“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編24)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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24、起死回生



私は、綿毛になってしまったのかな。
幼い頃に聞いたお話の白うさぎのように。
あれは……夢?それとも幻?
耳元で微かに聞こえた。
胸に疼き染み入る細い声。
「柚子葉」「柚子葉」と何度も何度も震え呟く涙声。
まるで白うさぎの死を悼む友達うさぎみたいに。
ここは天国?それとも地獄?
私は今、どこに、居るの……




少し開いた窓の隙間から入ってくる色なき風が、
「ようやくお目覚めですか?」と私の頬を掠めていく。
重い瞼をゆっくり開くと、
白い天井と真新しい蛍光灯がぼんやり見える。
そして心配そうに私を覗き込む男性の顔も。
始めはそれが誰なのか分からなかったけれど、
少しずつピントが合ってくると、その人物が笹森くんだと分かった。




柚子葉「笹、森くん」
笹森 「岡留さん!ああ、良かった!意識が戻って。
   頭は痛くない?吐き気とか目眩とかしない?」
柚子葉「……うん。今は、大丈夫、そう」
笹森 「そっか。後遺症、出てなくて本当に良かった」
柚子葉「どうして、笹森くんが」
笹森 「岡留さんは二日前の夜、自宅前で交通事故に遭って、
   偶然通りかかった夏梅社長と僕の母さんが見つけて、
   病院へ運ばれたんだよ」
柚子葉「二日前。交通事故。
   夏梅社長と笹森くんのお母さんが……
   (私を助けてくれた。
   じゃああの声は、あの切なく悲しそうな声は、
   夏梅社長だった、のかな)」
笹森 「このまま意識が戻らないんじゃないかって本当に心配したよ」
柚子葉「ご、ごめんなさい。
   心配かけてしまって。
   (私はまた、皆さんに迷惑をかけてしまったのね。
   柑太さんやC班みんなも、このことを社長から聞いてるだろうな。
   当然、萄真さんも)」
笹森 「こんな時は謝らなくていいんだよ。
   なにより命が大事なんだから」
柚子葉「う、うん」
笹森 「でも、母さんが社長とあの日デートしてなかったら、
   君はほんとどうなってたか」
柚子葉「デート?」
笹森 「あっ。あぁ。ここだけの話だけど、
   正確に言えばあの日は、清掃作業してる僕を心配して、
   母さんが作業現場を観察したいって、
   社長に無理なお願いしたからなんだけどね」
柚子葉「観察」
笹森 「二人は大学時代からの親友で、恋人なんだ」
柚子葉「は、はぁ。恋人」
笹森 「僕ね、母さんと二人暮らしなんだ。
   高校生の時、父さんが他界してね」
柚子葉「えっ」
笹森 「父さんは爺ちゃんの後を継いで、
   ろうそく工場を経営してたんだけど、
   配達中に結構酷い交通事故に遭ってさ」
柚子葉「笹森くん」
笹森 「当時、母さんはERの看護師をしてて、
   その日も夜勤勤務で家にいなくてさ。
   事故を知ったのは自分の勤務する病院に、
   血だらけの父さんが運ばれてきたからだったんだ」
柚子葉「えっ」
笹森 「命が助かって本当に良かったって、母さんも僕も心から喜んで、 
   二人で父さんを支えようって約束したんだ。
   それがキッカケで僕もろうそく職人になると決心したんだよね」
柚子葉「そう、だったの」
笹森 「うん。でも。 
   事故の後遺症は予想以上に酷かったんだろうね。
   父さんは一人でずっと悩んでいたんだ。
   僕にも母さんにもそんな姿を一度も見せずに、
   痛い身体に鞭打って僕らのために毎日働いてた。
   でもある日。
   父さんは工場内にある事務所で……縊死だった」
柚子葉「縊……死」
笹森 「第一発見者は僕」
柚子葉「そ、そんな」 
笹森 「ろうそくの原料の糠蝋を倉庫に取りに行った時に僕が見つけた。
   その時『人生が終わった』って思った。
   10分か20分くらいだったか、ぼーとして何も考えられなくてさ。
   でもどうにかしなきゃって正気に戻って、
   鬱血して紫色の顔した父さんをすぐに床に下ろした」
柚子葉「……」
笹森 「泣きながら救急車を呼んだよ。
   そしてすぐに思った。
   冷たくなった父さんを母さんが見つけなくて良かったって」
柚子葉「笹、森くん……辛かったね」
笹森 「うん……辛かった。すごく。すごくね。
   だから研修二日目のあの特殊清掃はさすがに堪えたよ。
   柱にロープがくくられたままだったし、
   床に転がった椅子を見たら、
   あの日に引き戻されるかと思って怖かった。
   だから、岡留さんがおかしくなっちゃう気持ち、
   僕はすごく分かる」
柚子葉「笹森くん」
笹森 「後から聞かされたんだけどさ、
   あの実践研修は夏梅社長の荒療治だったらしい。
   現実から逃げずに自分の心で受け止めるための」
柚子葉「(現実から逃げないため)」
笹森 「それで社長は君の心の傷も知ったみたい」
柚子葉「そうだったんだ。
   お父さんのこと、他に誰か知ってるの?柘榴さんには」
笹森 「ううん。このことは母さんと夏梅社長しか知らない。
   柘榴さんとは、C班の仲間でゲーム仲間ってだけだから」
柚子葉「そう……
   そんな辛い話をどうして、私に話してくれたの?」
笹森 「君が、生きることに苦しんでる人だから」
柚子葉「……」
笹森 「父さんが僕に見せた顔と、君が僕らに見せる表情があの時と似ていて、
   このままだと岡留さん、この世から消えてしまうかもって思った」
柚子葉「消えてしまう……
   (そうだ。私がずっと望んでいたこと)」
笹森 「僕ね、研修初日の自己紹介の時、
   思いっきりみんなに嘘をついたんだよ。
   最期の灯りに照らされる人間の人生を学べるから、
   僕のキャパを広げてくれるから、なんて。
   そんなカッコいい話じゃないのに、
   父さんの最期すら気づけなかった奴がさ。
   僕の正体はほんとはダサくてカッコ悪い」
柚子葉「笹森くん」
笹森 「あの日から僕の中で時間が止まってしまった。
   父さんが逝って会社はたたむ羽目になって、
   ろうそくを作れなくなった僕は引きこもり生活。
   そのせいで母さんの大事な仕事まで取りあげてしまった。
   ある日の深夜、初めて泣いてる母さんを見た。
   リビングで声を殺して小さく震える背中を見て、
   僕はいったい何をしてるんだって思った。
   それで夏梅社長に頼んでリヴに入社させてもらったんだ」
柚子葉「そうだったの」
笹森 「初日、岡留さんの入社動機を聞いて驚いた。
   君はいろんなことを抱えてるのに、
   もがきながらも毎日踏ん張ってて。
   そんな姿を見ていたら、あの日の母さんの背中を思い出した。
   いつまでも逃げて甘えてる自分が、すごく恥ずかしかった」
柚子葉「笹森くんは、優しい人だね」



笹森くん。
こんなメランコリックな表情をするなんて初めてだ。
職場では柘榴さんとゲームやアニメの話で盛り上がってて、
いつも穏やかな笑顔しか私たちに見せない。
彼も私や杏樹さんと同じだ。
人に言えない悩みを抱えていて、
一人で思い詰めて自分を責め続けてたんだね。
でも……今日から変われるといいな。
私と話したことがキッカケになってくれたらいいな。
私は萄真さんと、杏樹さんが柑太さんと出会って、
少しずつだけど明るい世界もあるんだって思えたように。



笹森 「ごめん。
   闇上がりの君に長々と話をしてしまって」
柚子葉「ううん。いいのよ」
笹森 「岡留さんと二人きりで話せるシチュエーションって、
   なかなかな無いからつい、あれこれ一方的に話しちゃった」
柚子葉「いいよ。
   話してくれて良かったよ」
笹森 「う、うん」



暫くすると、病室の扉は開いて女性が一人入ってきた。
それは笹森くんの母親、乃ノ果さんで、
私たちが話している声を聞いて驚いた表情を浮かべている。



乃ノ果「柚子葉さん、気がついたのね!
   あーっ。本当に良かったわ」
柚子葉「さ、笹森くんから伺いました。
   助けて下さってありがとうございました」
乃ノ果「お礼なんていいの。
   当然のことをしたんだから。
   本当に無事で良かったわ」
柚子葉「はい」
乃ノ果「……ところで、由梅人」
笹森 「は」
乃ノ果「柚子葉さんが目を覚ましたら、
   すぐにナースコールしてって言っておいたはずだけど?」
笹森 「あっ。ご、ごめん。
   話に夢中で忘れてた」   
乃ノ果「もう!今は薬が効いてて痛みも少ないけど、
   柚子葉さんは事故で後頭部を強打して皮下血腫があるんだからね。
   骨折はなかったけど、後遺症は後から出るから恐ろしいの。
   数日は油断できないんだからこんな状態で話なんて」
柚子葉「あ、あの、私は大丈夫ですから」
乃ノ果「でもね、由夢人は男なの。  
   女性には、特に傷ついた女性には細かい気配りをしないと」
笹森 「分かった!
   母さん、ごめん。
   僕の配慮不足だった」
柚子葉「笹森くん」
乃ノ果「ふっ。解ればよろしい。
   でも、本当に良かった」

   
   
乃ノ果さんはすぐにナースコールした。
すぐに担当の医師が来て怪我や検査結果の説明をした。
頭蓋骨骨折や脳損傷の可能性を確認するため、
エックス線写真検査やCT、МRI検査を行い、
意識消失や嘔吐、重度の頭痛がなければ、
明日にも退院していいだろうと告げられる。
話を聞いている笹森くんの顔も真剣で、
会社では知り得ない彼の一面を見て私は少しほっとした。  
医師と看護師が病室を出た後、
乃ノ果さんが私を発見した状況やその経緯、
夏梅社長や柑太さんがあれこれと動いてくれたことを話してくれた。
勿論、その場に萄真さんがいたことも。



乃ノ果「貴女が久々里くんの彼女だったのね」
柚子葉「は、はい。一応、ですけど」
乃ノ果「久々里くんとは仕事が縁で知り合って、
   夏海くんたちと一緒に会食をする機会もあったけど、
   久々里くんのあんな辛そうな顔、私初めて見たわ」
柚子葉「えっ」
乃ノ果「ここに入ってきたとき、彼、顔面蒼白で動けなくてね。
   増川くんが声を掛けたら柚子葉さんの手を握って、
   崩れるようにその場に座り込んじゃったの」
柚子葉「……」
乃ノ果「『柚子葉、ごめん』って何度も譫言のように泣きながら呟いて。
   私までもらい泣きしちゃった」
柚子葉「萄真さんが泣いてた」
乃ノ果「柚子葉さん、愛されてるのね。
   久々里くんはもちろん、みんなにもね」
柚子葉「(私は、愛されている)」
乃ノ果「夏海くんや久々里くん、増川くんもすごく心配してて。
   早く教えて安心させてあげなくちゃね。
   私、連絡してくるわ」

   

あれは……夢でも幻でもなく現実だった。
耳元で微かに聞こえた、胸に疼き染み入る細い声。
何度も何度も震え呟く涙声は萄真さんだった。
私は多謝しなければならない。
こんなに迷惑をかけて心配をかけたのに、
皆さんがとても温かくしてくれることを。  
そしてたくさん謝らなければいけない。
萄真さんの気持ちも考えずに、
ほんの一瞬でも綿毛になって旅立ちたいと願ったことを、
心から謝らなければならない。
萄真さんに会いたい!
今すぐにでも……







その頃。
萄真さんは夏生さんの家のリビングにいた。
二人向かい合わせにソファーに座り、
煎れたてのブレンドコーヒーを飲みながら。
夏生さんはとても穏やかな笑みを浮かべている。
けれど萄真さんは、とても緊張しているのか、
暫く言葉を切り出せずにいた。
数分後、覚悟を決めてテーブルにコーヒーカップを置くと、
眉根を寄せ改まった口調で話し始めた。



萄真 「兄貴。この間の件だけど、ごめん」
夏生 「分かっていたよ。
   萄真は承諾しないだろうと」
萄真 「お、俺は未婚だけど、
   兄貴たち夫婦の気持ち、全く理解できないわけじゃないんだ。
   二人にとっては切実な悩みなんだろうなって想像だけどできる。
   でも……今の俺には大切にしたい人が居て、
   その人をこれ以上泣かせたくなくて。
   この世から自分が居なくなればなんて……
   死んだほうがいいなんて、思わせたく、なくて。
   俺の事情まで抱えさせて苦しませたくないんだ。  
   悲しませたくないんだよ。
   もうこれ以上……」
夏生 「萄真?」
萄真 「(俺は無力だ。
   逃げようとしても捕まえて俺が受け止めてやると、
   偉そうに啖呵を切っておいて。
   何もできなかった。

   傍に居てやることも助けてやることも、何も。
   傷だらけになって横たわる彼女の手を握るだけしか俺は、
   できなかった)」

 


   
夏生 「萄真。何かあったのか」
萄真 「……」
夏生 「大切な人とは、恋人のことか」
萄真 「……」
夏生 「何かあるなら包み隠さず話せ。
   私でできることがあるなら力になる」
萄真 「これは、俺の問題で」
夏生 「おまえの問題は私の問題でもある。
   今まで泣きごと一つ言ったことのないおまえが、
   今にも泣き崩れそうな顔で助けてくれと訴えてる。
   違うか?」
萄真 「兄貴。お、俺は」
夏生 「何も心配は要らない。
   今までも杏輔と三人で助け合ってきただろ」
萄真 「兄貴」



萄真さんは私との出会いから今までを夏生さんに話した。
そして私がずっと金銭的、精神的虐待を受けていることや、
私の母が夏生さんの家を知っていることも。
彼は終始、和やかな顔で相槌を打ちながら受け止める。
それはとても慈悲深く萄真さんを守り包み込むように映った。



萄真 「彼女は、俺と自分は不釣り合いで、
   俺の恋人になることを身分不相応だという。
   本当にあの母親の娘なのかって疑ってしまうくらい、
   いい子で優しくて脆くて。
   俺はそんな彼女を、彼女の全てを愛してる。
   今回の件で兄貴には迷惑をかけるかもしれない。
   明日にでも彼女の母親がここへ乗り込んできて、
   脅しめいたことを言うかもしれない。
   でも、今回は放っておけない。
   どうしても許せないんだ」
夏生 「萄真」 
萄真 「コンビニの映像確認をした警察関係者から、
   これは交通事故ではなく傷害事件だと聞いた。
   相手の男は警察もマークしてる要注意人物だというし、
   別件で被害届が数件出てるらしい。
   彼女のためにも兄貴のためにも、
   警察沙汰だけは避けたかったけど、
   夏梅さんとも相談して二人で被害届を出してきた。
   だから兄貴にも協力してほしい」
夏生 「そうか。事情は分かった。
   よく話してくれたな。
   この後すぐ、うちの弁護士に話を通しておく。
   彼女の母親がここへ来た時のことも踏まえて、
   万全の準備をしておくから安心しろ」
萄真 「兄貴。ありがとう、ございます」
夏生 「なんだ改まって。
   顔を上げろ、萄真。
   当たり前のことを当たり前にする。
   おまえのやってることは何も間違ってない。
   人として男として当たり前のことをしてる。
   そうだろ?」
萄真 「でも、実蕗さんには何て話すんだ」
夏生 「ありのままを話すさ。
   子供の件も、おまえの大切な恋人の件もな。
   彼女の名前は何柚子葉さんと言ったかな」
萄真 「岡留柚子葉だよ。
   すごくいい子だ」
夏生 「そうか。会うのが楽しみだ」
萄真 「ああ。今度、兄貴に紹介するよ」
夏生 「分かった」
萄真 「それともう一つ、話しておくことがある」
夏生 「ん?なんだ」
萄真 「近々、俺の家で彼女と暮らすつもりでいる。
   まだ柚子葉には話してないし、OKするか分からない。
   また意識が戻らなくて入院中だけど、
   彼女が元気になったらすぐにでも話す。
   (これ以上母親に支配されないように。
   これ以上深手を負わないように。
   狂おしいくらい君を愛してるから、
   これからもずっと傍に居るよ。柚子葉)」
夏生 「そうか。それでいいと思うぞ。
   おまえなら彼女もきっと安心だ」
萄真 「そうあってほしい」
夏生 「よし!起死回生。
   反撃だ、萄真」
萄真 「そうだな、兄貴。
   (俺は柚子葉を守り抜いてやる。
   母親とは名ばかりの毒親から、
   ケダモノのようなあの女から。
   柚子葉。俺が必ず君を守るから)」





(続く)




この物語はフィクションです。


 

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