“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(柚子葉ちゃん編11)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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11、心の所在


32年間生きてきて、これほどまでに、
「美味しい」「楽しい」「幸せ」を連発した日があっただろうか。
この身にこの心に、沁み渡るほど美味な食事と悦ばしい語らいも。


不器用な娘と料理上手なお母さんが一緒に作る家庭料理。
それらが盛られた器が食卓に並び、席に着くと嬉しそうに眺め、
「いただきます」と言って手を合わせ箸を持つ。
ほくほくの肉じゃがとわかめの味噌汁、
炊き立ての白ご飯を代わる代わる頬張りながら、
今日学校であった出来事を早口でしゃべり出す娘。
「ほらほら、食べながら話すとこぼれるでしょ?」と注意するお母さん。
目を細め温かな眼差しを2人に向けるお父さん。
そんな絵に書いたような家族の団らんと、
ほっこりする追憶なんてもの私にはない。
ドラマや映画、アニメなんかで何度も繰り返し観て、
幼少期に味わえなかった感覚を妄想し疑似体験するくらい。
それしかなかった。
それしかできなかった。
でもそれが……



柑太 「柚子葉さん、この揚げ豆腐も食べていいからね。
   他に頼みたい料理があったら遠慮なく言ってね」
柚子葉「は、はい」
萄真 「柑太」
柑太 「ん?何」
萄真 「それは俺のセリフ。
   柚子葉さん、最後にデザートもくるよ」
柚子葉「はい。
   久々里さん、増川さん、本当にありがとうございます。
   おふたりにはいつも良くしてもらうばかりで、私」
柑太 「もう。そんな肩ぐるしいのはいいの。
   さっきも言ったけど、もう親友なんだから、
   プライベートでは『柑太』『萄真』でいいって」
柚子葉「そうでしたね。 
   では、柑太さん、萄真さん」
柑太 「そうそう」
萄真 「それでいい。よくできました」
柚子葉「はい」
柑太 「それで?
   おまえの相談事って何だよ、萄真」
萄真 「ん?ああ、そうだな」
柑太 「珍しく切羽詰まった感があったけどさ。
   まさか女の話か?
   硬派の萄真にもついに春が訪れたか!」
萄真 「恋愛音痴のおまえに女の話なんか相談するかよ」
柑太 「そりゃあ、僕が萄真の甘いも酸っぱいも理解してる人間だからね。
   惚れた女の落とし方を教えてくれって言うんだろ?」
萄真 「はぁーっ。ただただ呆れる。
   よく恥ずかしげもなく平気な顔で臭いセリフが言えるな」
柑太 「何でも受け止めますよ、この広い胸で。
   ねっ。柚子葉さん、君もね」
柚子葉「は、はい」
萄真 「柚子葉さん。
   上司だからってこいつに遠慮なんかしなくていいぞ。
   すぐ木に登る男なんだから、
   『間に合ってます。丁重にご遠慮します』って言ってやれ」
柚子葉「えっ」
萄真 「もし研修中に公私混同して迫ってきたら蹴飛ばしていいぞ」
柚子葉「蹴、飛ばす」
柑太 「はぁ!?
   夕方の電話じゃ深刻な声で『おまえの意見を聞かせてくれ』って、
   頼んでたやつが僕にそういうこと言うか」
萄真 「ああ。ご希望とあらば何度でも言うよ。
   柚子葉さんの相談となるとまったく別物だからな」
柑太 「そう。
   それじゃあ、今夜は萄真の相談には乗らねえ」
萄真 「そうか。
   それじゃあ、今夜のおまえの食事代は自腹だな」
柑太 「えーっ!!
   ここはいつもの冗談で笑い飛ばすところだろ」
萄真 「決まりな」
柑太 「……萄真ーぁ。なぁ萄真ーぁ。
   僕、給料前なんだよぉ。
   膝交えてしっかり相談に乗るからさーぁ。
   今夜はおごってくれるよなーぁ」
萄真 「おい。格好悪いぞ。
   それに給料もらったばかりだろ」
柑太 「いいじゃないかーぁ。
   僕とおまえの仲だろぉ?
   ここで足りなきゃ膝枕しながら話聞くからさぁ。
   ゴロニャン」
萄真 「こっちくんな、喜色悪いだろ」
柑太 「萄真ーぁ。
   今夜はおまえのおごりでいいよなぁ。なぁ」
萄真 「分かったらハグするのやめろ!   
   俺はそんな趣味ねえよ」
柚子葉「うふふふふふっ。
   おふたりの会話ってなんだか、兄弟漫才を聞いてるみたい」
柑太 「そ、そう?漫才みたいに楽しい?」
柚子葉「ええ。とても楽しくて幸せです」
柑太 「柚子葉さんが楽しいなら僕もすごく嬉しいよ。
   このくらいで幸せって思ってくれるなら、僕は毎晩食事会してもいいよ」
柚子葉「ま、毎晩ですか」
柑太 「そうだよ、毎晩」
萄真 「おまえ、なんかいやらしいんだよな」
柑太 「どこがだ」
萄真 「毎晩こいつの面を見るのと、
   兄弟っていう設定は却下だけど俺も、
   柚子葉さんが楽しくて幸せなら本当によかった」
柚子葉「萄真さん」
柑太 「萄真、意見が合ったな」
萄真 「ふっ。ああ」
柑太 「負けたみたいで無茶苦茶ムカつく」
萄真 「ああ!?まだ言うか」
柚子葉「うふふふふふ」   



今は温かい食卓も楽しい会話も現実にここにある。
手を伸ばせば容易く触れることができるくらい近い場所に。
この目に、この耳に、この舌に、そしてこの身体に、
今あるすべてを包み込んで伝えてくる。
まだ出会って数ヶ月しか経ってないのに、
旧友のように接してくれる彼らのお陰で……




お笑い芸人並みのやり取りを繰り広げた後、
萄真さんは急に真面目な表情をして、
私たちに会社で起きている問題を話し出す。
彼の仕事は家具職人。
そしてリヴの仕事も請け負っている。
それなのに……
話を聞いているうちに段々、本当に家具職人なのか分からなくなる。
けれどそのあやふやな疑問の答えはすぐに、

柑太さんと萄真さん本人の説明でクリアにされた。






柑太 「逆パワハラか」
萄真 「あぁ」
柑太 「その証拠もあるんだな」
萄真 「社員がスマホで取った画像だが、
   しっかり本人だと確認ができるほど鮮明だよ」
柑太 「その部長に関してはどっぷり鵜呑みにするのはどうかと思うけど、
   夏生さんに限って奥さんを裏切ることはないだろ。
   おまえとのこともあるし」
萄真 「ああ……そう願うけどな。
   ただ知ってしまった以上、放ってはおけないだろ」
柑太 「そうだな。
   僕でも、萄真と同じことをするかも。
   今更コンフリクトが起きたことを責めるより、
   その問題とは全く関係のないお膳立てをするな。
   そして最終的にその社員を辞めさせる方向に持ってく」
萄真 「柑太もそうするか」
柑太 「ああ。当事者か会社か。
   問題を起こした奴がその行動や立場、評価の素因を、
   どこに求めるかにもよるけどな。
   聞いてるとその社員は他者依存型人間だよな。
   何をしても自分以外の誰かのせいにするだろうし」
萄真 「だから兄貴と何かあったとしたら、
   彼女はいずれ兄貴の責任にする。
   離婚するから正社員にってことだけど、まだ既婚者だからな。
   自分も人妻なのに平気で他の男を求めるなんて、俺には理解できない」
柑太 「何かあれば結果、夏生さんの奥さんを傷つける、か。
   それはおまえがいちばん望まない結果だしな」
萄真 「……」
柑太 「しかしそのお膳立てだけどさ、
   もし試験に受かったらどうするんだよ。

   それからじゃ解雇するのは難しいぞ。
   社長から一任されたんだから、
   逆パワハラを理由を解雇できるだろ」
萄真 「そうなんだが、兄貴からは簡単に切るなとも指示されてる。
   それにあの画像だけでは証拠として弱いんだ。
   逆に彼から迫られたと言われたら部長が不利になる」
柑太 「それもそうだな。
   柚子葉さんはどう思う?
   君は女性の立場だから僕らとは違う意見かもしれないし」
柚子葉「えっと、ごめんなさい。
   お話の内容が点から線にならなくて。
   1人の女性社員が社長さんと部長さん、
   2人の上司に迫って逆パワハラしてるんですよね」
萄真 「そうだよ」
柚子葉「社内全体が知っていて証拠画像も撮られてる。
   女性の立場というより社会人としてそれって完全にアウトですよ。
   私の以前勤めていた会社だったら採用試験なんてなしで即解雇です。
   でも……」
柑太 「でも?」
柚子葉「萄真さんの勤める会社はお兄さんが社長さんなのに、  
   何故萄真さんがその女性社員の処分を考えるんですか?」
柑太 「あぁ。こいつ、久々里コーポレーションの副社長なんだよ」
柚子葉「……えっ」
柑太 「萄真は三人兄弟でね、会社は主に輸入家具を扱ってるんだ。
   長男の夏生さんが親父さんの会社を継いで社長になった。
   そして次男の萄真が副社長兼工房KUGURIのオーナー。
   三男の杏輔くんもクラフトデザイナーなんだよ。
   久々里萄真は高貴な家柄なんだ」
柚子葉「高貴……」
萄真 「柑太、高貴なんて言い過ぎだ。
   それになんでおまえが俺の家族を語ってんだ」
柑太 「でも本当のことだろ。
   萄真は、僕のようなサラリーマン家庭の息子じゃない」
萄真 「弟の杏輔はもう結婚して養子になってね、
   今は義父の経営する千葉の工房にいる」
柚子葉「そうですか……萄真さん」
萄真 「ん?」
柚子葉「この間、私には自分は家具職人だって。
   あのトラックで依頼があったら家具を取りに行くって」
柑太 「えっ。
   (この間?って……いつ)」
萄真 「そうだよ。
   君に話した通り、俺は正真正銘の家具職人だよ。
   家族のことや会社のこと、俺の素性は、

   もっと時間があるときにゆっくり話せばいいと思ってた」
柚子葉「そ、そんな……
   (だから。
   お金も地位もあるから私を助けたいと思ったんだ。
   酒乱で訳の分からない母親と貧乏な生活に耐える可愛そうな女。
   未だにお金を騙られる私に同情しただけだ。
   ……でなければ、
   『誰にも言えないことでも、君にだけは言える気がした。
   初めて出会ったとき、君はそんな人だと感じたから』なんて、
   どこの馬の骨とも分からない人間にさらっと言えるわけがない。
   よきサマリア人でない限り)」




 

萄真さんは痛いほどの視線を外さず私を見ている。
まるで全てお見通しだと言いたげな表情で。
彼は立派な家柄の人。
私の住む下級世界とは全く正反対の上級世界の住人。
そういえばいつだったか、格差社会に生きる男女の映画を何本か観たな。
それで自分を奮い立たせようとした。
ハッピーエンドもあったけど、
どの作品にも描かれている世間の人達は彼らを許そうとしなかった。
ましてや毒親を抱えている私には、幸せな結末なんて当てはまらない。
結局、ふたりの格差は埋まらないまま悲しい結果になるのがオチだ。
そう悟った瞬間に、私はゆっくり立ち上がる。
萄真さんに失礼だと思いつつもこのまま彼の話を聞いていると、
すごく辛くて何より悲しくなるからだ。




柑太 「柚子葉さん、どうした?」
柚子葉「す、すみません。
   ちょっと、化粧室に行ってきます」
萄真 「……」
柑太 「う、うん。
   体調が悪いんじゃないよね」
柚子葉「は、はい。
   大丈夫ですから。
   お話の途中なのにすみません」
柑太 「ううん。いいよ。
   行っておいで」
柚子葉「はい」



靴を履き、座敷の席からカウンター前を通ると左手に小さな中庭が見える。
高級料亭のような和の雰囲気がいっぱいの落ち着いた空間なのに、
私の心だけざわざわとして落ち着きない。
見せたくない腹黒な部分まで彼に見透かされたようで、
今すぐにでもここから抜け出したい気持ちだった。



柑太 「柚子葉さん、大丈夫かな。
   化粧室に行ってから10分は経つぞ」
萄真 「そうだな」
柑太 「萄真に電話で少し説明したろ。
   彼女が現場で取り乱して倒れた話」
萄真 「ああ」
柑太 「僕さ、『柚子葉、死んで』っていう譫言の理由を聞きそびれたんだ。
   これからの研修でそれが柚子葉さんの足枷になったら」
萄真 「もうなってる。
   彼女はずっとそれを引きずりながら生きてきたんだ」
柑太 「ど、どういう意味だよ」
萄真 「柚子葉さんは母親から精神的な虐待を受けてる。
   小さい時からずっと。
   俺は偶然その場に居合わせた」
柑太 「居合わせたって、いつ」
萄真 「彼女は、良くも悪くも自分のせいだと考える。
   いや。悪いのはすべて自分のせいだと考えてる。
   この世に生まれてきたこと、存在価値すらもだ。
   それじゃあ魂も彼女自身も居る場所がない」
柑太 「なんだよ、萄真。
   えらく柚子葉さんのこと知ってるみたいだな。
   なぁ。おまえさ、僕に隠してることがあるだろ」
萄真 「隠す?」
柑太 「昨日の夕方も研修センターまで来てただろ。
   おまえと柚子葉さん、いつ約束取り付けたんだよ。
   連絡先も知らないのにどうやって彼女と会ってる。
   僕には知らないフリをして、ふたりで示し合わせて、
   しょっちゅう会って話してるんだろ?」
萄真 「そんなんじゃない。
   偶然に2度会っただけだ。
   (コンビニの日を入れれば3回だな。
   セレンディピティだよ、柑太)
   ちょっと様子を見てくる」
柑太 「お、おい、萄真。
   様子を見てくるって女子トイレだぞ」
萄真 「分かってる」
柑太 「分かってるって。
   あぁ、彼女のトイレを平気でのぞける仲まで進展してるってことかよ」
萄真 「何を訳の分からんことを言ってんだ、おまえ。
   はーっ。そこまで阿保だったとは」
柑太 「あ、阿保はないだろ!」
萄真 「女将さん」
女将 「はい。どうした?久々里ちゃん」
萄真 「ちょっとお願いがあるんだけど」
女将 「お願い?」
   


星光



化粧室にこもった私は大きな鏡に写る自分をじっと見つめる。
この哀れな姿を萄真さんはさっきどんな気持ちで見ていたのだろう。
せっかく柑太さんが親友になろうと言ってくれたのに、
こんな私じゃ、ふたりの親友になんてなれない。
早く何でも話せる関係になれるようにと願っていたのに、
こんな悲観な私じゃ本当の自分を取り戻せないばかりか、
心の在り方さえ見失ってしまう。
涙の代わりに零れた溜息がさらに己の情けなさを深く感じさせたのだ。

(続く)



lこの物語はフィクションです。

 

 

 

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