「先方はお前を指名してきた。」

急にボスが言った言葉に驚いた。まさか俺が選ばれるなんて思ってもみなかったよ。

西多摩署は最近凶悪事件が増えてきて七曲署へスカウトの話があるというのは知っていた。
俺はこれまであちこちの署を転々としてきた。1年経たずに異動を繰り返したものだ。引越があるから荷物は最小限。生活感のない部屋は寝に帰るだけだった。

七曲署に転勤してから色々あってドックと暮らすことになったことも意外だったが、まさか恋人同士になるなんて。この1年は本当に波乱にとんだ年だった。

打診を受けた夜中に、ドックの腕の中から抜け出してキッチンでココアをゆっくりと飲む。
どうしたものかと考える時間が欲しかった。
いまやドックとの時間は何ものにも変え難い時間となっている。

やっぱり断るべきか。ドックとの関係を断ち切る選択肢はなかった。

そっとドックの腕の中に戻る。ドックの腕が俺を抱きしめた。

「起こしてしまいましたか?」

小声で聞くと腕の力が強くなる。

「行くなよ。ずっと俺のそばにいてくれよ。」
「ドック……」

そしてドックの唇の感触を身体中で受け止めた。

翌朝。
いつもはなかなか起きてこないドックが1度も起こしに行かなくても起きてきた。

「珍しいですね。いつもは起こしても起きないのに。」

ドックはまじまじと俺を見て、急に抱きしめてきた。

「どうしたんですか?ドック?」
「行くなよ。俺をおいてかないでくれ。」

すぐにスカウトの話だとわかった。でも、急になぜ?

「お前がいなくなる夢を見たんだ。」

ギュッと俺を抱きしめながらドックが呟く。

「愛してるよ。」

ドックの甘い口づけを受けながら、なぜか行きませんと即答できない自分に戸惑っていた。
ドックと別れたくないのは本心なのになぜ?自分自身の心が分からないまま心の中が千々に乱れるのを感じていた。

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