【三座目〖レジメ〗】

「雑阿含経」に出ている「一人四婦の譬え」について、お伝えします。
 
これは非常に有名な譬え話で、皆様にとって、大変有益な話ですので、紹介させて頂きます。
 
ある所に四人の妻を持っている男が居ました。
 
その第一の婦人は、
 
彼が最も大事にして、可愛がっているもので、行(ぎょう)、住(じゅう)、坐(ざ)、臥(が)、 いかなる場合でも、決して離したことはありませんでした。
 
着物、食事は言うに及ばず、寒いと言っては労り、暑いと言っては悲しみ、機嫌を損なうことは一度たりともなく、どんなことでも言いなりに任せていました。
 
第二婦人は、
 
第一婦人ほどではありませんが、それで中々、可愛がりました。
他人と争ってまで手に入れたので、いつも左右に置き、楽しみ、一時も姿が見えないと、大変淋しがりました。
 
第三の婦人は、
 
時々、会って楽しむ程度で、何か非常に淋しいことや、悲しいことを感じる場合にだけ、恋い慕う程度でした。
 
第四の婦人は、
 
彼の婦人とは名ばかりで、殆ど奴隷に等しい仕事をさせて、あらゆる激務にこき使って、優しい言葉一つ、掛けてあげることはしませんでした。
 
このように、栄華の生活を送っている間は良かったのですが、
男は、いよいよ不治の病に掛り、余命、幾ばくもない臨終の時を迎えました。
 
死の恐れや淋しさが、ひしひしと身にしみる時、平生一番に可愛がっていた第一の婦人を呼んで、
 
「わしは、もうすぐ臨終を迎えるが、淋しくてならない、わしと一緒に死んではくれないか」と言いました。
 
第一の婦人の答えは、
 
「私はあなたから、色々手厚いお世話を受けました。しかし、他のことと違って、死の道連れだけは、お受けすることは出来ません」と、きっぱり断わられました。
 
そこで、第二の婦人を呼んで、「お前は、わしと一緒に死んでくれるだろうな」と言うと、
 
彼女は「あなたが一番可愛がっている第一婦人が、死のお供をされないのに、なぜ私がお供できましょうか」と言いました。
 
男は「お前を家に入れるのに、随分と苦労をしたのに、わしと一緒に死ねないとは、どうしたことだ」と言いますと、
 
第二婦人は、
「それはあなたが勝手に私を求めたまでで、私の方からお願いしたのではありません」と突っぱねられました。
 
仕方なく、彼は第三の婦人を呼んで言いました。
「お前なら、わしと一緒に死んでくれるだろうな」とお願いすると、
 
第三婦人は、
「私は日頃、あなたのご恩を受けていますから、あなたの死を送って、町はづれまでは、お伴いたします。しかし、それ以上はお断りします。」と断られてしまいました。
 
仕方なく、第四の婦人を呼んで、「お前には平静、少しもかまってやらずに言いにくいが、どうか、わしと一緒に死んでくれないだろうか」とお願いしました。
 
すると第四婦人は、さめざめと泣きながら、
「私は両親の元を去る時から、一心同体の覚悟で、あなたに仕えております。苦楽、生死、全てあなたに委せておりますから、何で死のお伴が嫌でありましょう。どこまでも、お伴いたします。」
 
と、一緒に死んでくれることになったのです。
 
お釈迦様が仰せられるには、
「これは一つの譬えである。まず四人の婦人を持っている男とは、人間を指します。私達、一人一人のことです。
 
①第一の婦人とは、人間の身体を指します。すなわち、人間は身体を一番大切にします。
 
しかし、命終わる時は、ただ阿頼耶識のみで、あらゆる罪業を背負って去っていくけれど、身体は地上に残って、決して伴わないのです。
 
②第二の婦人とは、金銀財宝を示します。人間は財宝を得る為に、随分、苦労するもので、中には他人に義理を欠いたり、迷惑を掛けたりしてまで、それを貯めて喜んでいます。
 
しかし、臨終には、何一つ持って行くことは出来ません。
 
③第三の婦人は、父母、妻子、兄弟、友人を指します。
 
彼らは生前、お互いに愛し合い、睦み合って、仲が良かった間柄であっても、誰かが死ねば、非常に悲しんで葬式までは来てくれても、
 
そのあとは、初七日、四九日が終わってしまえば、忘れてしまうものです。
 
④第四の婦人は、人間の心です。世の中の人、誰一人として、心を愛し、心を大切にする人は少ないものです。
 
皆、煩悩にまみれた暮らしをして、仏法を信じないものが、如何に多いことでしょう。
 
命か終わる時には、この心だけが、どこまでも付きまとい、あらゆる苦悩をなめ尽くさねばなりません。
 
「愚かな諸々の人々よ。この様に大切な心を守る事をせず、ただ身体の見栄えや、財宝の獲得などにのみに時間を費やし、生死の輪廻を続けていかねばならないとは、誠に哀れの極みである。

心こそ誰しも第一に、大切に盛り立てて行かねばならないのだぞ。」
 
釈尊は、まことに身近な比喩の中で、人々の心にある、大切な事を巧みに教えて下さっています。
     【終了】


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