【世界はどこへ向かっている?】

4月13日の夜に、イランがイスラエルに見事な報復攻撃を行なってから、ちょうど一週間した頃に、アメリカの議会がウクライナ支援を可決したのは、決して偶然ではないのだろう。つまるところ、イスラエルの戦争でもウクライナの戦争でも、背後で仕掛けているのはNATOであり、アメリカの諜報機関であり、軍事産業ロビーなのだ。イランの報復攻撃は、1000キロを越える距離から、人命の犠牲を出さずに精確に軍事施設を破壊できることを世界に示してしまった。そのため、イスラエルもアメリカも、中東ではうっかり手を出せないような状況になっている。

米軍の空軍基地があるシリアとイラクは、米軍が基地からイランに対して報復攻撃を行うことを禁止したそうだ。1月にイランのスレイマーニ司令官の命日に集まった人々が攻撃されたときにも、イランはシリアとイラクの米軍基地を報復攻撃した。それで、イラク政府が怒って、米軍に撤退を要求したことがあった。安全保障のためにということで、米軍基地を置かせているのだから、勝手に近隣の国を攻撃して、逆に攻撃されるような状況を作られるのでは、何のための安全保障協定なんだかわからない。

だから、やはりウクライナに武器を供給しようということになったのか何なのか、アメリカの議会でウクライナへの610億ドルの軍事支援が可決した。8割がたは米軍の武器を補填するのに使われるということだから、実際にウクライナに送られるのはそのごく一部にすぎないのだけれど、とにかく武器が来るのであれば、それを使って戦う人間が必要になる。それでウクライナは、国外に避難した人たちを動員しようとして、ウクライナ大使館は動員対象のウクライナ人たちに、パスポートを更新しないことになった。国内では相変わらず、志願兵を集めるという名目で、街頭で男たちを捕まえて、強制的に前線に連れ去ったりしている。

昨年夏の反転攻勢が失敗して以来、ウクライナでは毎日1000人近い兵士たちが犠牲になっている。2月にドンバスのアフデーフカが解放されてからは、毎日の戦死者は1000人を越えるようになった。まともな政府ならば、この状態で戦争を続けようとはしないだろう。しかし、ウクライナ政府はアメリカとイギリスの諜報機関に支配されている上、政治家たちは腐敗のお金で動いているので、やめようとはしないのだ。状況がわかっている人たちは、アメリカの軍事産業の雇用を増やすために、ウクライナ人が犠牲になるのだ、と言っている。戦況がよくなる見込みさえないのに、軍事産業に税金をまわし続けようとしているのだ。

ロシア政府は、アメリカが軍事支援を可決しても、大した変わりはないと言っている。ロシア軍は西側から送られてくる武器を片端から破壊しているし、ドンバスを次々と解放していっている。西側で最強の武器と言われていたレオパード戦車やエイブラム戦車も、ロシア軍は数万円でできるようなドローンで簡単に破壊している。3月22日のモスクワでのテロ事件のあとで、ロシアでは志願兵がまた増えたそうだ。

数日前から、モスクワの広場で、生け捕りにした西側の戦車を展示しているそうだ。何台もの戦車が、無傷で召し上げられて、展示されている。ということは、乗っていたウクライナ兵たちは、降伏するか逃げ出すかして、戦車をそのまま置き去りにしたわけだ。レオパードやエイブラムを破壊したら、けっこうな額の賞金がもらえるので、ロシア兵たちは喜んで狙ってくる。だから、戦車を置き去りにして、逃げた方がいいし、そもそも誰も乗りたくなどないのかもしれない。

そのせいなのか、ウクライナ政府は、エイブラム戦車は欠陥があるというので、使わないことにしたそうだ。F-16戦闘機も、ウクライナ政府がさんざん送って欲しいと言っていたのに、4月初めに、もう合わないからと断ったという話があった。この戦闘機は、特別に訓練したパイロットと地上チームが必要だからというので、ウクライナ兵を訓練していたというのだけれど、戦闘機などというものは、数カ月の訓練で乗りこなせるようなものではないらしい。結局、すぐに撃ち落とされて、無駄な犠牲を払うだけのことなのだ。

アメリカ国務大臣のブリンケンは、中国を訪問して、ロシアへの支援をやめさせようとしていたけれど、少し前に訪中したドイツ首相ショルツよりも、さらに冷たい扱いを受けていた。ショルツは、到着した重慶の空港で、市長代理が迎えに来ただけだったけれど、一応タラップに赤い絨毯が敷いてあって、出迎えの花束くらいはあった。しかし、ブリンケンが来たときには、赤い絨毯さえもなく、花束もなく、地方の何かの委員長が出迎えに来ただけだった。北京の空港から帰るときは、中国側からは誰も見送りに来る人もなく、来たのはアメリカ大使館の職員だけだった。アメリカ政府は、中国がロシアに輸出を続けるなら、中国に経済制裁をかけると脅しているらしいのだけれど、中国政府はもはやそんなものを恐れてはいないようだ。実際、経済制裁をかけたら、損害があるのはむしろアメリカの方なのだと思う。

NATOの武器が、ウクライナでもイスラエルでも勝ち目がないとなって、これまでアメリカの一極支配に抑えつけられてきた国々は、もうアメリカを恐れてはいないようだ。自分はウクライナにさんざん軍事支援してきて、中国にはロシアに支援するなとか、まるきり筋が通っていないし、もうそんな一方的な押しつけは、相手にもする気がないという意思表示なのだと思う。

一方、国連安全保障理事会では、中国は爆破されたロシアのガスパイプライン、ノルド・ストリームを国連で調査するべきだと、要請を出したそうだ。これまで、多かれ少なかれアメリカ政府の言うなりになっていた国連も、徐々に変わってきているようだ。

国外に避難したウクライナ人たちは、動員対象の年齢だともうパスポートが更新できないし、リトアニアやポーランドなどでは、ウクライナに送還すると言っているそうだ。戦場では毎日1000人以上も死んでいるのだから、誰も戦争に行きたくなんかはない。避難民を送り返すなんて、国際法でも人権侵害で違法だと思うけれど、そんなことは無視されているのだろう。

ところで、西側諸国に避難したウクライナ人たちの多くは、ウクライナに戻るくらいなら、ロシアに亡命するだろうと、ウクライナの元大統領顧問のアレストヴィッチが言っていたそうだ。西側諸国へ避難したウクライナ人たちは、ほとんどが戦闘のないウクライナ西部の人たちで、生活費がもらえるからと行っていた人たちも多い。さらには、戦争プロパガンダを広めるために、日当をもらって抗議活動をやっていた人たちも少なくない。こういう人たちを、ロシア政府が難民として受け入れるかどうかはわからないけれど、これはロシアを強めることになるだろうと、アレストヴィッチは言っていた。

アメリカの元大統領のトランプは、ドルから離れようとする国に経済制裁をかけると言っていたそうだけれど、ドルから離れようとする国は、そもそもアメリカとの経済取引を避けようとしているのだろうし、そういう国に経済制裁をかけたら、ますますドル離れするだけなのじゃないのだろうか? これもまた、トランプ特有の逆説的な発言のように思える。ロシアの資産を凍結した上、ウクライナ支援に流用してしまったために、世界中の多くの国は、米ドルをなるべく早く手放そうとしている。そして、アメリカではなく中国やロシアと取引しようとしている。

つまるところ、これまで世界を支配してきたアメリカの覇権が崩れ落ちようとしているのだけれど、アメリカ政府もアメリカの傘下の国々も、これまでのような一方的なやり方を変えようとはしないようだ。第二次世界大戦のときのドイツのナチ政権も、結局ソ連軍がベルリンを陥落するまで、戦闘をやめようとはしなかった。滅びるものは、滅ぼされるまで、とことん進んでいこうとするものなのかもしれない。

今はもう、アメリカの一極支配が崩壊することは確実なことで、ただどう終わっていくのかが違うだけなのだという気がする。適当なところで終わるチャンスは何度もあったけれど、やはり半端なところでは終わらないらしい。それなら、完全に滅びるしかないということだ。ウクライナもイスラエルも、国としては消えてなくなるのかもしれない。米ドルも国際通貨としての信頼を完全に失って、中国元やロシアルーブル、あるいはこれからできるBRICSの通貨が取って代わることになるのかもしれない。

今のところ、世界は混乱を極めているように見えるけれど、実は、進むべきところへまっすぐに進んでいっているのかもしれない。数カ月、あるいは半年後には、どこへ向かっていたのかが見えてきて、満足感を感じつつ、納得しているような気がするのだ。

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画像は
モスクワで展示されているレオパード戦車
中国の空港でのブリンケン


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