“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編25)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

愛里跨(ありか)の恋愛小説です(・ω・)
この小説を読んで、皆さんの恋愛スイッチを入れてみましょう♪

にほんブログ村ランキング参加中王冠1
下をポチっと押して貰えると
愛里跨はとっても元気になれるのよぉー(・ω・)ラブラブ

↓↓↓↓↓↓

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ

にほんブログ村 小説ブログ

 

 

仲間

 

25、皆に広がる後遺症



助けてくれた笹森くんのお母さん、乃ノ果さんは、
私の回復を伝えるためすぐに夏梅社長へ連絡を取る。
その三十分後、柑太さん、杏樹さん、夏梅社長と、
皆が病院に駆けつけてくれた。
そして……
最後に勢いよくドアを開けて入ってきたのは萄真さんだった。



萄真 「……柚子葉」
柚子葉「萄真、さん」
萄真 「ふっ。無事でよかった」




真っ赤な目をした彼は病室にいる人たちには目もくれず、
迷いなく私の許に歩いてくると、
ベッド上に座る水色の病衣を纏う私を引き寄せ抱きしめた。
それは何年も離れていた人と巡り合えたような、
探し求めていた大切なものを手繰り寄せた時のような、
なんとも形容しがたい弛んだ表情。
逞しい腕の中で彼の震えを感じる。
繰り返される懺悔の声と波打つ鼓動が、
広い胸から私の耳へ確かに伝わってくる。
けれど……



柚子葉「萄真さん。
   あんなに言ってくれたのにごめんなさい。
   約束破って、たくさん心配をかけて、
   みんなにも迷惑をかけて、本当にごめんなさい」
萄真 「……くっ」



その言葉を聞くと彼はゆっくりと私から離れる。
そして愁いを帯びた瞳で見つめると悲しい微笑みを残して、
静かに部屋から出ていったのだ。
その瞬間、漠然とした切なさと不安を感じる。
その場にいた全員は驚いてきょとんとしていた。
でも、いちばん驚いていたのは柑太さんで、
目を見開いていたけれど、
すぐに萄真さんの後を追うように出ていった。
少しの沈黙の後、私の動揺を察したのか、
杏樹さんの発した「そうそう」の声で病室に明るい笑みが戻る。
皆の抱えるような慈愛と心地いい声を聞きながら、
私は閉まった扉を複雑な気持ちで見つめていた。


みんなが帰った後で気がついたのだけど、
薬が効いて眠ってしまった私の枕元に、
『さっきはごめん。明日ゆっくり会おう』と、
萄真さんの書いたメモがあった。
私はその言葉を抱きしめるように胸に当てて目を閉じたのだ。






翌日、退院の許可がおりた。
検査と診察の後、今のところ異常は見られないとのこと。
しかし一ヶ月は激しい運動は控えるようにと主治医から言われ、
次の予約を取って病室に戻った。
帰り支度をしながら、あの夜のことを思い出す。
母が何の躊躇いもなく封筒を拾い、
箱を投げ捨てる姿がぼんやりと記憶に残っている。
今始まったことではないと半ば諦めにも似た気持ちでいたけれど、
それでもショックなのは変わりない。
また一つ、心に絶望の傷が増えたと大きな溜息をつく。
するとノック音が聞こえ、私服姿の柑太さんが元気よく入ってきた。




柑太 「柚子葉さん。おはよう!」
柚子葉「柑太さん」
柑太 「体調はどう?
   顔色はよさそうだけど」
柚子葉「う、うん。大丈夫よ。
   心配をかけてごめんなさい」
柑太 「ったく。すぐ謝る。
   もう気にするなって昨日も言ったはずだろ」
柚子葉「う、うん」
柑太 「支度はできた?」
柚子葉「うん。できた」
柑太 「そっか。
   会計は済ませてきたからそろそろ」
柚子葉「ありがとうございます。
   お金は後でお渡しします」
柑太 「あぁ、お金はいいよ。
   この件は夏梅社長が全面的にやるってさ」
柚子葉「えっ!?そんな、私のミスなのに、申し訳ない」
柑太 「いいの。これは社長命令」
柚子葉「はぁ。あ、あの、柑太さん」
柑太 「ん?何?」
柚子葉「どうして……今日も来てくれたの?
   柑太さんはたくさんお仕事があって忙しい人で、
   まだみんなの研修だってあるのに」   」
柑太 「どうしてここに居るのかって?
   それは今日の僕の仕事はこれだから」
柚子葉「えっ」
柑太 「君の退院手続きと家での療養の付き添い。
   研修は夏梅社長が代行してるから心配ないよ。
   僕より断然優秀な人だしね。
   だから仕事のことやC班のことは何も心配しなくていい」
柚子葉「で、でも」
柑太 「一週間は自宅療養するようにって社長の指示だし、
   柚子葉さんはこの療養中に、
   僕とマンツーマンで研修の補習をしないといけないしね」
柚子葉「補習」
柑太 「あと一週間でC班はそれぞれの課に配属になる。
   君もある程度のところまで研修を終えておかないと、
   実践になったときかなり大変だからね」
柚子葉「そうなんだ。
   (そっか。あと一週間でみんなとも離れ離れになるんだ。
   もっとみんなと一緒に頑張りたかったな)」
柑太 「補習は僕からの指示。
   それからこれはいちばん重要な任務なんだけど」
柚子葉「任務?」
柑太 「君の護衛」
柚子葉「柑太さん」
柑太 「これは、萄真からの指示。
   あいつが仕事で君の傍に居られない間は、
   僕が一緒にいるから安心して」
柚子葉「柑太さん。
   (萄真さんの指示)」
柑太 「よし。支度ができたなら帰ろうか」
柚子葉「う、うん」



柑太さんは私の持っていたバッグを肩にかけ、紙袋を手に持つと、
「お姫様、我らがお城へ帰りましょう」と言って微笑んだ。
その姿はある国を守る騎士のように頼もしく映る。
病院を出た私は柑太さんの車に乗り、自宅アパートへと戻った。
その道のりで私は昨日から気になっていることを切り出した。
萄真さんが静かに病室を出ていったこと。
柑太さんが彼を追いかけていって、
その後どうなったのかを知りたくて。  




柑太 「萄真のこと、やっぱり気にしてたんだね」
柚子葉「う、うん」
柑太 「はぁ。そりゃそうだな。
   いちばんに柚子葉さんの許に駆けつけるのは恋人の萄真で、
   ずっと傍に居てほしい存在だし」
柚子葉「……」
柑太 「誰だって、やっと来てくれたと思ったら、
   何も言わずに出ていかれちゃ心配になって当然だ。
   なのにあの腰抜けは」
柚子葉「萄真さんは私のこと、本当は怒ってるのかも。
   彼と約束したのに勝手なことして怪我までして、
   皆さんに迷惑かけてしまったから。
   ごめんなさいって言ったけど、
   萄真さん、何も言わずに出ていっちゃったから」
柑太 「怒る、ね。
   ある意味当たってるけど、
   それは君に対してじゃないな。
   寧ろ、柚子葉さんに対してはその逆で」
柚子葉「あんな萄真さん、初めて見た。
   いつも堂々としてて何があっても冷静で強い人なのに」
柑太 「あいつに鉄の心臓はないよ。
   多分、昨日の萄真のほうが本来の姿かもな」
柚子葉「えっ。
   (昨日の萄真さんが本来の姿)」
柑太 「腐れ縁の僕にさえ初めて見せたかな。
   あんな弱っちい姿は」
柚子葉「柑太さんはあの後、萄真さんを追いかけたんだよね」
柑太 「ああ。追いかけたよ。
   追いかけて一発ぶん殴ってやった」
柚子葉「えっ!?ど、どうして」
柑太 「活を入れたんだ」
柚子葉「……」




男性3


   
(柑太の回想シーン)



柑太 「おい、萄真」
萄真 「……」
柑太 「おい!待てよ」
萄真 「来るな」
柑太 「待てって」
萄真 「今は放っておいてくれ」
柑太 「待てって言ってるだろ、萄真!」



エレベーターホールを通りすぎ、
振り切るように非常階段へ向かう萄真さん。
しかし柑太さんは階段を駆け下りる彼の腕をぐっと掴むと、
右頬めがけて力任せに拳を振った。
萄真さんはパチンと言う鈍い音と共に、
踊り場へ勢いよく倒れ込んだ。



萄真 「痛っ……痛てえよ。
   いきなりなんだ」
柑太 「萄真、それはこっちのセリフだ。
   あんな無様な姿を目覚めたばかりの彼女に曝しておいて、
   おまえは何も言わずに帰るのか。
   柚子葉さんはあの日、死んでいたかもしれないんだぞ!」
萄真 「……」
柑太 「彼女はお金のことを、おまえにも僕にも誰にも言えずに、
   一人で悩んで苦しんで怖い思いをしたんだぞ。
   毒親と得体の知れない男から、無惨にも路上へ放り出されたんだ。
   おまえだって警察で防犯カメラの映像を見せられただろ」
萄真 「……だから。
   みんなの前で体裁を取り繕えって?」
柑太 「ああそうだ。
   でも僕が本当に言いたいのはそんなことじゃない。
   それにおまえを殴ったのも、そんなちっぽけな理由じゃない。
   柚子葉さんを大切に思ってるなら一緒に居ろって言ってるんだ」
萄真 「俺が彼女を大切にしてないと言いたいのか」
柑太 「ああ。僕にはそう見える」
萄真 「そう見えるならそうなんだろう。
   そんなに気になるなら、
   おまえが彼女の傍に居てやれ、柑太」
柑太 「おまえ……僕を馬鹿にしてるのか」
萄真 「……」
柑太 「柚子葉さんとあのコンビニで出会ってこれまで、
   もっとしてあげられることがあったんじゃないかって何度も思い返す。
   あの日も研修中、柚子葉さんの様子がおかしいと気がついてた。
   僕がもっと気を配ってやるべきだったと今も後悔してる。
   だけど……今の柚子葉さんはおまえの恋人だから、
   僕にできることには限界があるだろ。
   だから。だから!
   今のおまえには無茶苦茶腹が立つ。
   僕はこんな短絡的な腰抜けのために、彼女を諦めたんじゃない」
萄真 「柑太」
柑太 「僕にとって、おまえも柚子葉さんも大切な親友だ。
   二人が求め合っているならそれがいちばんの幸せだと思った。
   おまえを信じて柚子葉さんを託そうと僕は」
萄真 「そう思ってるなら、殴る前に俺を信じてほしいね」
柑太 「……」

 

 

 


萄真 「傷だらけで横たわる彼女を見ていると、
   すべてを焼き尽くしてしまいたくなるような激憤が、
   とめどなく俺の真ん中に湧いて、冷静では居られなくなる。
   自分の不甲斐なさはもちろん腹立たしい。
   だが、彼女に何をしても罪悪感すら持ち合わせない女。
   金のため自分の欲のためなら人の命までも利用して、
   お腹を痛めて産んだかけがえのない娘の死をも望む女には、
   嫌悪感で吐き気がする。
   それでも……この上なく不快で下劣な女であっても、
   彼女にとっては哀しいかな母親だ。
   逃れられない残酷な事実なんだ。
   その二つの感情が入り乱れて縺れて隔靴掻痒、
   息苦しくて喉をかきむしりたくなる。
   こんな汚い俺の感情を今の柚子葉には見せられない。
   見せてしまったら彼女を苦しませるだけだ」
柑太 「ふっ。いいじゃん。どんどん見せれば」
萄真 「な、何を」
柑太 「それもおまえじゃないの?」
萄真 「えっ」
柑太 「見せる女にもよるけど、柚子葉さんには見せるべきだろ」
萄真 「ど、どうして」
柑太 「おまえは立派な人間だよ。
   男の僕が羨ましくて惚れ込むくらいに」
萄真 「……」
柑太 「彼女は、立派すぎるおまえの恋人として、
   自分は相応しくないっていうような子だぞ。
   少しは汚いおまえを見せてやれば寄り添いやすくなる」
萄真 「柑太。おまえ」
柑太 「さっきさ、諦めたって言ったけど、
   今のおまえだったら渡したくないな、柚子葉さんを。
   彼女をさらっていいか?」
萄真 「柑、太」
柑太 「……あはははっ、冗談冗談。
   今、マジで焦っただろ」
萄真 「……」
柑太 「今の僕には待たせてる女性が居るからな。
   二人を一度に相手できるほど僕は器用じゃない」
萄真 「馬木さんか」
柑太 「ああ。
   おまえがそんなだと安心して彼女の許にもいけない」
萄真 「柑太」
柑太 「とにかく、このまま黙って帰るなよ。
   僕たちが帰った後でもいい。
   もう一度、彼女を抱きしめてやれよ」
萄真 「……分かった」



柑太さんは私に微笑みながら、
「泣き顔をみんなに見られたくなかったみたいだ」と言った。
そして萄真さんの裏の顔は腰抜けで弱虫だとも。
萄真さんと柑太さん。
私はこの二人の親友で居られることを、
心の底から有難いと改めて思う。




アパートの駐車場に着き、車からゆっくり降りると部屋の窓を見た。
電気がついているのに気がつき、
あの日電気をつけたまま鍵をかけずに出かけたのを思い出す。
ふらついた瞬間、柑太さんが「大丈夫か?」と透かさず支えてくれた。
頭を打って大きなたんこぶができているからか。
朝飲んだ薬のせいなのか、将又事故の後遺症か。
それとも、ハートに刻まれた無数の古傷が疼くからなのか。





柑太さんに脇を抱えられながら階段を上がり、
玄関までたどり着くと私はゆっくりとドアノブを回した。
すると部屋の中から「おかえり」と声が聞こえてドキッとする。
廊下に立っていたのは萄真さんで、
私は言葉も忘れてその場で固まったまま恍惚に見入ってしまう。
いつもと変わらない優しい笑みを浮かべる萄真さんは、
泣いてしまうくらいの安心で迎えてくれた。




萄真 「おかえり。柚子葉」
柚子葉「あ……」
柑太 「オ、オホン!
   見つめ合うのは後にして、部屋に入ろうか」
萄真 「そうだな」
柑太 「さぁ、お姫様。お部屋にお入りください」
柚子葉「は、はい」



私は部屋に入り、二人に促されてローソファーに座る。
萄真さんは私たちに温かいコーヒーの入ったマグカップを手渡して、
私と向かい合わせに座った。
彼はコーヒーを一口飲んだ後、
一呼吸置いて「話がある」と切り出した。
柑太さんは私たちを見守るように壁にもたれて座っている。




萄真 「柚子葉。
   俺の家へ引っ越して来ないか?」
柚子葉「えっ」
萄真 「あんな事故に遭ったばかりで、思い出したくないだろうけど、
   君のお母さんにこの家を知られているし、
   一緒にいた男はとても危険な人物なんだ。
   このことは夏梅社長も柑太も知ってて同意見だ。
   俺の家なら知られていないし、
   セキュリティ対策も万全だから安全だ。
   だからうちへ来てほしい」
柚子葉「で、でも。
   母は萄真さんの家を知ってるって」
柑太 「それは夏生さんの家だよ」
萄真 「兄貴の家は会社の近くにあって、俺の家から少し離れてる。
   俺の住まいは一階は工房で二階は資材倉庫、
   三階と四階が住居なんだ」
柑太 「萄真の家は店舗兼住宅の高級低層マンションだよ」
柚子葉「四階建ての……高級、マンション」
萄真 「高級ではないけど、少しは安心して住めると思うよ。
   柚子葉が安心して自分の生活を送れるようにはなると思う。
   だから引っ越し、真剣に考えてほしい」
柑太 「夏梅社長は君が嫌でなければ、
   セキュリティー万全の社宅へ引っ越してもいいって。
   でも、萄真がいるほうが安全で安心は増すだろとも言ってた」
萄真 「必ずしも俺の家でなくてもいいよ。
   俺としてはそうしてほしいけど、君の望むほうを選べばいい。
   ただあまり時間はないから今月じゅうに答えが欲しいな」
柚子葉「な、なんだか、夢のようなお話で涙が出てきちゃう」
柑太 「柚子葉さん」
柚子葉「私は萄真さんにも柑太さんにも、夏梅社長やみんなにも、
   たくさんたくさん迷惑をかけてるのに、
   まだ何のお返しもできていない。
   それに……恐ろしいことに、
   母はお兄さんのご自宅を萄真さんの家と勘違いしてる。
   このまま私が引っ越ししたら、
   お兄さんご夫婦にまでご迷惑をかけてしまうかもしれない。
   そうなったら」
萄真 「大丈夫。兄貴にはすべて話してある」
柚子葉「でも実蕗さんには」
萄真 「兄貴が話した」
柚子葉「……」
萄真 「今度、兄貴を紹介するよ。
   兄貴も君に会えるのを楽しみにしてるんだ」
柚子葉「で、でも、これ以上ご迷惑をかけてしまったら」
柑太 「もう。柚子葉さんの悪い癖だな。
   そういうことは起こってから対処すべきだ。
   君は自分を過小評価しすぎるし、仕事でもプライベートでも、
   人のことばかり考えて自分の感情や存在すら抑え込む。
   それは一概に悪い事じゃないけど、君のは度を超えてるぞ」
柚子葉「は、はい」
萄真 「俺やみんなに申し訳ないなんて思わないで。
   そう思われると俺たちが困惑する。
   大切に思う人を全力で守りたい。
   みんなの思いは一致してるんだよ。
   あとは君だけだ」
柚子葉「萄真さん」




事故の後遺症は、
私の知らない間にこんなところにまで広がっていた。
私は二人の温かい視線に見守られながら、
至福と悲惨を同時に噛み締めていたのだった。



(続く)



この物語はフィクションです。
   
 


 

にほんブログ村 小説ブログ  

 

にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ  


↑↑↑↑↑↑
皆様にここをポチッとクリックしてもらうだけで、
愛里跨はもっと執筆活動に活力を貰えて頑張れます音譜
ポチッ!と、宜しくお願いしますね(*^▽^*)


 読者登録してね