あたしはどんな時でも、彼の一部分に触れているのが好きだった。
一日を大半寝ている彼のところへ、あたしは転がりながら近づいて行ったりしていた。
以前はそれを笑いながら、受け止めてくれていた彼が、気づくと、手を払い除けるようになり、嫌な顔をするようになり、挙句には背中を向けるようになった。

「何でそっぽ、向くの?」

とあたしが聞くと
「嫌いだから」

と彼は言う。
それが繰り返されると、冗談なのか本気なのか判断に困るものがあった。

何かを食べようとして

「これ食べる?」

と聞くと、

「食べたきゃ自分から言うよ」

と冷たく言うのに、黙っていると、

「何一人で食べてるんだよ」

と文句を言う。

喧嘩は、止むことなく何度も繰り返された。
その度に、彼があたしに言うことは

「自殺するような女だからな」

「ノートPCなんか買って無駄使いして」

が、常に加えられた。

全てがあたしのせいになってしまう。
例えば

「何で寝てばかりいるの?」

と言ったりすると、

「俺は、身体に障害があるから、国から年金が出て、それでお前は生活しているんだろう。俺は寝ていても金が入るんだ。金が入らないお前に、そうやってケチをつけられる覚えはない」

と言われる。
 

寝てしまっている彼を横目に、時間をもてあますあたしは、ますますオンラインゲームに嵌る。
一時は、彼も一緒にやっていたが、彼は飽きてしまうと、いまだにやっているあたしに、
「お前はそうやってゲームばっかりやってるんだな

と怪訝な言い方をするんだ。

じゃあと、彼の横でちょっかいをかけても、冷たくそっぽ。
次第にあたしもその横で寝てしまったりする。
そうするとそうしたで、彼は言う。

「お前だって俺のこと言えないだろう。寝てばっかじゃねぇーか」

彼の顔色ばかりうかがっている自分にとても疲れていた。
しかし、何を言っても結局は、あたしが悪いとなってしまう為、何も言えない。
それでは全て彼の言うとおりに

「そうだね」

だけを繰り返しても彼は面白くはないようだった。
 

結局、彼が何を望んでいるかがまったく分からなくなり、彼は人としての思いやりと、夫婦としての歩み寄りがない事にあたしの心は、不安や悲しみを通り越して、恐怖へと変わっていってしまった。

「だって、あたしがこう言えば、そう言うでしょ?」

とあたしも反発をしてた事もある。

しかし、彼はそんな言葉すら跳ね返す。

「またそうやって、決め付けてるよ」と。

どうしようもなく、彼への不満と不安を彼の親に電話で相談したりもした。
返ってくる言葉は、

「あなたの方が年上なんだから、もうちょっと上手くやれるでしょう?」

だった。

毎回、電話で彼の言葉にキレて、電話を切っていた親が、ここのところの暴言の刃があたしの方に向けられていることの安心感なのか、簡単にあたしに笑って言う。


「何でも、話してね」の言葉が
「上手くやってね」となり
後に

「二人で話し合って」

と変わっていくのだった。