大は小を兼ねる。


この言葉の意味は


”大きいものは小さいものの効用をあわせ持つ”


ということである。


私は、選手によくこう言っていたものである。


”長は短を兼ねるが、短は長を兼ねない”


長距離の美学を説いて聞かせた。


大きな力の無い者であっても、努力を積み重ねれば必ず花が


咲く日が来る。


人の嫌がることを進んでやっていこう、こつこつと。


そう言って、遠い山に向かって歩を進めさせた。


辛い山道も、転げ落ちそうな谷沿いの道にも、時折、心を和ませ


てくれる景色に出会う。小川のせせらぎで喉を潤す。


疲れたら休めばいい。そして、また歩き始めればいいのだ。


最後の峠を越えたときの感動に向かって。


遠い山に登りつめたときに、それまで無かった力が備わっていた。


スピードの無かった選手にに大きなパワーが身に着いていた。


麓を出発して5年6ヶ月後、


1996年、3月 全国ジュニアオリンピック春季大会。


東京・辰巳国際水泳場。


田北誠は、400m、1500m自由形で大会新記録で優勝。


短距離のスピードが要求される200mでも大差で勝ち3冠を獲得。


大会のMVP、最優秀選手に選ばれた。


”大は小を兼ね、長は短を兼ねる”  が証明できた日であり、また


亀が兎に勝った日でもあった。