【シュールリアルな停戦会議】

週末にスイスのビュルゲンシュトックで開催されたウクライナ平和サミットについて、ロシアの元大統領のメドヴェージェフは、「純粋なシュールレアリズム」と言ったそうだ。最後に出た共同声明の内容を見ると、確かにそうとしか思えない。まったく現実とかけ離れた幻想を、ウクライナとそれを支援する国々は抱いていて、それをまだ世界に信じさせようとしているようだ。そのかけ離れ方は、もはや「シュールレアリズム」という言葉がぴったりするくらいだ。

こうした国際会議は、昨年からすでに何回も行われている。ウクライナとロシアの間で起こっている紛争を、ロシア抜きで、ウクライナ側の支援国が主導する形で、その見解を世界中の国々に受け入れさせようというものなのだ。ウクライナが出している停戦案とは、ロシアにすべての責任を押しつけて、無条件降伏させようというような内容で、そこからしてすでに超現実的だ。

一年前から、ウクライナはNATOの武器をいくら送り込んでも、圧倒的に負け続けている状況だ。それなのに、ロシア抜きで、ロシアが無条件降伏するべきだという決議を出そうというのだ。しかも、ロシアに併合された地域では、ロシアによってすでに復興が急ピッチで進んでいて、90%近くの住民が、プーチンを支持しているというのにだ。

アメリカの経済学者のジェフリー・サックスは、ロシアと戦争させるために、アメリカの諜報機関がウクライナを「買った」のだ、と言っていた。買ったというのは、つまり資金を注ぎ込んで、政権を変えさせ、アメリカの傀儡政権にしたということを言っているのだろう。実際、それが10年前に起きたマイダン革命の正体だった。ウクライナの市民が自由化を求めて平和的にデモを行なった、という話になっているけれど、実際には、アメリカ政府が日当を出してやらせたデモだった。やはりお金で雇ったテロリストたちが、議会を乗っ取って、暴力的に政権を交替した。

そうやって乗っ取られた政権が、10年前からロシアと関係が深いウクライナ東部で、住民を虐殺し始めたのだ。これもすべては、ロシアを戦争に引き込むための策だった。これは、アメリカのシンクタンク、ランド研究所の公開されているレポートで推奨していたことだから、単なる憶測の類ではない。

2022年2月にロシアが内戦状態のウクライナに軍事介入したとき、アメリカのメディアでは、そろって「ロシアは挑発されずに(unprovoked)侵攻した」と言う言葉を一日に26回も言っていた、とジェフリー・サックスは言っていた。これも、アメリカの諜報機関がいつも使う手だ。同じフレーズをいろんなメディアで何回も繰り返していると、多くの人はそれをそのまま信じてしまうという心理を使っている。

実際には、ロシアは挑発されないどころか、10年もかけて挑発され続けていた。その間に、ウクライナがナチ化していることや、政権の腐敗がひどいことも報道されていた。それでも、「ロシアが挑発なしに侵攻」と一日に何回も繰り返していると、多くの人はウクライナが腐敗していることも、ネオナチのこともすべて忘れて、一方的な犠牲者であるかのように思い込むのだ。とにかく、メディアではそのように扱っていて、多くの人はそのように信じていた。

ところで、あれから2年以上が経つ間に、世界は大きく変わった。世界はもうアメリカ政府の言うことを信じなくなっている。世界の国々のうち、まだロシアが一方的に悪いと言っているのは、アメリカの傘下にある50ヶ国ほどだけだ。他の100ヶ国ほどの国々、アフリカ、アラブ、アジア、中南米の国々は、アメリカ政府がウクライナを軍国主義化させて、ロシアと戦争させるために東部地域を攻撃していることを知っている。それどころか、世界のほとんどの国々にとっては、ロシアはアメリカの植民地主義的な一極支配から世界を解放する解放者でさえある。

こうした国際会議が行われたのは、これで4回目だ。最初は昨年6月末で、ちょうどウクライナの反転攻勢が大失敗なことが判明した頃だった。だから、ウクライナが停戦会議を呼びかけているというので、いよいよ停戦するつもりなのかと思っていたら、そうではなかった。ウクライナ側の見解を世界にアピールして、ロシアと敵対させ、支援を得ようというのが、目的だったらしい。しかし、その目論見は失敗した。グローバル・サウスは、ウクライナ側の一方的な見解に同意しなかったのだ。

その間、ロシアはアフリカやアラブ、アジア、中南米の国々と経済協力関係を拡大していて、多くの国々はアメリカの経済制裁を恐れなくなっていった。それどころか今や、世界中の多くの国々は、米ドル取引から離れて、BRICSに加盟しようとしている。アフリカ諸国は、アメリカやフランスとの安全保障協定をやめて、ロシアと軍事協力を結ぼうとしている。世界的に見たら、もはやアメリカは世界の中心ではなく、西側諸国は世界への支配力を失ったと言っていい。

そんな状況なのに、スイスの平和サミットでは、まだ「ロシアが挑発なしに侵攻した」という物語を前提にした和平交渉を話し合おうとしていたのだ。いくつかの国は、ロシア抜きの停戦交渉など無意味だと言って、参加を拒否した。話し合われる停戦案を見て、「これは平和のためではなく、戦争を継続するためのものだ」と言って、参加をキャンセルした国もあった。招待された160ヶ国のうち、代表を送ったのは92ヶ国だけで、そのうち50カ国はアメリカの傘下の国々だった。それ以外の国は40ヶ国ほどだけで、そのうちの15ヶ国は、共同声明に署名しなかった。つまり、世界の160ヶ国のうち、共同声明に同意したのは、わずかに78ヶ国だけだったのだ。アメリカの傘下にない国では、署名したのはたったの28ヶ国、つまり1/4にすぎなかったことになる。

今回の共同声明では、ソ連崩壊後の領土をすべてウクライナに戻せとか、紛争の責任はすべてロシアにあり、ロシアは賠償すべきだとかの項目は削除されていた。残ったのは、「原子力施設は安全が確保されなければいけない」とか、「食糧供給は軍事的目的で使われるべきではない」とか、「強制連行された子供たちは、全員元の家に返さなければいけない」とか、それ自体は確かに正しいというようなことだけだった。しかし、原子力施設を攻撃したり、食糧供給を軍事目的に利用したり、子供を連行したりは、ウクライナがさんざんやっていることで、ロシアではない。そこがまた、この停戦会議のシュールなところだ。

この人たちは、一体何という夢まぼろしの世界に生きていることだろう? 与えられたセリフを言っているだけのマリオネットだからなのだろうけれど、自分が言っていることが、本当なのかどうかわかっているのだろうか? 自分が作り出した虚構の世界を、自分で信じてしまうということもある。ある意味、ソシオパスの行動にも似ているようだ。自分が加害者なのに、人の関心を集めるために、犠牲者を演じている。こういう人たちは、犠牲者であるがゆえの特権を手放したくないので、虚構の世界に生き続けようとする。

戦争について、まったく現実とかけ離れた物語を作って、それを信じさせるのは、これまでアメリカ政府がいつもやってきたようなことではある。いつも、「挑発なしに攻撃した」というような話が造られて、そうやってセルビアもイラクもリビアもボロボロに爆撃され、NATOは何の責任も取っていない。そうしたことがこれまでまかり通ってきたのは、経済的にも軍事的にも、アメリカが支配権を握っていたからだ。逆らったりしたら、経済制裁をかけられて、経済崩壊させられてしまう。あるいは、言いがかりをつけられて、首都を爆撃されたり、大統領が暗殺されるかもしれない。それで多くの国は、まったくの嘘だとわかっていても、国連決議に賛成していた。

それが、2年前から変わったのだ。もはや国連決議もG20も、アメリカの言うなりではない。それなのに、まだ「ロシアが挑発なしに侵攻した」という物語を言い続けて、世界中にウクライナを支援させようとしている。それが、まったく別な架空の現実に生きていることを浮き彫りにしてしまっている。そこがまさに「純粋なシュールレアリズム」なのだ。

これまでは、同様の嘘が語られていても、ほとんどの人はそれに気づいていなかったわけだから、今これがシュールに思えるということは、この2年間でどれだけ世界が変わったのかを示しているとも言える。しかし今、もう世界の過半数は嘘に気づいているのに、一体いつまで犠牲者の役を演じ続けるつもりなのだろう? ある意味これは、最も手放すのが難しいものなのかもしれない。自分は特権的な地位にいて、世界に嘘を信じさせ、犠牲者や犠牲者を救い出す正義の味方を演じながら、実は世界中を搾取して、虐待していたわけだ。そして、この嘘をともに演じている人たちがいかに多いかということは、この状況を手放したくない人たちが、それだけたくさんいるということなのだろう。

エリザベス・キューブラー・ロスが「喪のプロセス」と呼んでいるものは、こうした既得権の手放しについても当てはまる。そんなことがあるわけがないと思おうとしたり、怒ったり、絶望したり、取引しようとしたりして、それでもどうにもならないということを経験したところで、ようやく現実を受容して、解放に至る。この一年ほどのアメリカの傘下の国々の反応は、まさにそうしたもののように思える。自分たちの嘘がまだ通るはずだと思おうとしたり、怒ってテロに走ったり、核戦争を起こそうとしさえした。そして今度は、ドンバスの領土のことはもう言わないから、ザポリージャ原発とマリウポリは返して欲しいというような取引をしようとした。

しかし、そのすべてはもう通らなくなっている。アメリカの傘下の国が世界に対して支配力を持つ時代は、もう終わったのだ。NATO軍を送ると言い出して、核戦争になりそうなところまで来たときに、ロシアは核戦略に使う戦艦を、アメリカ東海岸沖をゆっくりと通過させて、キューバに到着させた。イランの数百機のドローンによる報復攻撃と同様な、見事な抑止戦略だ。ヨーロッパ議会選挙でも、ウクライナ支援に反対する政党が大きく票を伸ばして、ヨーロッパの人々ももう騙されてはいないことが示された。そのあとで来たのが、このシュールレアリズムとしか言いようがない停戦会議なのだ。

とすると、手放しのプロセスも、もう最終段階に入っているということなのかもしれない。そのことを思えば、もういつまで戦争状態が続こうが、それもあまり重要なことではないのかもしれない。嘘で世界を支配するというあり方こそが、これまでの200年ほどの戦争を作り出していた。それが今、最終的に終わろうとしているのだ。


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