(稲川淳二ボイスで再生してください)

 

 

大学生のときですかね。

バイト帰りの終電近く。

 

 

平日に加えて人もあんまりいない

駅のホームで電車を待ってると

右肘に違和感があったんですよね。

なんかサワ、サワと何かが当たる。

 

 

まあ後ろで電車待ってる人の

バッグが当たってるのかなぁ

くらいに思ってたんですよ。

 

 

でもずーっと

サワサワなってる。

なぁ~~んか気持ち悪いな~~なんて

思ってると

 

 

ガタンゴトン、

ガタンゴトンと

電車がゆっくりとホームに

入ってきた。

 

 

 

プシューッとドアが開く。

 

 

 

私は電車に乗ると同時に

後ろを振り返り、どんな人が

立っていたんだろうと

確認をしたわけですね。

 

 

我が目を疑った。

 

 

黒いジャケットを羽織り

インナーは黒タイツのような網のシャツ、

小脇にセカンドバッグを抱え

金のネックレスをつけた

肩にかかるほどの茶髪に小太り、

といえど身長は170前後の男が

ぬるっと私の後ろをついて乗ってきた。

 

 

ビビビ~~~っと

私は気付きましたね。

 

 

たとえば、

金田一君が殺人事件現場に

人を集め、この中に犯人が居る

とよくおっしゃるでしょう。

 

 

その中に血まみれの包丁

持った奴がいたら

どう思います?

 

 

こいつだ!ってなるでしょう。

今日は早く帰れるねなんて

金田一君も思うでしょう。

 

 

 

しかし、黒タイツでいかにも

それっぽいというだけで

犯人だと思うのもいささか早急。

思い過ごしかもしれない。

 

 

気持ち悪いなぁとだけ思い

私はそっと通路側の

手すりに捕まり

携帯をいじり始めた。

 

 

車内は平日もあり

比較的空いていたんですが

 

 

するとまたー

 

さわ、さわと

右肘に違和感を感じる

嫌だなー怖いなーと

私はそっと目を右に向けると

 

 

 

その男が不気味な笑みを浮かべて

私の肘を撫でるように触ってる。

 

 

 

うわっ!!痴漢だ!!

 

 

あまりのおぞましさに

私は声が出ませんでした。

 

 

やはり駅のホームの時から

私の肘に取り憑いていたんです。

 

 

よく女性が痴漢にあったとき

声が出ないと言いますが

まさにそう。

 

 

この得体の知れない

不気味な恐怖。

何が起きてるのかわからない。

 

 

しかし私は負けてはいけないと

目に力を入れその男をじっと

睨んだんですね。

 

 

すると変態は

私の威圧にたじろぎ

撫でる手を止め

ぶつぶつと何かを

言い始めた。

 

 

やだな~怖いな~と

耳をすませると

 

 

ビクビクと震えながら

「おまえが悪いんだぞ、おまえが…」

 

 

顔をうつむかせながら

しかし目線だけは私に向け

ひたすらと「おまえが悪い」と

言っているわけです。

 

 

 

こんな男に見覚えはないし

何をした覚えも無い。

その仕返しが肘を撫でる

意味もわからないわけです。

 

 

 

そしてだんだんと

その男の声が大きく、大きく

なっていく。

 

 

私は怖くなったので

次の駅で降りる事にしたんですね。

 

 

プシューとドアが

開いたと同時に

すぐさまホームへ降り立った。

 

 

しかしやられただけでは

私も気が済まない。

 

 

スッと振り返り

その男を指差し

 

 

「この人痴漢です」

 

 

周りもわけが分からなかったでしょう。

男が男に向けて痴漢宣言をしている。

まあ理解されなくても

そいつに一矢報いたかったんですね。

 

 

 

するとその男が

耳をつんざくような大きな声で

 

 

 

「言うなよぉおお!!!!!」

 

 

 

 

認めてくれました。

プシューっと閉まるドア。

次の駅までせいぜい気まずい空気を

楽しむんだな、

と笑みを浮かべた瞬間ですかね。

 

 

 

閉まるドアをガッと掴んで

痴漢が降りてきたんです。

 

 

 

あららー、まずいなー

と私は全身に冷や水をかけられたような

寒気に覆われた。

 

 

本当にあの時は

死を覚悟しました。

 

 

男は私をぎりっと睨み

 

「てめえ許さねえ!!もう警察だ!

 警察いこう!!」

 

 

 

あぁ~司法に出るんだ、と

安心しました。

 

 

しかしここで先に警察を呼ばれると

お互い証拠も何も無い状況

ある事無い事ふきこまれたら

かなり向こうが有利になるわけです。

 

 

 

なので駅事務室に

先に着いた方が勝ち。

 

 

ダダダーっと

私は走りました。

 

 

「助けて!助けて~~!!」

 

 

と叫びながら

事務室へ駆け込む。

 

 

どうなさいましたと

20代半ばあたりの駅員さんが

私の話を聞きにきます。

 

 

小太りが災いして、

痴漢は後から

事務室へ駆け込んでくる。

 

 

 

私は息を詰まらせながら

必死に今まであったこと、ようは

この人が痴漢だということを

説明したわけです。

 

 

駅員さん

 

 

笑ってました。

 

 

駅員さんは「警察呼びますか?」と

提案なさってくれたんですが

痴漢が全力で拒否しまして。

 

 

だったら何で降りてきたんだろうなぁ~と

思ったんですが私もその時は終電も近く

警察沙汰で帰れなくなるのも嫌だったので

 

 

結構です、とお断りしたんです。

そして時間を分けてそれぞれ電車に乗り

帰宅したわけですね。

 

 

ずいぶん後味の悪い結末に

なってしまいましたが

 

 

このような危険な男は

普通にあなたの近くで生活しています。

 

 

みなさんも

痴漢にはお気をつけて。

 

 

 

あと帰り道

お化けいました。