あらすじ

 三十九歳の独身男性、手島 航(てしま わたる)は、四十歳を前にし、勤めていた国際物流会社を退職、自ら国際ハンドキャリー会社を立ち上げた。国際ハンドキャリーとは、人が荷物を旅客手荷物として旅客機に持ち込み、国境を越えて運ぶことをいう。航は、そんな国際ハンドキャリーを生業(なりわい)とする会社を立ち上げ、顧客から国際ハンドキャリーの依頼を受け、世界中を飛び回っていた。
 
 ある日、航は顧客からの依頼で香港へ飛び、当初の依頼から二転三転はあったものの、無事に荷物を届けることができた。そして、航の香港から日本への帰国の途、市街から空港へ向かうバスの車中、バスが無謀運転の車を避け、急ブレーキをかけたことで、航は首を酷く痛めた。ところが、航はその怪我の影響により、瞬間移動の特殊能力に目覚めた。
 
 それ以来、航の周囲には、磁石がものを引き付けるかの如く、航と同じような特殊能力を持つ者たちが現れ始め、今まで知り得もしなかった世界に引きずり込まれていくのであった。


主な登場人物

・手島 航(てしまわたる)……………… 国際ハンドキャリ―会社の経営者
・新垣 静子(あらがき しずこ)……… 国際ハンドキャリー会社の女性従業員
・瓦屋 長太(かわらや ちょうた)…… 国際ハンドキャリー会社の男性従業員
・寺山 正一(てらやま しょういち)… 香港の会社社長
・コウジ(港二)…………………………… 瞬間移動で現れた手島と同年代の男性




第一部

第二章 幽体離脱

二 幽体離脱・その一



――二〇一九年八月二十七日火曜日の朝六時過ぎ、航の自宅。

 航は目が覚めた。航の寝ていたベッドの左側はベランダになっており、その窓にかかる薄い遮光カーテンからは朝日が透け、その柔らかい日差しが心地良く感じられた。航は頭の上に手を伸ばし、目覚まし時計を手に取り、目の前へ持って来ると、午前六時五分を指していた。ベランダからの日差しが強くなかったため、そんな時間帯だろうとは思っていた。航は午前七時にセットしていた目覚ましを取り消した。航は意外にもスッキリと目が覚め、首の痛みはあったが昨晩程の痛みではなく、出勤できそうに思えた。

(これなら、なんとか、行けそうだな)

 ところで、航は、昨晩、正確には真夜中から明け方にかけて、奇妙な体験をしたことを思い出していた――。

(僕が、昨晩の夜中から明け方にかけて寝てた時、中でも特に夢見心地だった時、急に嫌な頭痛を感じ始めたかと思うと、その直後、なんと突然、金縛りに遭ったな。その時、僕の意識ははっきりしてたけど、体を動かすことはできなかった。僕は、十代の頃、ひどく疲れた時に金縛りに遭った経験があったので、その金縛りは鞭打ちによる痛みや疲れから起きたものだろうと思ってた。だから、放っておけば、またいつもの通り眠りに落ちて、金縛りも解けるだろうと、あまり気にしてなかった。でも、それから数分後、また、先の頭痛と金縛りに加えて、今度は耳鳴りも起きて、吐き気のする気分の悪さも感じ始めたなと思ってたら、一瞬、体がベッドに沈んだような感じがした。そして、体がベッドに沈んだと感じた直後には、体が一気に浮かび上がるような感覚に襲われた。例えるなら、胸ぐらを掴まれて、部屋の天井まで勢いよく放り投げられたような感覚だった。そして、僕はその感覚に襲われた直後、丸めたバスタオルを枕にして寝ている自分の姿が見えたんだ。つまり、自分が寝ている様子を、その傍で自分が見てたんだ。でも、真夜中だったから、当然、部屋の中は暗くて、僕は、自分が寝ている様子を、その傍で自分が見ているのは夢だと思った。普通に考えて、現実的にそんなことが起こるはずがないからだ。それで、僕は、夢なのか、現実なのか、どちらかよく分からなかったから、まずはこの状況をありのままに捉えようと思ったんだった――)

 航は、ベランダの窓にかかる薄い遮光カーテンから差す柔らかい日差しを受けたベッドの上で、仰向けになったまま目を開けて考えていた。

(まずは、寝ている自分を見ていた自分について思い出してみようか――。確か、その時は直前まであったひどい頭痛がなくなってた。金縛りで体が動かないということもなくなってた。しかも、耳鳴りも嫌な気分の悪さもなくなっていた。でも、意識ははっきりしていた。それで、意識のはっきりしている自分の視界からは、自分の手や足も見えて、部屋着の半袖Tシャツや短パンも見えてたけど、若干ぼやけて、透けて見えるような感じでもあった。でも、やっぱり、目の前には、明らかに自分自身と思える体がベッドの上で丸めたバスタオルを枕にして寝ている姿が見えてた――)

 航はベッドで仰向けになったまま、今度は目を閉じて考え始めた。

(じゃあ次は、寝ていた自分について思い出してみようか――。寝ていた自分は、ベッドの上で丸めたバスタオルを枕にして寝ていた。香港から帰った土曜日の夜は座卓の横でクッションを枕にして寝てしまってたけど、翌日の日曜日の夜からはベッドで丸めたバスタオルを枕にして寝るようにした。その翌日の月曜日の夜も同じようにベッドで丸めたバスタオルを枕にして寝た。ちなみに、丸めたバスタオルを枕にするまでは、海外の有名メーカーの偽物のような低反発枕を使ってた。そして、海外有名メーカーの偽物のような低反発枕はベッドとベランダの窓との隙間に置いてて、その様子も見えてた。しかも、寝てた僕の枕元には、充電ケーブルに繋いでいたスマートフォンと午前七時に目覚ましをセットしていた目覚まし時計もあった。僕の部屋はワンルームだけど小さな仕事用の机もあって、いつもはその机にノートノートパソコンやスマートフォンを置いて、そこで電源に繋いで充電していた。だから、普段は寝る時もスマートフォンは仕事用の机に置いてた。でも、僕は一応会社の代表者だから、緊急連絡を受けることもあって、就寝中に緊急連絡が入った時は、ベッドから仕事用の机までスマートフォンを取りに行って応答してた。その距離はほんの数メートルだけど、今の僕の首の状態ではすぐに起き上がることが難しいから、日曜日の夜からは、就寝時に、枕元にスマートフォンを置くようにした。その様子も見えてた。それで、僕は、丸めたバスタオルの枕とスマートフォンの置き場所から、寝ている自分は、今まさに寝ている自分だと思ったんだ。そして、その時、僕は不思議に思ったんだ。「今、寝ている自分を見ている今の自分は一体何なのか?」って――)

 航はベッドで仰向けになったまま、再び目を開けて考えていた。

(そして、一つの仮説を思い付いたんだった。この状態は、ひょっとすると、『幽体離脱』じゃないかって。そうだ、そういうことだった――)

 しかし、航は、まだその時は、自分が体験していたことが幽体離脱かどうかの確証は得られていなかった。理由は、当然ながら、幽体離脱を経験したことがなかったからだった。しかし、航が昨晩体験した様子を、今までテレビや雑誌等で見聞きした幽体離脱の状況と比べてみると、一致する点が多いように思えた。例えば、意識のある自分には体の痛みを感じられない点や、見えている自分の姿が就寝前の姿と全く同じだったという点だ。そのため、航はとりあえず、昨晩、自分が体験したことは、自分の中では幽体離脱だと結論付けた。つまり、それは、「寝ていた自分」が「航の肉体」で、「見ていた自分」が「航の幽体」ということだった。実際、航は、「見ていた自分」はフワッと浮いたような軽い感じを受けていたことを覚えていた。そして、航はふと思った。

(仮に、明け方の出来事が幽体離脱だとすると、三途の川を見たり亡くなった親族が現れるのかな?)

 今までのテレビや雑誌等の情報だと、幽体離脱が起きた時は、三途の川や亡くなった親族が現れ、川の向こう岸へ行くように言われたり、反対に「まだここへ来てはいけない」等と言われたりするものとされていた。しかし、昨晩、航の身に幽体離脱と思われる現象が起きた時は、そんなことが起きそうな気配はなかった。

(なぜだろう?)

 航はいろいろと考えているうちに、なんとなく理由がみえてきた。

(そっか――。それが起きるのは、臨死体験による幽体離脱の場合かもしれない――)

 一九九〇年代半ば、ビートたけしが原付スクーターで交通事故を起こし、顔面や脳に大怪我を負って病院に運ばれた事件があった。彼の回復後のコメントでは、「自分が手術されるのを客観的に見ていたような気がする」、「(前年に癌で亡くなった親友でアナウンサーの逸見政孝氏が臨死体験時に出て来て)逸見さんが『まだ死んではいけない』と言いに来てくれたのかもしれない」等という主旨のことを言った。そして、彼がそんな臨死体験をしたことで、テレビ番組の『奇跡体験!アンビリバボー』を始めたとも言われている。そんな彼のことを知っていた航は、三途の川や亡くなった親族が現れる時は、臨死体験による幽体離脱の場合だろうと思ったのだ。

 一方で、航は、自分の意識のある「見ていた自分」が「寝ていた自分」を見ていた時、「寝ていた自分」に掛かっていた薄い掛布団が呼吸のタイミングで上下に動いていたことを覚えていたため、「寝ていた自分」は死んではいなかったのだと考え、臨死体験による幽体離脱ではなかったのだろうと思った。そのため、三途の川や亡くなった親族が現れなかったのだろうと結論付けた。

(でも、それが確かだとすれば、昨晩、僕が体験したことは、こんな言葉があるのか分からないけど、純粋な幽体離脱なのかもしれない――)

 航がそのように理解した後、今度は別の疑問が沸いて出てきた。

(――だとすると、僕の幽体が僕の肉体を離脱した後、僕の幽体はちゃんと僕の肉体に戻れるのかな? そうだ、昨晩、僕に幽体離脱が起きてた時、僕の幽体がちゃんと僕の肉体に戻れるのか心配になって、その瞬間、目の前が真っ暗になって、さっきまで見えてた「寝ていた自分」が見えなくなって、その直後、急に重たいリュックを背負わされたような重みを全身に感じて、首にも鈍い痛みを感じ始めて、何が起きたのか分からないまま、とにかく目を開けると暗い部屋の天井が見えたんだ――)

 航はベッドで仰向けになったまま、明るい部屋の天井を見つめていた。

(そうだ、それで、頭の上の目覚まし時計を手に取って見ると午前三時十分頃で、目覚まし時計を元に戻して、何があったのかを考えているうちに、また眠ってしまったんだ。で、気付いたら、今だったんだ――)

 航はベッドの上を転がるようにしてベッドから降り、ベッドを背もたれにして床に座り込んだ。そして、また考え始めた。

(うーん、明け方の出来事は幽体離脱だったのかな、金縛りに遭って夢でも見てたのかな――)

 ベランダの窓にかかる薄い遮光カーテンから差し込む柔らかい日差しを受けた部屋の明るさが、却って航の明け方の記憶を薄れさせていた。

(いや、でも、確かにあの出来事は幽体離脱だったと思う。だって、幽体離脱が起きたと思った時、幽体離脱が起きたことを確認したんだよ。「見ていた自分」と「寝ていた自分」について確認して、それぞれの特徴がよく言われる幽体離脱と合致したんだよ――)

 航は考えていた。

(うーん、でも、それら全てが夢だったとも言える。なら、明け方の出来事が幽体離脱だったことを証明できるものはあるかな?)

 航は少し考え込んだ。

(うーん、――ないな)

 航は少し気落ちしながら、明るくなった部屋の中をぼんやりと眺めていた。すると、航は何かに気付いた。

(いや、ある)

 航は幽体離脱を証明できる方法を思い付いた。しかし、それはたいしたことではなかった。

(もう一度、幽体離脱が起きた時に確かめればいいか――)

 航は、再び、自分の身に幽体離脱と思われる現象が起きた時に、その現象が幽体離脱かどうかを確かめることを考えた。

(でも、そもそも、どうやって幽体離脱が起きるんだろう? 自分で起こした訳じゃないしな。普通に寝てたら勝手に起きたし――)

 航の身に起きた幽体離脱と思われる現象は無意識のうちに起きた突発的なものだったため、航はどうすれば幽体離脱を起こすことができるのか、方法が分からなかった。

(でも、確かめるったって、どうやって確かめればいいんだ。明け方と同じように、幽体離脱が起きて、ベッドの上で眠ってる僕の肉体が呼吸していることと、部屋の中の様子が就寝前と同じ様子だと確認ができれば、それが幽体離脱をしたことの証明と言えるかもしれない――)

 航はベッドを背もたれにして床に座り込んでいる姿勢から、立ち上がろうとしいていた。

(でも、自分で確認する限り、自分の夢だったという可能性は拭い切れないよな。だから、自分で確認するのではなく、自分以外の誰かに確認して貰うのが証明だよな。だからと言って、誰にどう確認して貰うんだ? そんなことを相談できる相手はいないし――。あ、就寝中に僕の部屋をビデオカメラで撮影するのはどうかな? あ、そっか、幽体はビデオカメラには映らないか――)

 航はしばらく考えてみたが、幽体離脱を起こす方法と幽体離脱を客観的に証明できる妙案が思い浮かばなかった。とりあえず、今晩、幽体離脱を起こせるかどうか試してみることにし、もたれかかっていたベッドを頼りに床から立ち上がった。

「よっ、と。さ、会社に行こうか――」


――その日の午前九時前、航の会社事務所。

 カチャ――。

 航が事務所に出勤してきた。

「新垣さん、おはようございます」

「あら、手島さん、おはようございます」

 航は昨日と同じように、首が動かないロボットのおもちゃのような姿勢で、来客応対用の小さなカウンターと応接用のテーブルとの間を通り抜け、瓦屋の机の後ろを通って自分の事務机まで歩いて行き席に着いた。すると、新垣が航に明るい感じで話かけた。

「今日は、首の調子はいかがですか?」

「おかげ様で、少し良くなりましたよ。まだ、ロボットですけどね」航は冗談めかして言った。


「フフフ、とりあえず、良かったですね」新垣は笑いながら言った。

「やっぱり、昨日の電気が良くなかったかも知れませんね」

「そうかも知れませんね」

「あ、そう、実は昨晩、ですね――」

 航は新垣に昨晩の幽体離脱の出来事を話そうと思った。新垣との信頼関係ならば、新垣はちゃんと航の昨晩の幽体離脱の出来事を聞いてくれると思ったからだ。しかし、その瞬間、航は考え直した。新垣がちゃんと聞いてくれるからこそ、ちゃんとしたことを話さなければ、余計な心配をかけてしまうのではないか、と。航は、昨晩の幽体離脱と思われる現象が確実に幽体離脱であることをはっきりさせてから、ちゃんと話した方が良いと思い直した。

「昨晩、何かあったんですか?」新垣が航に尋ねた。

「あ、そう、昨晩ですね、熱いシャワーを長めに浴びたら、結構、首の調子が良くなったんですよ」航は意外と自然な感じで話を逸らせたと思った。

「それは良かったですね! そういえば、手島さんは湯船に浸かられてますか?」

「そういえば、海外に駐在して以来、ほとんどシャワーで済ますようになりましたね。しかも、この時期は暑いですしね」

 すると、新垣は少し神妙な面持ちで話し始めた。

「まぁ、そうですよね。これも、私の知り合いから聞いた話なんですが、体温が上がると免疫が上がるので、お風呂でちゃんと熱い湯船に浸かるのが良いらしいんですよ。テレビとかではよく、ぬるい湯船で半身浴が良いみたいなことが言われていますが、本当は熱い湯船にしっかり浸かる方が良いらしいんですよ」

「へー、そうだったんですね。でも、なんか、分かりますよ」航はすんなりと理解した。

「血の巡りも良くなりますからね。私は、毎晩、四十度の湯船に浸かってるんです。夏でも。それをするようになってから、ほとんど風邪をひかなくなりました。風邪っぽくなってもすぐに治りますし」

「へー、すごいですね! 夏でも四十度ですか」

「はい、慣れると気持ち良いですよ。手島さんも熱い湯舟に浸かられると、鞭打ちが早く治るかもしれませんよ」

「へー、そうなんですね! 鞭打ちが早く治るなら、僕も今晩からやってみようかな」

「物は試しですよッ」新垣は笑顔で航を励ますように言った。

「そうですよね、やってみます。良い情報をありがとうございます」航は新垣に向かって、首が動かないロボットのおもちゃのような姿勢のまま軽く会釈した。

(話を逸らしたら、なんか、良い話を聞けたな。良かったのかな――)航は少し不思議に思った。

 プルルルルルルルルルル――。

 事務所の電話が鳴った。

「あら、電話だわ。まだ九時前なのに。営業開始は九時なのにね」新垣は笑顔で言った。

「申し訳ないです、よろしくお願いします」航は恐縮して言った。

 チャ――。

「はい、ハンドキャリーのエスマミです」新垣が受話器を取り応答した。

「あのぉ、台湾までのハンドキャリーの見積もりをお願いしたいのですが――」顧客からハンドキャリーの依頼だった。

「ありがとうございます。それでは、どういったお荷物をお運びで――」

その後、今週の台湾へのハンドキャリーが決まり、午前十時前には瓦屋が出勤してきた。


――その日の午後十二時、航の会社事務所。

 昼休みの時間。午後十二時から午後一時までが新垣の昼休みで、午後一時から午後二時までが航の昼休みだった。

「手島さん、今日のお昼は外で食べてきます。この前、散歩してたら、新しいイタリアンのお店が出来てて、一度、味見がてら行ってみたいと思ってたんです」

「あ、それ、向いのあのお店ですよね」

「はい、そうです」

「僕も気になってたんですよ」

「あら、そうでしたか。じゃあ、また、どんなだったか、お伝えしますね」

「ありがとうございます」

「では、お先に」

「はい」

 航の会社が入居するオフィスビルの最寄りに、最近、新しいイタリアンレストランが出店し、新垣はそこで昼食を済ませることにした。一方、航は午前中、休憩を挟むことなく業務をこなし、首に痛みを感じたため、事務椅子の背もたれを最大限に倒し、昼寝をすることにした。その事務椅子は、ちょうど上手い具合に頭のあたりまで背もたれがあり、首を休めるには丁度が良かった。航は、本来、今の時間帯は事務所のカウンター対応と営業窓口の電話番をしなければならなかったが、昼休みの時間帯は来客や電話がほとんどないため、昼寝をすることにした。また、来客ならインターフォンが鳴らされ、電話も鳴るために、特に心配はなかった。

 航は事務椅子の背もたれにもたれかかり、しばらく目を閉じて静かに休んでいると、首の痛みによる疲れからか、五分も経たないうちに眠りに落ちていた。

「スー、フー……、スー、フー……、スー、フー……」

 航は夢見心地の中、嫌な頭痛を感じ始め、夢見心地ながら嫌な予感がした。すると、金縛りに遭い身動きが取れず、同時に耳鳴りもして、嘔吐しそうな気分の悪さも感じ始めた。すると、航は、一瞬、体が事務椅子に沈んだかのような落下感に襲われた。しかし、その直後には、体が部屋の天井まで勢いよく引っ張り上げられたかのようなとてつもない浮遊感に襲われた。

(う、うぁッ!)

 その直後、航には、事務椅子の背もたれにもたれかかって昼寝をしている自分の姿が見えていた。そう、それは、その日の明け方、航の身に起きた幽体離脱と思えた現象と全く同じ現象だった。

(こ、こ、こ、こんなとこで、ゆ、ゆ、幽体離脱ッ!?)

 航は驚いていた。







※この物語はフィクションです。実在の人物や団体等とは関係ありません。
※本書の無断複写は著作権法上での例外を除き禁じられています。また、私的使用以外のいかなる電子的複製行為も一切認められておりません。