“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(美來ちゃん編35)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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35、エモーショナルインテリジェンス

 

 

 

2時間掛かけて東条大雅さんのスタイリングを終え、
安堵の溜息をつきながら次のカルテを確認する。
氏名の欄に桐生智輝という文字を見た瞬間、
再び全身に緊張と無言の重圧が掛かる。
今日のスタイリングは4名の予定だったけれど、
仕事の都合で2名は中止と沢辺さんから告げられた。
それは誰だったのか。
サロンの壁時計をチラッと見て、
こみ上げる複雑な想いを誤魔化すように窓の外へ視線を移した。

 

美來「(秋真だったのかな……ううん。
  そんなことはない。
  もしそうだったら、海棠さんが事前に話してくれるはず)」


正直、純愛ドラマのような甘い期待は拭えず、
「もし会えたら」と想像を膨らませている身勝手な自分。
なんて滑稽なんだろう。

 

それから15分の休憩を挟んで、
智輝さんがやってきた。
彼はスタイリングスペースに入るなり、
濃紺のニット帽とチェスターコートを脱ぎ、
スタッフに渡すと「ひさしぶりだね」と微笑み声を掛けてきた。
あまりのナチュラルさに戸惑いながらも、
私は仕事だからと割り切って会釈をする。
さぁ。
これから120分、葛藤と闘いが始まるんだ。

 

 

 

カウンセリングから始まり、

シャンプー、カット、スタイリングと問題なく順調に進める。

しかし何故か智輝さんは終始無言で鏡を見つめ、
鏡の中の彼は物言いたげに私を直視する。
呆れているのか、哀れみなのか、
それとも友を蔑ろにする人間に憤りを感じているのか。
その視線は重く鋭く全身に突き刺さって痛かった。
ラスト5分。
スタイリング剤を手につけ、手ぐしで髪を整えて、
全ての工程を終えた私は、いつも通りハンドミラーを開いた。
後ろ姿を映しながら自宅でのスタイリング方法を伝えたあと、
恐る恐る智輝さんに話しかける。

 

美來「あの、いかがですか?
  イメージ通りの仕上がりでしょうか」
智輝「うん!イメージ通り」


先程までの厳しい視線を覆すほど意外な言葉に、
ホッと胸を撫で下ろす私。


美來「良かった!あっ。すみません」
智輝「何を謝ってるの。
  すごく気に入ったし、ソフトでいい感じだよ。
  役のイメージにも合ってるしね。
  美來さんは腕がいいんだな」
美來「あぁ。お褒め頂き、ありがとうございます」
智輝「お世話抜きで、安心して任せられた。
  りおなが言ってた通りだな。
  これからもお願いしたいくらいだよ」
美來「そう言ってもらえて嬉しいです。
  でも、私はスタイリストになったばかりで、
  腕もセンスもまだまだですから、
  もっと勉強しなくちゃいけないんです」
智輝「それを言ったら僕だって同じだ。
  まだまだ自分の演技に納得がいかないからね」
美來「あんなに味のある演技をされる智輝さんなのにですか?」
智輝「おっ。嬉しいこと言ってくれるね。
  何でもそうだと思うけど、その道のプロっていうのはさ、
  一つの結果で満足を得るってことはないよね。
  一生を通してが終点で、
  常に上へ上へと目指して努力を惜しまない」
美來「そうですよね。
  私もそうありたいと日々思ってますけどね」
智輝「僕もだよ。
  しかし、仕事姿の美來さんを初めて見たけど感動だよ」
美來「そんな。智輝さん、おおげさです」
智輝「秋真もあの時そう思っただろうな、きっと」
美來「えっ」
智輝「あいつも意地張ってないで来ればよかったのに」
美來「……秋真さん、ですか」
智輝「そう。
  今日さ、あいつもここへ連れてくる予定だったんだ」
美來「(やっぱり。そうだったんだ。
  仕事で来れなかった)」
智輝「何度誘ってもあいつ行かないって言い張ってさ。
  役作りでヘアスタイルは変えなきゃならないし、
  今日は撮影まで時間があるから来れないわけないのにな」
美來「(来れるはずだったのに、来なかったの?
  私に会いたくなかったってこと、なの……)
  それって、私と会いたくなかった。ってことですよね」

 


急に臆病風に吹かれた私は、
いじけた心が傷つかないように恥かしい言葉で自分を守る。
しかし智輝さんは回転椅子に座ったままくるりとふり返り、
本心を見透かすように微笑むと佇む私を見上げた。

 

 

智輝「もし、あいつが会いたくないと思ってたらどうなの」
美來「えっ」
智輝「美來さんはそれでいいんだ」
美來「いいも何も、私に選択権はありません」
智輝「どうして」
美來「彼から一緒に居てほしいと言われたのに、
  自分のわがままで二度も断りましたから」
智輝「それってわがままなのか?
  第三者の僕から見れば、
  秋真のほうがどんだけわがままなんだって感じるけどな」
美來「そ、そんなことは……」
智輝「美來さんは秋真に会いたいだろ?
  本当に、10月まで一度も逢わずに、
  あいつが福岡へ来るのを待つつもりなの」
美來「それは。彼には、立場がありますから」
智輝「……そうだな。
  確かに僕にもあいつにも立場や抱えるものはある。
  日頃は口には出さないことだってある。
  例えば、必死で稽古して役作りをして、
  与えられた役に成りきって演じてみても、
  SNSでは批判や苦情が次々と浮上する。
  そりゃあさ、世間の嫌われ者の悪役より、
  正義感あふれる善人役のほうが誰だって遣りたい。
  だけど与えられた以上何の役であれ、
  作品を観賞する観客が感動したり、
  感情移入するくらい喜怒哀楽を感じてもらえるように、
  僕たちは演技をするので必死なんだよな。
  それが悲しいかな、役者の演技に賞賛を集めるんじゃなく、
  『あの役者は最低』だと批判や苦情の嵐だ」
美來「智輝さん。
  もしかして、何かあったんですか」
智輝「ん?あぁ。何かは日常茶飯事にね。
  そんな理不尽な世界に居る僕たちだけど、
  現場を離れれば一人の人間で一人の男なんだよ。
  好きな女に寄り添い、抱きしめたいと思う。
  君らと何ら変わりはないよ」
美來「智輝さんの言いたいことは分かります。
  私だって、純粋に秋真さんのお芝居を観たくて、
  彼の輝く姿を見たくて劇場にも行きました。
  だけど世間はそれを許さないんだなってことも知りました。
  あまりに相手が偉大すぎると臆病にもなるんです」
智輝「そうかもしれないけど、
  君まで世間の奴らと同じ目線であいつを見るなよ。
  そうやって自分の気持ちを押し殺してただ待ってるの?
  確かに君から見ればあいつは有名人だから、
  いろんなことに戸惑い悩むだろう。
  だけどさ、縁あって君たちは知り合って、
  ハートで感じあったから付き合ったんだろ。
  大事な記憶を失って秋真も失って、
  辛い思いもしたけど、また秋真も記憶も取り戻した。
  それなのに今更そんなこと言うなよ。
  今気持ちに素直にならなくてどうする」
美來「……」
智輝「あぁ。そういえば、りおなが言ってたよ。
  美來さんは優柔不断でウジウジと考え込んじゃうから、
  相手のリードとアプローチが必要不可欠だって。
  だけど女優のプライドにも引けを取らないくらい、
  負けず嫌いな一面があるから放おっておけないってさ」
美來「えっ。負けず嫌いなんてそんなことは」
智輝「そういう美來さんが頼もしいってこと。
  僕たちの居る世界が弱肉強食のサバンナみたいな世界だから、
  遠慮すれば誰かに糧を奪われていつか食われちまう。
  秋真もそうだ。
  君があいつから握られた手を放したら、群がる女(ヤツ)が大勢居る。
  もう今までの辛い過去にも、
  粟田日菜乃にも遠慮する必要はないんだから。
  僕の言ったこと、忘れないで」
美來「智輝さん……」

 


智輝さんは懇願するように本音で語り、軽く私の手を握った。
言われる事の一つ一つは痛いくらい伝わってる。
でも握られた手を強く握り返すほどの勇気と自信が、
今の私にはまだ欠けている。
智輝さんは乾いた笑顔を返し、
うつ向く私の肩を軽くポンと叩いて立ち上がると、
後ろで控えていた沢辺さんからコートと帽子を受け取った。
そして「ありがとう」と発して部屋を出ていったのだ。
一部始終を聞いていた沢辺さんは、
項垂れる私の傍へ来ると背中に優しく触れた。

 

 

沢辺「痛いところを突かれて辛いわね」
美來「沢辺さん」
沢辺「聞く気はなかったんだけど、
  彼が熱弁するものだから聞こえてきてね。
  しかしあんな名の知れた俳優さんでも、
  私たちと同じように重く抱えてるものがあるのね」
美來「は、はい」
沢辺「あぁ……それにね、今日のこともあったから、
  美來さんのプライベートなのにごめんなさいね。
  海棠くんに事情を聞いたの」
美來「そうですか……
  私、どうすればいいんでしょう。
  逢いたいなんて言って彼を困らせたらって思うと」
沢辺「想いが強ければ強いほどそう思うのは自然よ。
  まぁ、私も気持ち殺して待ってた人間だからね」
美來「沢辺さんなら何時、
  好きな人に想いを伝えようと思いますか?」

 

昨夜の海棠さんとのことは知っていたけれど、
見ていたとも言えず、私は在り来りな質問を投げかけた。 

 

 

沢辺「実は私ね、昨日の夜、突発的に告ちゃったんだ。
  彼の周りで第三者の存在がちらつくと、
  人って感情的に本音を言えたりするのよね。
  そのぶん、その感情を抑えるのも大変だけど」
美來「第三者の存在」
沢辺「そう。さっき言ってた負けず嫌いってやつかな。
  ライバル意識とも言うけど」
美來「そうですね。
  私にもそれはあるかも、しれません」
沢辺「それも好きっていう感情の一つで素直な想いだもの。
  美來さん、彼のことを本当に愛しているなら、
  美來さんも感情の赴くままに行動してみれば?」
美來「えっ」
沢辺「逢ってみれば彼の本心も分かるはずよ。
  明日までは東京に居るんだから、これがその機会かもよ」
美來「沢辺さん……
  そうですね。考えてみます」
  

秋真さんの事が気になっているのに自分からは動かない。
今でもひょっこり彼が目の前に現れて、
優しく微笑んでくれると思ってるエゴイスト。
そんな私は彼女の笑顔とアドバイスに救われた。

 

 

 

午後11時半過ぎ。
プロモーション撮影を終えた秋真さんと智輝さんは、
事務所へ戻る車中に居た。
スフマトゥーラ原宿店での出来事を楽しそうに話す智輝さん。
しかし秋真さんは相槌も打たず静かに聞いている。
それから数分後、
車が事務所ビルのロータリーに入り停止すると、
秋真さんはドアを開けて先に降りたのだ。
慌てた智輝さんは中へ入ろうとする彼の腕を強く掴み引き止めた。


智輝「おい、秋真。待てよ」
秋真「なんだ。
  もう遅いし明日は早いから帰るぞ」
智輝「さっきからだんまりを決め込んでるけど、
  人の話聞いてるのか。
  おまえのことだぞ」
秋真「はぁ?俺のことじゃなく、おまえと美來の話だろ」
智輝「そうか、だからどうも思わないって?
  自分の女が他の男と楽しく話してても知らん顔できるってか。
  心の広いヤツだな。ご立派だよ」
秋真「ふっ。好きにほざけ。
  俺は美來を信頼してるだけだ。
  じゃあ、おまえは平気なんだな。
  りおなさんが俺と楽しく会話してても、
  嫉妬することもなく寛大で居られるんだろうから」
智輝「それはない。
  りおなに関しては別だ。全くの別物だ。
  彼女に近づいてみろ、タダじゃ済まさないぞ」
秋真「あはははっ。心の小さいヤツだな」
智輝「うるせぇ」
秋真「今夜は冷えるんだぞ。
  風邪引いたらどうするんだ。
  撮影どころじゃなくなるんだぞ」
智輝「ちょっと待てって」
秋真「だからさっきから何なんだよ!」
智輝「あれ」

秋真「あれって何だ」
智輝「だからあれだよ」
秋真「はぁ!?あれって何だって、聞いてる」

 

 

秋真さんは智輝さんの手を振り払い、
苛立ちを露わにしながら彼が指差した先に目をやった。
秋真さんは街路樹の側で立っている人物を見た瞬間、
目を丸くして動けなくなるほど驚く。
今まで感情を表に出さず、
向き合うことに恐怖を感じていた人物に。

 

 


秋真「なんで……
  美來がどうして、ここにいるんだ」

美來「秋真……」

 

 

伊吹3

 

 


(続く)

この物語はフィクションです。

 

 

 


 

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