今年も10月に入った。季節も進んで、気温が下がってきたなと思う。
若手の刑事たちの楽しそうな会話を聞きながら俺は始末書を書いている。その中で急に俺の名前が出てきてビックリした。
「あれ?確か原さんの誕生日は10月でしたよね。」
ラガーの声にふと顔を上げる。なんで知ってるんだろ?自分でも忘れていたのに。
「だって体育の日の後って言ってましたよ。」
さすが体育系のラガーらしい覚え方だ。
「で、10月のいつなんだ?」
ドックが聞いてくる。そんなことは覚えてもらう気なんてないからごまかす。ま、聞いたって忘れるだけだしな。自分でだって当日に覚えていたことすらない。
話が変わったことをこれ幸いに始末書に戻る。ドックの視線が気になったが、大した事じゃないだろう。
その話があった日から数日だったある日のこと。
たまたまドックと張り込みの車で同乗した時に急にドックが話しかけてきた。
「ちょっと警察手帳見せてみ。」
何を言い出すんだと思ったが、別に隠すこともないので上着の内ポケットから警察手帳を出して渡す。
表紙を開いて何かを見ていたようだが、あまり気にしちゃいなかった。すぐに返してくれたのでそのまま内ポケットにしまった。
さらに数週間が経ち、すっかり忘れていた頃にドックに屋上へ呼び出された。
「何か用ですか?」
「ああ、ちょっとな。」
いつものドックにしては歯切れの悪いもの言いだ。
なんだろうと思っていると、リボンのついた四角い箱を出してこちらに差し出してきた。
「?」
よく分からずに箱とドックを見つめる。
ドックは何故か顔を赤くして、早く受け取れと言わんばかりのジェスチャーをした。
箱を受け取ると、中を開けるよう促される。リボンを外し、箱を開けるとボールペンが入っていた。
え?これってものすごく書きやすいと評判の外国製のものだ。でも、なんでこんなものを?
不思議そうにドックを見つめる俺の視線に気づいたドックが口を開いた。
「いや、さ、今日お前の誕生日だろ?だから、プレゼントだよ。」
「でも、オケラのドックにこんなもの。高いんでしょ?いいですよ。ドックが使ってください。」
箱を返そうとするが、受け取ろうとはしなかった。
「俺の気持ちだからさ。受け取ってくれよ。」
「どうして?」
なんでドックが俺の誕生日を知っているのか?なんで俺にプレゼントなんだ?
謎だらけだが、返しても受け取って貰えないようだから、ありがたくいただくことにした。
早速ボールペンを警察手帳に挟み込む。と、表紙を開いたところで自分の写真とともに生年月日が記されていることに気づいた。そっか。だからあの時ドックは警察手帳を見せろって言ったのか。
チラリとドックを見やると、素知らぬ顔をしていた。
「ありがとうございます。大切にします。」
「お、おう。」
一係にもどり際、ふと思いついてドックに声をかける。
「来年のバレンタインデー、期待していてくださいね。」
あれ?ドックが驚いた顔をして、次に照れたような顔になり、そして去っていった。
ん?なんだか誤解されたような?ドックの誕生日だからって意味だったんだけど。
ま、いっか。