「美田よりも聖賢の書」

 アメリカの大政治家リンコルンの母は彼の少年時代常にこういって聞かせた。

『お前は百エーカーの美田よりも聖賢の書を持つものとなりなさい、百万の富を持つ者よりも美しい心を持つ者となりなさい』と何と尊い金言だろう。

近時成功といえば一も二もなく物質の高、名誉地位の高下で判断されているけれども真の成功は心の問題である。正しく生きる人間は世間からは廃人の如くいい、悪辣な手段で人を踏み躙っても勝ちさえすれば手腕家才子と世の人は讃えている。なんと呪わしい人世ではないか。神明は記識して侵す者を赦さないのだ、冥見を重んじて正しい道を歩まなければならない。

(大沼法龍著作『教訓』(敬行寺、1972年))