライムの香りが、記憶の扉を開くとき ─香りが包む、始まりと終わり─【scent.006】 | AROMACLE ❤︎ Aroma Sense Healing Journal

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ライムの香りが、記憶の扉を開くとき
─香りが包む、始まりと終わり─

その香りは、不意にやってくる。

ほんの一滴の、ライムの精油

いつもの朝、いつもの洗面所。
でもその香りが、
まるで古い引き出しの鍵を回すように、
あの日の午後の記憶をそっと呼び起こした

代官山の夏。

彼とふたりでよく通った...
メキシカンレストラン「ラ・カシータ」。

白壁とカラフルなタイル、風が抜けるテラス席。

炭酸もお酒も苦手だった私に、
彼が教えてくれた、初めてのビールの飲み方

テカテ──
缶ビールの縁にライムを擦りつけて、塩をひとつまみ。

キュッとライムを絞って、そのまま缶に押し込む。

最初は戸惑ったけれど、
ライムの香りがビールの苦味を和らげて、
飲みやすくなっただけじゃない。

その香りが、私の中の何かをほどいた。

「たまに…枠を飛び越えていいんだよ」と、
彼がそっと背中を押してくれた気がした。

そして──

それからしばらくして迎えた、ふたりの最後の夜。

選んだのは、偶然なのか必然なのか、
同じ「ラ・カシータ」だった。

目の前にいたのは、
もうすぐ手放すことがわかっていた、
最後の彼。

でも、グラスの縁には、またライム ──

塩を振って、静かに乾杯して、
その香りだけが、ふたりの間にやさしく残った。

不思議だった...

涙が頬を濡らしていても、
ライムの香りは、あの夏とまったく同じ…
彼への気持ちを思い出させる香りだった

あれから季節がいくつも巡って、
私はもう、彼のいない暮らしにも慣れている。

そして今…
ライムの香りを嗅ぐたびに思い出すのは、
あのときの私が、少し自由になった瞬間。

香りが、愛した人の記憶を連れてくることもある。

でもその香りが、
今の私を少しやさしくしてくれるなら...
それも悪くない。

ライムの香りが、また新しい記憶にもそっと火を灯してくれますように。

また、新しい風が…どこかではじまる——。

そんな予感に包まれて...

ライムの香りは、
あなたにどんな記憶を残しますか?