数日して、彼の元へと訪れた。

カギは置いて出たので、もう入れない。

 

インターフォンを押す。

「はい」彼は冷静に出た。

カメラもついているので、あたしだと言う事はすぐ分かる。

 

「元気?入れて」あたしは明るく言った。

肩の荷が下りたからだろうか。

本当に明るく言えた。

 

「何で?」と、始め彼は拒んだが、インターフォン越しだと恥ずかしいからと言うと、玄関のカギを開けてくれた。

あたしは、玄関に入って、既に他人の家と言う感覚をもった。

彼とは、もう他人だと言う事の表れだろうか?

 

リビングに入り、彼が車椅子から降り、柱にもたれかかり座る。

その彼の足もとに、あたしも座った。

 

話す事は今までの事になり、あたしは思いだし、また泣いていた。

自分が可愛そうでならなかった。

ここまで我慢していた自分をなぜもっと早くそうしてなかったのかと、思えるほどだった。

 

彼が1枚の写真を出してきた。

「この前、お見合いをした」

それは、出会い系での紹介された人らしく

「断られたけどね」

と、あっさりと彼は言った。

 

あたしの中で、嫉妬心も何もなかった。

不思議なくらいなかった。

あるとすれば、また辛い思いをする女が出来るのか、言うくらいだった。

 

泣いていた涙も乾いた頃、あたしは、

「そろそろ帰るね」

と、柱で座っている彼にキスをした。

彼は少し驚いたようだが、拒まなかった。

「2年後に、また来るから。また会いに来るね」

と、あたしは言った。

 

「その時には、もうここにはいないかもしれないけどな。探偵でも使って調べるんだな」

と、彼は憎々しく言う。

 

調べるほどの価値などないと言いたかったが、あたしは笑ってごまかした。

 

「後悔はない?」

離婚届を出しに行ったときの言葉をあたしはもう一度言った。

彼は肩をすくめながら

「後悔しながら生きていくよ」

と軽く笑った。

 

未練も何もなかった。

ただあたしのメンタルは崩壊され、このまま逃げるように札幌を出るのは嫌だった。

 

あたしは、またウィクリーマンションを1ヶ月借りて、一人の時間を過ごし彼との街を出る準備をしていた。

 

もう、泣くのは嫌だった。

ここを出る時には、笑って出たい。

そう思った。

 

1ヶ月は、精神的にズタズタにされたあたしには短すぎた。

しかし、お金もない。

病院の転院での紹介状などの手配もしながら、1ヶ月などあっという間だった。

 

彼に会いたいとか、そう言う気持ちは、もうなかった。

早々に荷物をまとめ、引越しの準備をする。

何度目の引越しだろう。

 

札幌を離れる電車に乗った時はもう、雪虫が飛んでいた。