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16、何のために。誰のために。
桃奈が……
桃奈が自ら命を絶った。
奥さんの身でありながら、旦那さんとの生活を飛び出して、
好きな男性の家で、大好きな男性の許で。
彼女の想う男性って。
この間の流れから考えると相手は、萄真さんのお兄さん。だよね。
きっと、そうだよね。
もしそうなら当然、萄真さんだってこの情事は、知ってるはずで……
康夫『病院?ふん。
何のために会いに行く。
何故俺が裏切り者のところへ行かなければいけないんだ。
世間体とか立場とか、俺の感情とか存在意義すら完全無視して、
離婚届と指輪を叩きつけて出ていった女だぞ。
このままあの世でも何処にでも行けばいい。
どうせ冥途も死にぞこないの浮気男と一緒だろうよ!』
康夫さんから聞かされた事実があまりにも辛すぎて、
テーブルにスマホを落としてしまった私。
幸いなことに傍にいて様子を窺っていた杏樹さんがすぐさまスマホを拾い、
代わりに事の一部始終を康夫さんに聞いてくれた。
後で聞いた話だけど桃奈はかなりの重傷ではあったが、
何とか一命は取り留めたらしくICUにいるらしい。
電話を切った後、杏樹さんはとても憤慨していたけれど、
項垂れる私の手を握ってスマホを渡した。
杏樹 「ほんと、残忍なやつ。
いくら浮気されて離婚を突き付けられたからって。
つい最近まで妻だった人が生きるか死ぬかって時に、
よくもまあつらつらと無慈悲なことが言えるわよ。
私でもあんな夫だったら願い下げよ。
っていうかその前に、そんなサイテー男と結婚なんかしないけどね」
柚子葉「……」
杏樹 「手が震えてる。
顔色は真っ青だし。
大丈夫?って、大丈夫じゃないか」
柚子葉「杏樹さん、私、どうしよう」
杏樹 「これから、お見舞いに行ってみる?
滅茶苦茶な会話だったけど搬送先の病院は聞き出したから。
私、今夜はとことん付き合うよ」
柚子葉「で、でも。
私、桃奈とは絶交して、今はもう友達じゃないの。
会いにいってもきっと、何しに来たんだって言われちゃう」
杏樹 「絶交、ね。
それは躊躇っちゃうよね」
柚子葉「う、うん」
杏樹 「いいじゃん。
『帰れ!』って怒鳴られても。
心配で会いに行くって思いは本心でしょ?
後悔も罪悪感も残らないでしょ」
柚子葉「杏樹さん」
心の中にサイコパスな自分とアンチサイコパスな自分が共存していて、
どうしていいのか分からないと涙ながらに経緯を話した。
この数週間、彼女と何があり、結果どうなったかを。
杏樹さんは私の抱えるすべてを優しく受け止めてくれた。
冷静な彼女の勧めもあり、追い返されるのを覚悟で会いにいくことにした。
食事処からタクシーで10分。
無事到着した私達は救急外来の入り口から院内に入り、
受付で事情を説明し問い合わせた。
桃奈はやはり集中治療室にいるらしいが、
久々里という名の患者記録はないと言われる。
しかし、一緒に運ばれた男性は確かにここに居て、
現在処置室で治療中だと教えてくれた。
男性の名前を聞いた杏樹さんは、傷つく私を心配して詳細は言わなかったが、
真相を確かめるため、治療室の男性に会おうといった。
何か解せぬといった表情を浮かべながらも、
私を支えるようにゆっくりと歩く。
フロアの先に萄真さんのお兄さんがいるかもしれない。
もしかしたら、お兄さんの奥さんや、萄真さんも……
そう考えるくすんだ心はおぞましい感情に煽られる。
杏樹さんは俯く私に近寄るとぎゅっと力強くハグしてきた。
彼女なりの精一杯の慈しみ。
その温もりは本当に有難く、
擦り傷だらけになった心に浸透して癒しをくれる。
杏樹 「私がついてるよ」
柚子葉「杏樹さん」
杏樹 「もしも、久々里さんと鉢合わせても逃げちゃだめだよ。
話せない時は私が代弁するからね」
柚子葉「本当に、何から何まで、ありがとう……」
杏樹 「何を改まって。
私達は大切な仲間で運命共同体。だよ」
柚子葉「うん」
薄暗い廊下を通ると広い待合スペースに出て、
まっすぐいくと処置室が見えてきた。
その前には急病で訪れた人が数人いたけれど、
夜のフロアはとても静かだった。
私達は少し離れたベンチに腰かける。
萄真さんのお兄さんとはまだ面識はない。
必ずしも萄真さんが同席しているとも限らない。
それなのに、私は何のためにここにいるの。
そして誰のためにここに座ってるの。
自分の行動も真意もよく分からぬままに。
ふと左手に目をやると、フロア中央にガラスで囲まれた石庭があり、
濁った月明かりが物悲しく照らしている。
情緒不安定の私には、それがあの世の入り口のように見えた。
萄真 「今は、俺にも守りたい相手がいる。
その人のためなら命をかけてもいいって思えるほど、彼女が愛おしい」
実蕗 「そうなの……
そんなことさらっと言われちゃうと、なんだか焼けちゃうな」
萄真 「兄貴を裏切るなよ。
もし。俺の時のように兄貴を裏切ったら、俺は君を絶対に許さない。
義姉さん」
実蕗 「萄真……」
実蕗さんはゆっくり近づくとそっと彼の胸に触れた。
しかし蠱惑な空気を遮るように、
萄真さんのスーツのポケットの中でスマートフォンがバイブ音をたて始める。
彼は誘惑の手を振り払いながらスマホを取り、
画面を確認すると優しい微笑みを漏らした。
萄真 「ふっ。ナイスタイミング。
しかし、参ったな。
柚子葉さん、こんなに着信残して。
(今度は何があった?)」
実蕗 「萄真。
柚子葉って、誰なの」
萄真 「さっき言ってた兄貴の提案の応えは完全にNOだ」
実蕗 「NOって何故……
これは私たち二人で何度も話し合ったことなの。
貴方なら最良だと判断したから夏生さんは」
萄真 「最良?最良なのは兄貴と君だけで、俺には最悪の提案なんだよ。
実蕗 「最悪⁉
私とそうなるのが最悪だと思ってるの⁉」
萄真 「ああ、最悪だね。
俺は自然の成り行きに任せればいいと言ってるんだ」
実蕗 「夏生のためなのよ。
彼が望んでいるから萄真の力がいるの。
貴方の大切なお兄さんの望みよ。
それなのにどうして拒否るの?
そんなに私が嫌いなの⁉」
萄真 「ったく、そんな子供じみた理由じゃない。
人一人の命の問題なんだぞ。
そんなことも言わないと分からないのか。
君たち夫婦にも俺にも、将来最悪の結果を生むだけなんだよ。
それにこんな重い話、簡単に決められるものじゃない。
今の状況とこの場所で話すことでもない。
不謹慎すぎる」
実蕗 「今だから言えるの。
こんな時だからこそ」
萄真 「何故俺なんだ。
兄貴の兄弟なら杏輔もいるだろ」
実蕗 「杏輔さんじゃ駄目なの。
萄真、貴方じゃなきゃ駄目なのよ」
萄真 「話にならないな。
帰る。
兄貴に、この件は二人きりで話そうと伝えてくれ」
実蕗 「萄真、待って!
まだ帰らないで」
引き留める実蕗さんを後目に足早にエレベーターホールへ向かい、
すぐに開いたドアの向こうへ消えていく。
彼女は慌てて病室に戻ると花瓶を置き、
椅子の上のバッグを取って萄真さんの跡を追いかけた。
エレベーターを降りた萄真さんは手に持っていたスマホの着信を再度見つめ、
軽く溜息をつくと画面をタッチして耳に当てた。
受話口の奥で何度も鳴り続けるコール音。
萄真「俺も。
君がびっくりするくらい掛けるかな」
萄真さんは留守番電話に切り替わると言葉を残さず、
何度も何度も掛けなおしたのだ。
ベンチに腰かけて数十分後のことだった。
両腕を包帯でぐるぐる巻きにされた背の高い男性が、
看護師と話しながら処置室から出てきた。
しかしその人物を確認できたと同時に、
体中の血の気が引くのを感じ、私の全身はフリーズする。
更に予想だにしなかった事態がいきなり頭上に降りかかってきたのだ。
男性がこちらへ視線を向けた途端、鋭い眼光が私を貫き、
ゆっくりと近寄ってくると不敵な笑み浮かべて容赦なく毒を吐いた。
貴義 「やぁ。久しぶりだな、柚子葉」
柚子葉「た、貴義」
杏樹 「貴義って」
貴義 「なんでおまえがこんなところにいるんだ?
あぁ、そうか。三葉ね。
これっておまえの嫌がらせか。
三葉を俺のところへやって無様な姿を見せつけるって魂胆か」
柚子葉「えっ」
貴義 「それとも。
おまえが三葉をけしかけたのか。
俺に振られた腹いせに、
あいつを俺んちに寄こして包丁を振り回せって」
柚子葉「包丁を、振り回す……
(桃奈は、萄真さんのお兄さんでなく、貴義の家にいたってこと⁉
どうして、そんなこと……)」
杏樹 「貴方、何を訳の分からないこと言ってるの。
いきなり近寄ってきたかと思ったらつらつらと言いたい放題。
柚子葉さんはそんなひどいことする子じゃないわよ」
貴義 「あんた。こいつの友達?
なんだ、柚子葉。
また嘘を言って人を騙してるのか」
杏樹 「ちょっと!いい加減にしなさいよ」
貴義 「何も知らないようだから、奇特なあんたにも教えておいてやるよ。
柚子葉って女はな、結婚詐欺師並みの嘘つきなんだよ。
私は何も知りませんって顔で清楚な女を演じてさ、
真実を嘘で固めて狙った男に軽々しく近寄ってくるんだよ。
酒に溺れて金の亡者に成り下がった醜い母親の存在を隠してさ、
結婚を迫ってくるような恐ろしい女なんだよ。
俺も危うく騙されるとこだったぜ。
年食ったらこいつもあの鬼畜な母親のようになるんだからさ。
あんたも気をつけたほうがいいぞ」
柚子葉「……」
杏樹 「本当に失礼な人ね!」
冷たく静かな廊下に彼の惨い言葉が響き渡る。
私の肩を抱きしめながら交戦する杏樹さんの声が、
唯一今にも砕け散りそうな心を支えてくれていた。
そこへ……
勇敢な彼女の助っ人に入るように、
両手で握りしめていたスマホがブンブンと鳴りだす。
私は恐る恐る掌の中で光る画面に目をやった。
ここにも味方はいるぞと叫ぶように、
切れては鳴り、切れては鳴るスマートフォン。
映し出された『久々里萄真』の文字がくっきり見える。
条件反射のように私の両目からつーっと流れる一筋の涙。
そして薄暗い通路の先から聞こえてきた心地いい声と、
頼もしいシルエットが私の胸を更に熱くさせたのだ。
萄真 「柚子葉!」
柚子葉「と、萄真さん……」
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