たいそうな金持ちの魔術師が羊をたくさん飼っていました。

ところが、この魔術師はひどいけちで、羊の番人も雇わなければ、放牧している牧草地のまわりに柵をつくりもしませんでした。

そんなわけで、羊はよく森へ迷いこんだり谷に落ちたりしましたが、何より悪いことには、逃げ出す羊が後をたたなかったことです。

というのは、羊たちは魔術師が自分たちの肉と皮を欲しがっているのを知っていたので、それが嫌だったのです。

困っていた魔術師はついに解決策を思いつきました。

羊に催眠術をかけて、まず、おまえたちは不死身だから皮をはがれても何ともない、いやそれどころか健康にもよく気持ちがいいと暗示をかけました。

次に、魔術師はよい主人で羊をとても愛しており、おまえたちのためなら何でもすると暗示をかけ、それから、もし何かがお前たちに起こるとしてもそれはすぐにではない、ともかく今日ではない、だから何も心配する必要はないと暗示したのです。

さらに魔術師は羊に、おまえたちは羊ではないと言い、ある羊たちにはお前たちはライオンだ、他の羊にはお前たちは鷹だとか人間だとか、あるいは魔術師だと暗示をかけました。
それからというもの、魔術師は羊の心配をする必要はなくなりました。

羊はもう逃げ出すこともなく、魔術師が肉と皮をとりにくる日をおとなしく待つようになったのです。
(ウスペンスキー『奇跡を求めて』グルジェフの神秘宇宙論)

このグルジェフの寓話は人間の意識が深く眠っていることを表しています。

金持ちの魔術師を保守体制に羊を一般市民に置き換えると
原発事故が起きても誰も責任を取らず
税金を使った事業が何億円も中抜きされても、
コンパクト五輪の予算が3倍に膨れ上がっても
大人しくお上にしたがう今の日本の事のようにも思えます。