【世界で一番大きな生命体】

気候が秋らしくなってくると、木の切り株なんかに群生し始めるのが、ナラタケだ。

ちょっと味にクセがあるので、私はあまりおいしいと思っていなかった。だけど、この頃森に行くと、あっちにもこっちにもたくさん生えていて、それが何だか椎茸を思わせて、いかにもおいしそうに見える。それで少しだけ持って帰って、ネットで食べ方を検索してみたら、ナラタケは一度茹でこぼしてアク抜きするらしい。それで、書いてあった通りに15分くらい茹でて、黒くなった水を捨てて、フライパンで炒めてみたら、これがちょっと椎茸のソテーにも似た味で、なかなかおいしかった。

そんなに茹でたら味がなくなってしまうんじゃないかと思ったけれど、これだけ茹でても濃い味がして、いい出汁が出るのだ。生のナラタケは生卵みたいな匂いがするから、たんぱく質がたっぷり入っているっていうことなんだと思う。

それで今日はかご一杯にたっぷり採ってきた。茹でて瓶に入れておけば、しばらくおいしく食べられる。

ナラタケというのは、世界で一番大きな生命体なんだそうだ。一番大きな生命体といったら、シロナガスクジラなんだと思っていたけれど、そうじゃなかったらしい。キノコというのは、地面から生えてくるキノコの単体が一つの生命体なんじゃなくて、森の地面にはりめぐらされている菌糸の全体が一つの生命体なんだそうだ。地面から出ている部分は、その果実のようなものに過ぎない。だから、森のあちこちに生えてくるキノコは、この菌糸体が実らせている森の果実なのだ。

その中でもナラタケは、森の中を直径数キロにいたるほど大きくなるんだそうだ。

ナラタケは、木の切り株なんかに生えてきて、木を分解している。枯れた木を分解して、土に還すのがキノコなのだ。

キノコは地中の菌糸体なのだと知ったときから、キノコを見る目が変わった。いや、キノコだけじゃなくて、森を見る目が変わった。キノコは森が実らせる果実、森の贈り物なのだということを意識した。そして、キノコが木を分解しているということを知って、森の木々との大きな共生関係のことを意識した。

キノコを探して森を歩いていると、まるで森が私が来るのを知っていてキノコを生やしているんじゃないかと思えるようなことがよくある。何だか森に呼ばれたような気がして森に入ると、道の真ん中に大きなポルチーニが生えていたりということが、何度となくあった。森の精霊が生やしておいてくれたんだよと冗談を言っていたけれど、本当は私は冗談だとは思っていない。森は人の意識を読んでいて、人の意識に呼びかけてくるのだと思う。

キノコだけでなく、植物の世界では、そもそも意識でコミュニケーションができるのが当たり前のことで、そうと思っていないのは人間だけなんじゃないかとさえ思えてくる。何といっても、植物というのは太陽の光から有機物を作り出すことができる唯一の生命体なので、彼らはそれができない動物たちすべてを養う責任を負っている。だから彼らは、人間を含めてそこに住む動物が何を必要としているかを絶えず読み取っていて、そういうものを生やしてくれているんじゃないかと思う。そしてそれも、彼らにとっては共生関係というもので、それによって動物が出すものを彼らは必要としているので、共存共栄の関係になっているんだと思う。

競争ではなくて、共生。森のキノコを見ていると、共生関係というものが、理屈ではなくて実感としてよくわかる。

カサの大きなキノコは、カラカサタケ。これは香りがいいキノコで、天ぷらにするのが最高だ。サルノコシカケみたいに木の幹に生える白いキノコは、カンバタケといって、白樺の枯れ木に生えて、木を分解する。サルノコシカケみたいに木の幹に生えるキノコは、よく癌に効くというけれど、木を分解するようなキノコは、免疫力を高めるような何かが入っているらしい。実際、カンバタケは干してお茶にすると、すばらしい胃腸の薬になって、胃癌とか胃潰瘍とかにも効いたりしたらしい。そんな病気じゃなくても、ちょっと胃が重いときに飲むと、スッと胃が軽くなるので、この時季になると見つけたら採ってきて干しておく。