“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編32)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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31、萄真の心の闇




柚子葉「何……これ。
  (一輪のミヤコワスレって、誰)」



読んだその内容があまりに衝撃的で、
焦りからしおりをそのページに挟んでぱたんと閉じた。
しかしそれと同時に背後から声がして、
私は咄嗟にノートを段ボールにしまい、慌てて振り返る。
仕事を終えて手伝いに戻った萄真さんが立っていて、
その顔には驚きと動揺が見て取れた。



柚子葉「萄、真」
萄真 「そのノート、見たの?」
柚子葉「ご、ごめんなさい。
   荷物に紛れていて、蓋も閉まってなかったから、
   つい中を見ちゃって」
萄真 「……読んだの?」
柚子葉「う、うん。
   しおりの挟まってた1ページだけ。
   萄真にちゃんと断って開けるべきだった。
   卒業アルバムとか入ってたからまさか、
   日記だとは思わなくて。
   本当にごめんなさい。
   私って最低。
   スマホを勝手に見ちゃった人みたいで、本当に最低。
   ……萄真、どうしたの?」
萄真 「……」
柚子葉「萄真……」





見る間に顔面蒼白になっていく萄真を目の当たりにして、
近づくことも声を掛けることもできず、
成すすべなくその場に立ち尽くす私。
明らかに仕事に行く前とは違う萄真は、
何か見えない力に捕らえられたように、
微動だにせず箱をじっと見つめる。








(萄真の回想シーン)




男性「あの、こちらは久々里萄真さんの事務所でしょうか」
萄真「はい。そうですが」
男性「よかった。やっとだね」
女性「ええ」
萄真「あの、お客様。
  本日はどういうご用件でこちらに」
男性「突然に伺って申し訳ありません。
  私は奥園と申します」
萄真「奥園様。
  (奥園って。どこかで、聞いたことのあるような)」
女性「私は奥園幸子と申します。
  奥園みやこの母です」
萄真「えっ」
女性「久々里さんは、娘を知っていますか?」
萄真「……はい。存じ上げております」
男性「初めてお会いした貴方に、
  いきなりこんなことをお伝えするのはご迷惑だと思ったのですが、
  どうしてもこのままにはしておけなくて。
  家内とも時間を掛けて話し合い、失礼を承知で今日伺いました」
萄真「は、はぁ。
  あの、それで私に何か」
男性「みやこが、他界しまして」
萄真「……えっ」
男性「自殺でした。
  亡くなったのは二年前になります。
  何故娘が自ら死を選んだのか、
  詳しいことは未だに私達にも分かりません」
女性「娘を奪ったあの男よ。
  あの男のせいで娘は逝ってしまったの」
萄真「……」
男性「おい。そんな話しを久々里さんに聞かせてどうするんだ」
女性「だって、本当のことだもの。
  あの男はみやこと同じ会社だったんだから」
男性「娘の同僚の方のお話だと、どうも職場でいじめがあったようで」
萄真「そ、それは。
  亡くなったのはいつ、ですか」
男性「2017年の2月14日です。
  私達が娘と再会したのは6月23日で、
  死後四ヶ月ほど経過していました」
萄真「四ヶ月……」
女性「当時、娘には付き合っていた人がいまして私達は大反対したんです。
  それがキッカケで駆け落ち同然で家を出てしまったので、
  お恥ずかしい話ですが私達も娘の居場所も連絡先も、
  勤め先すら知りませんでした。
  娘もいい年ですし、心配して私達が探し回るのはと躊躇しまして」
萄真「……」
男性「便りがないのは元気な証拠などと、
  簡単に考えていた私達が馬鹿でした。
  一人娘の死すら気がつけない親なんて……
  すみません。内輪の恥を曝してしまいました。
  正規のご依頼をすべきだったのでしょうが、
  事が事ですので直接お願いに参りました」
萄真「(事が事って……どういう意味だよ)」
男性「一度家内がこちらの工房に問い合わせをしたのですが、
  半年待ちの状態だとお聞きしました。
  久々里さんも多く仕事を抱えておいででしょうが、
  お手隙の時で結構です。
  娘の家具だけでも引き取りをお願いしたいのです」
萄真「そういうご依頼でしたら、
  弊社と提携をしている専門業者がございます。
  私からの紹介で話しを通せばすぐにお引き取りは可能です」
女性「娘は貴方にお願いしたいんです」
萄真「えっ」
女性「親のエゴだと、罵って頂いても結構です。
  でも、最後だけは貴方に託したいんです、久々里さん」
萄真「……」
女性「わがままを言っているのは重々承知しております。
  ですがどうかお願いします。
  娘の最後の願いを受け取っては頂けないでしょうか」
萄真「あの。
  私はみやこさんと面識はありましたが、
  友人と呼べるほど親しい仲でもなく、男女的な関係もありませんでした。
  彼女の死はとても悲しく残念ですし、お二人のお気持ちはお察しします。
  ですから私もプロとして、このご依頼をお受けいたします」
男性「そうですよね。
  久々里さんの仰る通りです。
  不躾なお願いと非礼の数々、誠に申し訳ありません。
  それでは、手続きをお願いします」
萄真「はい。承知致しました。
  これからお申し込みのお手続きを致しますので」
女性「あなた、待って」
男性「もう諦めなさい。
  ……お、おい、その紙袋。おまえ、まさか」
女性「久々里さん、これを是非受け取ってください」



女性は持っていたバッグから小さな紙袋を取り出すと、
萄真さんの前に差し出した。
その目は涙を湛えて無念な思いを訴えている。



萄真「あの、これは?」
女性「娘が最後まで胸に抱いて持っていたものです。
  ビニールで何重にも巻かれていたので、
  汚れないようにと娘が配慮していたのでしょう。
  なので決して汚い品物ではありません。
  これだけは、貴方に持っていてもらいたいんです」
萄真「(汚い品物って。
  自分の娘が最後まで手放さなかった物だぞ。
  抱えて逝くほど大事なものだぞ。
  それを……
  恋人でも友人でもない赤の他人の俺に渡す?
  どういう神経してるんだ、この母親は)」
女性「お願い致します、久々里さん!」



女性はこのまま前のめりに倒れ込んでしまうのではないかと思うほど、
深く深く首を垂れる。
しかし萄真さんは哀しい目で彼女を見下ろした。



萄真「そ、それは、できません。
  申し訳ありませんが、
  私が受け取ることは出来かねます」
女性「そんな……久々里さん、お願いします」
萄真「どうか、頭を上げてください。
  そのお品はやはりご両親が持っていてあげるべきです。
  娘さんが最後まで持っていたのなら、
  思い入れのある貴重なお品でしょう。
  それなら尚更ご両親のお手元に置くべきですよ」
女性「……一度でいいんです。
  中をご覧になって。
  それでもし、久々里さんが迷惑だと判断したら、
  その時は私達にお返しください。
  どうか、みやこのために、お願い致します」
萄真「……」



  
またも深く頭を下げる女性。
萄真さんは暫く無言で居たけれど、
男性からも懇願されて仕方なく一度預かることにした。
女性は手渡した後、
「貴方がお相手なら娘にも私達にもどれほどよかったか」と、
彼を見つめて泣きながら訴えていた。
突然萄真さんを訪ねた品のいい年配夫婦は、
家具引き取りの手続きをし、丁寧に包まれた菓子折りと、
小さな紙袋に入った分厚いノートを手渡して帰っていった。






静かになった事務所に、カチッ、カチッ、カチッと、
規則正しい秒針の音だけが小さく聞こえる。
萄真さんは渡された紙袋からノートをゆっくり取り出し、
しおりの挟まっていたページを開いた。
左手でノートを持ち、親指で閉じないようにしながら、
右手に持った花のしおりを見つめる。






萄真「薄紫色のミヤコワスレ。
  花言葉は……“しばしの慰め”“別れ”。
  別れって……自殺なんて。
  どうして君は、自ら死を選んだんだ」



彼は目に悲しみの色を浮かべて、
しおりの押し花を見つめていたけれど、
言うに言われない切なさと淡い懐かしさが同時に込み上げてくる。
そんな自分に戸惑いを感じた萄真さんは、
開かれたページに書かれている文章を読み始めた。





 『2017年2月14日。
 今日は私の人生の終わる日。
 私の何が、この世の人達と違うのだろう。
 一つの命としてこの世に、母のお腹に宿った日から、
 こうなると決まっていたのだろうか。
 それとも。
 こうなるずっとずっと前、
 私の前世だった人間がとても大きな罪を犯したから、
 今世でその代償を払わされているのかもしれない。
 もしそうだったとしても、これだけは変わらない事実。
 29年生きた私の傍には誰も居なかったこと。
 両親や友達、職場の上司同僚の前では、
 人畜無害のいい人間でいなくちゃいけなかった。
 だからいつも私は疲れてた。
 やっと出会った恋人にも自分の弱音を吐けず、
 彼の心の中に潜む女性に立ち向かえなかった。
 親を捨て家を捨て、縋った彼だったけど、
 彼が恋人だと胸を張って言える女性は私じゃなかった。
 ほんの少しでも醜い感情など見せれば幻滅されるから、
 嫉妬も虚しさも寂しさもすべて押し殺した。
 でも、彼が居なくなってやっと気がついた。
 私の特別な存在は、唯一ひとりだけだったって。
 


 



 親愛なる久々里萄真様。
 これは最初で最後のラブレターです。
 私は貴方がとてもとても好きでした。
 そして特別な存在でした。
 2011年6月23日。
 大粒の雨に打たれながら、車から降りてきた貴方を見て、
 私の心は一瞬で釘付けになりました。
 突然目の前に現れたミヤコワスレの日生まれの貴方。
 ミヤコワスレの花言葉になぞらえて、
 「些細な出来事が慰めにもなるけど、
 苦しみにもなるってことだ」と語った博識ある貴方。
 助手席で項垂れる私に「明日、兄貴が元カノと結婚する」と言った貴方。
 心はきっと複雑で、傷心しきっているでしょうに、
 まるで他人事のように微笑みながら私に話した貴方。
 出会ったのは6年も前で、会えたのは数えられるほど。
 そんな数ヶ月の短い関わりだったけど、
 こんな私でも幸せになれる可能性は無限にあると言ってくれた貴方。
 今だから包み隠さずに言えます。
 あの日私は、ミヤコワスレに包まれながら、
 永遠の眠りにつくためにあの山に登りました。
 信じていた恋人が元カノの許へ戻ってしまって、
 精一杯切れぬように張っていた糸がプツンと音を立てて切れてしまった。
 それもミヤコワスレの日に。
 とても偶然には思えなかった。
 ミヤコワスレの花持ちはせいぜい5日程度、
 4月の最盛期を過ぎたから、
 きっと花はほどんど残っていないと諦めていた。
 でも。貴方と見たあの景色は、一面紫色で別世界だった。
 もう一度生きてみようと思わせてくれるほど、
 貴方と過ごした数時間は幸せでした。
 だけど……萄真さん、ごめんなさい。
 あの時交わした貴方との約束、私は守れそうにありません。
 世間は今日、バレンタインデーで、
 恋人がチョコレートを渡して愛を語らう日です。
 私も恥ずかしながら、
 貴方に渡すためにこっそり用意していました。
 渡せるかどうかも分からないのに馬鹿ですね。
 勝手に細やかな夢を見てしまいました。
 今の私が貴方に会ってしまったら、
 思いすら伝えるのも忘れて、また涙を見せてしまう。
 今度こそ貴方の優しさに縋りついて頼ってしまう。
 だから“短い恋”と一緒に、チョコは部屋に置いていこうと思います。
 ほんの少しの時間でも、貴方の優しさに触れて私は幸せでした。
 無条件で私を救ってくれた貴方。
 この世で唯一、私を理解しようとしてくれた貴方。
 貴方の放つ素敵な輝きは、私には眩しすぎました。
 久々里萄真様、どうかお幸せに。
 そう心から祈りながら私は旅立ちます。
 今までありがとう。
 そして、さようなら。
 
             一輪のミヤコワスレより』






読み終わった萄真さんは、
持っていたノートを床に落とし、
あまりの衝撃に膝から崩れ落ちる。
そして悔しい思いを込めて拳を床にたたきつけた。




萄真「どうして……どうしてっ!
  あの日俺は、君に言ったじゃないか。
  何か困ったことがあったら、
  心が辛くてどうしようもなくなったら、
  俺に会いにおいでって。
  それなのに……俺に連絡も寄こさないで、
  一方的に俺を特別な存在だと告ってさよならか。
  告られるだけの俺は、この気持ちはどうすればいいんだ。
  自分の思いを伝えることも、君に手を差し伸べることもできないで、
  それで特別だって言えるのかよっ!
  君が望んだ選択肢の中に、
  俺は、俺の存在は、なかったのか。
  なかったのかよぉ……」




怒り、悲しみ、悔しさ、不甲斐なさ。
いろんな感情が次から次へと突き上げて、
彼のキャパシティーを粉々に砕いたのだった。





 





ぼんやりと箱を見つめる萄真さんに、
掛ける言葉も見つからずにいた私。
けれど昨夜、彼に言った言葉を思い返し、
私は胸の前で拳を握って話しかけた。



柚子葉「断りもなく勝手に箱を開けて覗いた私なんて。
   誰にも触れられたくなかった萄真の思い出を、
   土足で踏み入った愚かな私の言葉なんて、
   貴方の心には届かないかもしれない。
   探ってしまった後で何度謝ったって言い訳としか、
   綺麗ごととしか聞こえないかもしれない。
   それでも、聞いてほしい」
萄真 「……」
柚子葉「私は昨日、萄真に約束した。
   くちゃくちゃ頼りないけど、
   まだ一日も経ってないけど約束した」
萄真 「約束……」
柚子葉「私はもう『逝く』なんて言わないって。
   『私でいいの?』なんて思わないって。
   差し伸べられた萄真の大きな手をしっかり握って、
   私も貴方の全てを受け止めて決して離さないって。
   萄真が私に、あの時のように壊れちゃうって言ったのは、
   彼女のことだったんでしょ?
   そうなんでしょ?」
萄真 「(あの時のように……)」
柚子葉「私は一輪のミヤコワスレさんのように、
   貴方の手を握らずさよならなんて、絶対に言わないから」




萄真は段ボール箱からゆっくりと私に視線を移し、
始めは放心したような目をしていた。
けれど少しだけ、その揺れる瞳に輝きが戻る。



柚子葉「萄真は彼女が好きだったのね。
   彼女が居なくなってすごく辛かったのね。
   だから私にも誰にも見られたくなかったのよね。
   なのに私が貴方の思い出を覗き見ちゃったから、
   それで失望しちゃったのよね」
萄真 「……柚子葉」
柚子葉「怒られても、嫌われても、
   萄真が俺の傍から消えてくれって言うまで私は、
   貴方の傍に居るから。
   心にある人が私じゃなく、一輪のミヤコワスレさんでも。
   (いえ。そんなの……嫌よ。
   やっと前を向いていこうと思えたのに、
   私から萄真を取り上げたりしないで。
   貴女は卑怯だよ。
   さようならと言っておいて、
   姿はなくても魂は萄真の傍に居る。
   そしていつまでも入り込んで彼を放さない。
   これ以上、萄真の心に入ってこないで。
   私は貴女に負けないくらい、彼を愛してるんだから。
   ミヤコワスレさん)
   私が萄真の傍に居るんだから……」






私はぽろぽろと涙を流しながら、
萄真さんにゆっくりと近寄り両手を取る。
今の彼はまだ、彼女の手を握っているんだと思った。
彼の耳には彼女の囁く声しか聞こえず、
目の前の私じゃなく、遠い彼女の姿を見ていると思った。
それでも私は握った両手に力を込めて、
祈るように心の中で叫んでた。
「萄真。早く私のところに戻ってきて」と。




柚子葉「萄真。私、どうしたらいい?
   どうしたら、許して……もらえる?」
萄真 「……柚子葉。
   (俺はいったい、何をしてる。
   どうして柚子葉を泣かしてる)
   ご、ごめん……
   俺、出しっぱなしにしてたんだな。
   昨夜の騒動で、そのまま仕舞い忘れてて。
   彼女は、違うんだ。
   恋人でも、好きだった人でもないんだ。
   ノートを見て、彼女の両親とのことを思いだした。
   それでちょっと驚いて。
   それだけなんだ」
柚子葉「本当に……それだけ?」
萄真 「えっ」
柚子葉「今の萄真の心に居るのは、
   萄真が本当に愛しているのは、
   私じゃなく、ミヤコワスレさんなの?」
萄真 「それは違うよ!」
柑太 「おい。萄真!」




私と萄真さんは怒鳴る声に驚いて、
慌てて振り返りリビングを見る。
そこには約束の時間通りにやってきた、
怒り心頭の柑太さんと困惑する杏樹さんが立っていた。
どうして私はあの日記を開いてしまったのだろう。
どうしてこんなにも、
この世に居ない女性にジェラシーを感じてしまうのだろう。
項垂れ心の闇を見せた萄真さん。
その姿を見て顔を真っ赤にして憤然する柑太さん。
その二人を心配そうに見守る杏樹さん。
私の心は引き裂かれるような後悔の念に駆られたのだ。






(続く)




この物語はフィクションです。  
   

 


 

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