捜査していた強盗の容疑者が富山で別件で逮捕されたことからジプシーとラガーが犯人を受け取りに行った。

本当は俺が行きたかったんだが、ボスから指名があったふたりが行くことになっちゃった。
いいなぁ。
今頃お昼ご飯で海の幸を食べてるんじゃないかなぁ。
電車の中でうとうとするジプシーの寝顔見たいなぁ。

そんな思いも事件の電話で吹っ飛んでしまった。

聞き込みなどに時間が取られてしまい、やっとの思いで署に戻ってきた俺は、机の上にハート形のせんべいが置いてあるのを見つけた。
そばにいたラガーがニコニコしている。

「おっ!もう帰ってきたのか。どうだった?」
「奴がやっと捕まってホッとしましたよ。」
「そうじゃなくってさ、美味しいもん食ってきた?」

ラガーは首を傾げている。

「それが、時間がなくて海鮮とか食べられなかったんです。」

せんべいをちらっと見ると、方言せんべいの文字があった。

「これはお土産?」
「そうなんです。方言せんべい【だいてやる】ですよ。」
「何?それ。抱いてやるって?」
「おごってやるって意味なんだって。」

2人でひとしきり笑ったあと、帰宅できることになったからアパートへと帰った。

次の日、ジプシーと2人で張り込みをしていた。

「昨日は富山で美味しいもの食べられなかったんだって?」
「そうなんです。残念でした。」

とはいえ、そんなに残念そうには見えなかった。普段からこいつあまり食べないからなぁ。

「じゃあ、今夜飲みに行かないか?」
「え?」

そこでジプシーが声をひそめた。

「ドック……」
「ん?」
「だいてくれますか?今夜。」

えっ?なんて言った?抱いてって言った?えっ?何?俺に言ったよな。

目を白黒させて言葉の出ない俺にジプシーが微笑んでいる。
やっと俺の気持ちをわかってくれたのか?今夜って言ったよね。でも、誘ってくるなんてこいつも積極的だなぁ。俺には心の準備が必要なんだけど。いや、せっかくその気になってくれたんだからこのチャンスを逃す手はない。

「今夜、いいのか?」
「ドックこそ、いいんですか?だいてくれるんですか?」

間違いない!しっかりと聞いたよ。聞き間違いじゃないよ。
ふわふわとした気分で言葉を返す。

「本当に抱いていいんだな。」
「えぇ。」

少し伏し目がちに答えるジプシーが可愛すぎる。早く夜にならないかなと俺の心はソワソワしてしまっている。

「そういえば、ドックはお土産のおせんべい食べていただけました?」

もうとっくに胃袋の中ですよ。と、そこで何かが脳裏に浮かんだ。なんだっけ?何か重要なことのような気がする。

ジプシーのニヤリとした顔を見た瞬間に全てを把握した。

「まさか、抱いてって……あれ?」
「もちろんそうですよ。」

全て思い出した。「だいて」はおごるだった!
そっとジプシーを伺うと、上機嫌だった。

「俺、おごるお金ないよー。割り勘でお願いします。」

一転して情けない声でジプシーに直訴する。

「ドックの百面相を見られたので、割り勘でいいですよ。」

楽しそうなジプシーの声が車内に響く。
やられたよ。完全に俺の負け。下心に付け込まれたな。
あれ?でも、もしかして俺の気持ちを知ってて試したんじゃないか?ってことは、案外脈アリだったりして。

自分のポジティブさに我ながら感心しながらも気分が上がるのを抑えられないのであった。

見てろよ、絶対に本気で抱いてくれって言わせてやるからな。
そう思う俺の気持ちを知ってか知らずか、ジプシーの横顔はいつものクールな表情に戻っていた。




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