今からおよそ30年くらい前まで、水泳選手の競技寿命は非常に短


かった。


選手の年齢的なピークは男子であれば17・8才、女子は15・6才だ


ということがまことしやかに言われていた。確かに当時は世界でも、


10代のスーパースターがいた。男子であればアメリカのドン・ショラン


ダー、女子ではエンダーなど、日本でも緒方茂生選手は、中学生で


自由形の日本記録をすべて塗り替えてしまった。


全国ジュニアオリンピックをスタートした頃は、高校生の出場が極端


に少なく、15~18才のクラスにおけるほとんどの種目において、8人


以下のエントリーという状態で、タイムレースで行わることが多かった。


しかし、今はジュニアオリンピックの定着により高校生がスイミングクラ


ブに残ってがんばるようになり、現在では社会人の北島康介君や柴田


愛さんに代表されるように競技年令が随分あがってきた。これは非常


に喜ばしいことである。


他の競技に目を移せば、テニスのクルム伊達選手が一度引退しなが


ら高齢で現役復活をとげ、世界で戦っている。水泳でも、できるだけ


永く泳げるようなシステムがあれば、と思うのである。


私の身近な友人の中には、なんと30才を過ぎてからベストタイムが


出たという人間がいた。彼の現役生活は18才で終わっていたが、国


体、マスターズでトップクラスで泳いでいた。


1994年、教え子の入沢剛が中央大学からコーチとしてクラブに戻っ


てきた。私は彼にできる限り現役を続けるようすすめた。練習量を減ら


しても頭脳的に練習すれば現役のときのレベルを維持できるという考


えが私にあった。彼は個人メドレーの選手で前年アジアランキング3位


の選手であったが、私のクラブへ戻り、ベストタイムをマークし、全国社


会人で優勝、国体でも優勝争いを演じた。


2000年、日本短水路選手権・男子100m自由形において日本人初


の50秒突破の大記録で優勝した小笠原一彰選手は5年前に早稲田


大学を卒業し、高校の水泳部監督をしていた。


私は彼に直接聞いてみた。


「君、大学のときに100mをやっていれば、もっといけていたんじゃない


の?」


彼は意外な言葉を言った。


「いやあ、そんなことないです。大学の頃は毎日疲れてましたよ。」


現役を今、終えようとしている選手、または終えて間もない人、一度第


三者的に水泳を見ることをすすめたい。


要するに、半現役生活のすすめである


プレッシャーから解放され、疲れがなくなったとき、何気なく泳いだら、


思いがけず、ベストタイムがよく出るのである。


私には、小笠原選手の一言が大きなヒントになった。


同時に、私達指導者は、現役生活のあり方を見直すべきなのかも知れ


ない。


PS 小笠原一彰選手は現役時代、自由形中・長距離の選手だった。