「値づけ」
もう随分昔のこと。
まだ、マルシェで野菜を売っていた時、大根がなかなか売れなくて困っていた。
周りを見渡すと、大根を売っている出店者が多く、どこもだいたい150円ぐらいである。無肥料無農薬は僕だけだったためか、僕のだけ小さい。
最初、僕はその大根を200円で売っていたが、他と合わせるために150円に値下げした。
しかし、全く売れる気配がない。そもそもマルシェでの大根は持ち帰りにくいためか売れないものである。そこに輪をかけて小さいのだから、見向きもされない。
手伝ってくれてた子が、アドバイスをくれた。
「小さいのだから、他より安くすれば、持ち帰りやすいし売れるんじゃない?それから葉が邪魔になるから切っちゃえばどうかな。」
それを聞いて、僕はなるほどと思った。そうか、特徴を活かせばいいのかと、気づいたのである。
そして僕は、大根の葉を括っていたテープを外し、わざと持ち帰りにくくした上に、値段を450円に付け替えたのである。
決して言われたことに反発した天邪鬼(あまのじゃく)な考え方ではない。もちろん、意味があってそうしたのである。
なんと、そうしたら大根を見た通りすがりの人が立ち止まり始めたのである。そして、この大根は何故こんな値段なのか?と尋ね始めたのである。
これはチャンスと、僕は無肥料無農薬であること、たくさん作れないこと、自然の力だけで育ち、水を吸収し過ぎず、甘くてしっかりとした大根であると説明したのである。
それから、2時間もしないうちに、なんと大根は他よりもいち早く売り切れた。もちろん、ついでに他の野菜もしっかりと売れた。
実際には450円から値引きをして売ったのだが、概ね300円以上で買ってくれたのである。
さて、何故売れたのか。
つまりは、値づけはコミニュケーションツールであることに気づいたからである。
他と比べられるマルシェでは、最初のインパクトが必要になる。コミニュケーションの入り口としてである。
店には無肥料無農薬のことは書いてはあるが、読んでいるようで読まれてはいないものだ。そこで、値段の高さに興味を持ち、何故その値段なのかを聞いてくる人が現れた。
そこから先はマシンガントークである(笑)。
畑への思い、自然環境への配慮、自分の生き方、そして安心できる野菜の意味。そんなことをツラツラと話すことでお客さんは興味を持ち、大根を買う気になったわけである。
安ければいい、大きければいい。そんな価値観のお客さんではなく、栽培者の思いに心打たれて、高くても買ってくれるお客さんを見つければ、値段は二の次になる。
この出来事は、その後の僕の仕事の仕方や生き方にとても参考になった。
是非、物を売る仕事をされている方で、このことに気づいていない方は、真似してみることをお勧めする。まぁ多くの方が知っていることだとは思うが。
さて、もう一つ気づいたことがあるので、そのことは次回の投稿で。
福岡からの帰りの新幹線から。おやすみなさい。
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