朝から走っていた。時間がない。


「あぁ。なんでこんなことに。」


それは、早く起きないからだ。わかってるんだよ。でも、お布団が俺を離してくれなかったんだよ。


やっと見えてきた門をくぐって一係に飛び込む。


「おはよ!間に合った。」


ボスの姿が見えなかったので、遅刻ではないよね。


「間に合ってないぞ。」


すぐ後ろから聞こえた声に首をすくめる。ボスが後ろに立っていた。


あちゃー。バレちゃったか。朝から大目玉食らっちゃった。


今日の聞き込みはジプシーと一緒だ。運転を任せて助手席でくつろぐ。

と、何やら隣から視線を感じる。


「どうした?」


声をかけると同時に運転しているジプシーに目をやる。


「今日はギリギリまで寝てたんですね。」

「なんで分かった?」

「寝癖がついてますよ。」


クスッと笑われてしまった。

マジで?慌てて髪に手をやる。乾いた髪は直らないけど何とかはねた髪を押さえ込む。


「大丈夫ですよ。はねててもかっこいいですから。」


一瞬手が止まった。え?なんて言った?かっこいいって言わなかった?

照れるなぁ。分かってるけどさ。って、止めてくれよ。恥ずかしいじゃないか。


そんな俺の葛藤を気づいてるのか分からないまま現場についてしまった。

車を止めるとジプシーはさっさと聞き込みに行ってしまった。残された俺はとぼとぼと反対方向に歩き出した。


「なんだよ。たまには一緒に歩いてくれたってバチは当たらないよ。」


文句を言いながら聞き込みを続ける。


15分後、有力な目撃証言を得てジプシーと合流する。


「やりましたね。ドック。」

「これで犯人逮捕に1歩近づいたな。」


さっそく七曲署に戻ってボスに報告する。

その後、やれやれと席に座ってなーこと話し始めると、目の端にジプシーの姿が見えた。相変わらず書類を書いてるな。また始末書か?

懲りないやつ。


そういえば、俺ってなんかジプシーのこと気にしてる気がする?気のせいかな?

気のせいだな。きっと。



ジプシーの第一印象は最悪だった。新しく配属された署なのになじもうともしない。愛想もないし、可愛げがなかった。

まるで人を警戒する野良犬のようで手を出したら噛みつかれそうな感じだった。

今でもまだ飼い犬みたいな可愛らしさはないけどな。と、心の中でつぶやく。



その晩は早く仕事をあがって若手の刑事で飲み会。ジプシーも誘ったら来たので楽しくなって飲みすぎてしまった。


「ドック、飲みすぎですよ。」


ジプシーが肩を貸してくれて店を出る。でも、俺それほど飲んでないよ?その割に足がふらついてんだけど。なんでかな?


歩いて帰れるからと1人で歩きだすが、心配したジプシーが付き添ってくれた。

なんだ、可愛いとこあんじゃん。


少し風に吹かれながら歩いていると酔いも少しさめてきたようだ。


「もう一軒行こうか?」

「ダメです、ドック。帰りますよ。」


腕を取られて引きずられるようにアパートまで連れていかれた。

なんだよ、いい気分なのにな。


「それじゃ、俺はここで。」


玄関を開けたところであいつがそう言った。せっかくの楽しい気持ちをもう少し感じていたくて引き止める。


「ビールあるから飲んでかない?」

「明日も遅刻しちゃいますよ。お給料引かれてもいいんですか?」


そりゃまずい。


「じゃ、お前が横で起こしてくれればいいんじゃないか?」


我ながらナイスアイデア。冴えてるぞ、俺。

って、なんだか変な顔されてるんだけど、変なこと言ったっけ?


「俺っ。ここで失礼します。」


あれ?慌てて帰ってしまったよ。

仕方ないから1人寂しくビールを飲んでお布団に潜り込む。冷たいお布団がしばらくして人肌になるころにウトウトしてきた。また朝になると俺を離してくれないんだろうな。お布団よ。

でも、誰かの温もりを抱きしめて眠りにつきたいなって寝ぼけた頭で思いながら意識を手放した。


そして最初に戻る?


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