“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(美來ちゃん編34)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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キス23


 

34、共鳴する愛

 

スフマトゥーラ青山店で緊張の一日を終えた私は、
二階のスタッフルームで道具を片付けていた。
いつも以上にピリピリした空気の中で何時間も仕事したからか、
両肩が板のように堅くなり、心身疲れ果てて空虚な気持ちになる。
この店に入っていきなり、元カノ花園百姫さんに会ったのも、
硬直に拍車を掛けたかもしれない。
けれど、アドバイスをくれた沢辺香苗さんは終始優しく、
美容師としても同じ女としても学びをくれる存在になった。
精神的に自立していて、経験も知識も持っているのにとても謙虚な人。
私は対象的な二人の女性に会い、それが海棠さんの過去を知るキッカケになって、
初めて彼を近い存在だと感じたのだ。
不思議な今日一日を思い返しながら安堵の溜息をついた時、
海棠さんが入ってきた。

 

 

美來「海棠さん、お疲れ様でした」
海棠「ああ、お疲れさん。
  慣れない場所での作業だったから疲れただろう」
美來「はははっ。はい、正直言ってクタクタです」
海棠「そうか。
  じゃあ、手っ取り早く明日の予定を伝えような」
美來「はい」
海棠「これが二日間の予定表と顧客リストだ。
  二枚目のリストに書かれているのは、
  明日スタイリングする男性モデル3名のカルテだから、
  店に入る前に目を通しておいてくれ」
美來「はい。櫻坂倭(おうさかやまと)さんに、
  道明寺新(どうみょうじあらた)さん……これは」

 


海棠さんから渡された資料に軽く目を通した。
しかしその顧客カルテを見て驚き、私は海棠さんを見る。
そこへ沢辺さんが入ってきて、
「温かいうちにどうぞ」とコーヒーをテーブルにおいた。
私は「ありがとうございます。頂きます」と返しながらも、
海棠さんの左隣に座った沢辺さんにも目を向ける。

 


海棠「どうした。何か言いたそうな顔をしているが、
  おかしいところでもあるのか」
美來「あっ。いえ、そうではなくて。
  この顧客カルテがあまりに詳しく記入されているのでビックリして。
  髪質や好みの髪型や色、過去の髪型は勿論なんですけど、
  顧客の家族構成や趣味、近況や悩みまで書いてあるから」
海棠「それは沢辺が実際に店で使っているカルテだ」
美來「沢辺さんが?」
沢辺「ええ。
  櫻坂倭さんは二年前から私の担当なんだけど、
  彼の髪質は猫っ毛で柔らかくて細いの。
  それ故に、自分ではなかなか気に入ったセットができない。
  彼は一ヶ月に一度のペースでうちに来店してるだけど、
  小雨で髪が濡れたらトップがペタンとしてボリュームを失ってしまう。
  強風だとセットがもたないから野外撮影では必要以上に髪が気になるらしいの。
  お気に入りのカットはビジネスショートウルフ。
  カラーはアッシュブラウンベージュで、
  セットはドライ後にハードワックスを全体に揉み込んで、
  程よく束感を出して仕上げてるわ。
  それから意外なんだけど彼、無類のスイーツ好きなの。
  美來さんが甘いもの好きなら、彼に情報を聞き出すといいわよ」
美來「沢辺さん、すごい。
  私はこんなに事細かくお客様の情報を把握できてないな……」
海棠「それは経験の差だ。
  沢辺は美容師になってもう10年のベテランだからな」
沢辺「海棠くんったら失礼ね」
海棠「は?俺は褒めてるんだぞ」
沢辺「『もう10年』って言われると、
  『もういい年』って言われてるみたいで嫌だわ」
海棠「たかがそんなことで。
  本当のことだろうが」
沢辺「たかがそんなことも、されどそんなことなの。
  そういう海棠くんだっていい年なんだからね」
海棠「男は年取ってナンボだ」
美來「うふふふっ」
海棠「葦葉。何笑ってんだ」
美來「気難しい海棠さんと対等に話せる人に初めて会ったなと思って」
沢辺「えっ」
海棠「うっ」
美來「お二人とも仲良くて息ピッタリで羨ましいというか、
  なんだか、夫婦漫才聞いているみたいですごく微笑ましいです」
沢辺「夫婦なんて……」
海棠「葦葉。上司をからかうな」
美來「はい。
  (海棠さん、耳が真っ赤だ)」
沢辺「あぁ、美來さん。
  明日明後日の原宿店、表参道店でのスタイリングは、
  私もサポートに入りますから思いきり腕を振るってくださいね」
美來「はい!宜しくお願いします」
海棠「葦葉。あとの片付けは俺がやっとく。
  明日も早いから先にホテルに戻って休め。
  夕食はホテルのレストランで摂れるようにしてるからな」
美來「はい。ありがとうございます。
  ではお言葉に甘えて、お先に失礼します。
  お疲れ様でした」
沢辺「また明日。お疲れ様」
海棠「お疲れ」

 


私は二人に一礼すると、道具の入った大きなバッグを持ち、
スタッフルームを後にした。
身体は極度に疲れていてバッグがやけに重いと感じるけれど、
海棠さんのおちゃめな一面に触れて、心はとても穏やかだった。 
薄暗い一階に下りて裏口から出ようとした時、
テーブルの上に置いていたポーチをしまい忘れていたことに気がつく。
バッグを床に置き、確認した私は再度階段を上がった。
声を掛けて、半分開いたスタッフルームのドアに手をかけようとすると、
沢辺さんのある声が聞こえ、動く全身にブレーキが掛かる。

 

  

 


美來「あの、すみません。
  シザーケース、忘れ、ちゃって……(あっ)」

 

沢辺「海棠くんが、好きなの」
海棠「……」
沢辺「もう耐えられない。
  長年の想いを殺して、平気な顔して海棠くんの傍にいるのが辛いの。
  ゾノちんの事があって、海棠くんすっかり変わっちゃって。
  すごく悲しそうな顔を見るのが何より辛かったわ。
  だからこれ以上、あなたに気持ちを偽りたくないの」

 

声を潜めこっそりと覗き込むように二人の様子を窺う。
沢辺さんは海棠さんの胸に手を当てて、すがるように見上げている。


美來「(やっぱり沢辺さんは海棠さんが好きだったんだ。
  ずっと好きな想いを隠して接してたんだ。
  海棠さんは彼女のこと、どう想ってるの?)」


海棠「沢辺……俺」
沢辺「分かってる。
  まだゾノちんを吹っ切れてないんでしょ?
  まだ彼女のこと愛してるから、結婚もしないで未だに一人でいるのよね。
  信頼していた二人から裏切られて、いっぱい傷ついて、
  私なんかより、海棠くんのほうがずっとずっと辛いはずだって理解してる。
  それでも……聞き分けのないもうひとりの私がここに居るの。
  ここに居るのよ」
海棠「沢辺」
沢辺「海棠くん、お願い。
  少しでいいから同僚としての私じゃなく、女としての私を見て?
  儚くてもいい。馬鹿な女の妄想でもいい。
  せめて東京に居るこの二日間だけでも、私に夢を見させてよ」

 

感情に震え声を潤ませる沢辺さんを見つめていると、
秋真さんに抱きつき、むせび泣く過去の自分を思い出した。
家族を失った時、身体から絞り出すように声を上げ、
体中の水分が無くなるほど泣いた私を、彼は無言で受け止めてくれた。
不安な私にいつも「大丈夫だから」と声を掛けてハグしてくれた。
危険が迫った時、病魔に襲われた時も、
身体を張って守ってくれたのは彼だった。
なのに現実に押し潰され、
世間の目を気にして濡れた子犬のように震えていた私。
そんな臆病者の傍に居てくれたのは、秋真さんだった。


沢辺さんのすすり泣く声が、傷だらけのハートに沁みて私の両目にも涙が浮ぶ。
そして共鳴する心に、再び秋真さんに逢いたいと強く思わせる。


美來「(海棠さん。彼女の気持ち、受け止めてあげて)」


私は両目を瞑ると、祈るように手を組み、
ぐっと力を込めて神経を耳に集中させた。

 

海棠「儚くていいのか?」
沢辺「えっ」
海棠「おまえ、二日間の夢だけで本当にいいのか」
沢辺「か、海棠くんの言っている意味がよく分からない」
海棠「鈍感」
沢辺「鈍感って」
海棠「俺は二日間の夢も、妄想の恋人なんてのもごめんだ」
沢辺「あぁ……そ、そうよね。
  ご、ごめん。変なこと言って。
  私ったら何言ってるんだろう。
  本当に馬鹿」


沢辺さんが我に返ったように海棠さんから離れようとした時、
彼女のくびれた胴のあたりを横からぐっと引き寄せて抱きしめた。


海棠「あぁ。本当に大馬鹿。
  俺、儚い思いはしたくないけど、
  馬鹿な女は嫌いじゃない」
沢辺「海棠、くん。意味分かんない」
海棠「あいつのことは別れを決めた時点で終わってる」
沢辺「ゾノちんが寄りを戻したいっていっても?
  まだ海棠くんのこと愛してるって言ったら」
海棠「謝ろうが何を言ってこようが、二度とあいつの許に戻る気はない。
  例えば俺の前にひれ伏して『必要』だと言われてもな」
沢辺「同棲までして結婚も考えてた人なのに引きずってない?」
海棠「ああ。微塵もな。
  百姫が事故ったと知らせが入った時、
  おまえ、気を利かせて俺に知らせなかっただろ」
沢辺「あっ……知ってたの?」
海棠「ああ」
沢辺「聞いた私でもショックだったのよ。
  海棠くんはもっとショックだと思ったから」
海棠「自分のことでもないのに俺の痛みまで抱えやがって。
  ったく。呆れるな」
沢辺「う、うん」
海棠「でも。俺がこんな穏やかな気持ちになれたのは沢辺、
  おまえがいつも俺の傍に居て見守ってくれたからだ」
沢辺「私は、何も……」  
海棠「何年も待たせてしまって悪かったな」
沢辺「えっ」
海棠「なぁ。ここを辞めて福岡に来ないか」
沢辺「えっ?海棠くん、それって。それって」
海棠「俺も好きだよ。沢辺のこと。
  これからはずっと、俺の傍に居てくれないか」
沢辺「あぁ……
  うん。うん。ずっと一緒に居る」
海棠「ああ」


美來「(あーっ。良かった。
  本当に、本当に良かったね。海棠さん、沢辺さん)」


想いを確かめ合い抱き合う二人を背中に感じながら、
私は声を掛けずに階段を下りた。
沢辺さんの泣き声が小さくなるにつれて、
私の中で秋真さんへの想いはどんどん大きくなる。
私は喜びと寂しさの入り混じった涙を拭いながら静かに店を出たのだった。
  

 


翌朝。
東京は大荒れの天気で、叩きつけるような激しい雨だった。
事務所で撮影現場に向かう準備をしていた秋真さんと智輝さんも、
窓越しに外の景色を眺め、恨めしそうに空を見上げる。


秋真「なんだ。台風のような雨だな」
智輝「だよな。今から移動だって言うのにさ。
  まぁ、でも僕は晴れ男だから、外に出た途端に雨なんて止むよ」
秋真「適当なこと言ってるよな。
  おまえが泣かした女の恨みの雨だろ。
  出た途端に雷に打たれるぞ」
智輝「人一倍女を泣かせてきたおまえだけは言われたくないフレーズだな。
  怨念をくらうのは僕じゃなく秋真だろ」
秋真「ふん。勝手に言ってろ」
智輝「っていうか、現場入りは3時だよな」
秋真「だから何だ。
  時間まで読み合わせでもしろって?」
智輝「そうじゃなくて、今からスフマトゥーラに行かねえ?」
秋真「は?何で」
智輝「ほら。撮影もあるし、役柄に合わせて髪型も変えないとだろ」
秋真「そうだけど、急にそんなこと言われてもな。
  予約も取ってないし」
智輝「予約は……いいんだ。
  僕が取ってる。原宿店で」
秋真「はぁ?どうして」
智輝「原宿店の割引券をもらったもんだからさ」
秋真「役作りの美容代は事務所持ちだろうが」
智輝「そ、そうなんだけど。
  ヘッドスパもしてもらえるし、
  おまえ好みのセクシーなスタイリストもいるらしいからさ」
秋真「気に入った女が居るからって、俺をダシにするつもりか。
  りおなさんに言いつけるぞ」
智輝「なぁ。付き添いでもいいから」
秋真「めんどくせえ。俺は行かねえ」
智輝「なぁ、秋真。そう言わずにさ」
秋真「何なんだ、おまえは。
  さっきからしつこいぞ」
智輝「場所が違うだけで同じ店なんだし、表参道でなくてもいいだろ?
  髪型は変えなきゃならないんだから」
秋真「ヘアスタイルを変えないとは言ってない。
  表参道店なら俺のカルテもあるし、手間が省けるだろうが。
  どうしていつも行ってる店じゃダメなんだ。
  原宿店に行って何がある」
智輝「何があるって、そ、それはだな、その何かあるんだよ。
  あっ!無茶苦茶、良い事だ」
秋真「答えになってねえ。
  ん?智輝。俺に何か隠してるだろ」
智輝「あっ。そう、そうだよ。
  今日は有名なスタイリストが来るんだった。
  だから僕とおまえで二人分予約を取ったんだった」
秋真「ふーん。おまえ一人で行って来い」
智輝「あーっ!おまえが行かなきゃ、僕がりおなに叱られるんだ」
秋真「ん?何故りおなさんがおまえを。
  (まさか……まさかな)
  とにかく俺は行かねえから、おまえ行って来い。
  10時前か。モーニングが終わっちまう。
  俺、一階のカフェで朝飯食ってくるから」
智輝「秋真!待てよ。僕も一緒に行くよ」

 


どんなに誘い説き伏せても、行かないと言い張る秋真さん。
懇願する智輝さんを呆れ顔で眺めながら一階のカフェに向かう。
しかし智輝さんもすぐには引き下がらず、
コバンザメのように秋真さんにくっついていった。

 

 

その頃私は、準備万端でスフマトゥーラ原宿店の個室に居た。
この店舗はスタイリッシュだけど青山店よりもひと回り小さく、
一つ一つのスタイリングスペースが独立している。
暫くするとモデルさんが来店したのだが、
名前を聞いてカルテの名前と違うことに気がつく。
すると動揺した私の許に沢辺さんが近寄ってきて、
もうひとつのカルテを手渡した。
もらったカルテにすぐ目を通し、
そこに書かれている名前を見てまたも驚き、先程よりも動揺する。

 

美來「沢辺さん。あの、カルテが」
沢辺「美來さん、ごめんなさい。
  昨日渡したのは明日のカルテで、今日はこれを参考にしてね」
美來「は、はい」
沢辺「今日カットするのは4名の予定にしてるけど、
  彼らの仕事の都合で変わるから、とりあえず決まってる2名ぶんだけ渡すわね。
  彼は俳優さんで東条大雅(とうじょうたいが)さん。カルテはこれ」
美來「は、はい……えっ!?」
沢辺「ん?どうしたの?」
美來「桐生智輝って、あの智輝さん……」
沢辺「あぁ。彼は超有名だから昨日以上に緊張するわよね。
  大丈夫よ。私も海棠くんも傍でサポートするから」
美來「は、はぁ
  (智輝さんのスタイリングをするの。
  冷静で居られるかな。私……)」


秋真さんにいちばん近い存在である智輝さんがここに来る。
私は嬉しい気持ちを抱きながらも、
それを上回るほどの不安も感じていたのだった。

 

 

 

(続く)

 

この物語はフィクションです。

 

  

 


 

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