“愛里跨(ありか)の恋愛スイッチ小説(未來ちゃん編22)” | 愛里跨の恋愛スイッチ小説ブログ

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22、愁眉を開いて

 

 

一人のお客さんのカットとブローを終わらせた海棠さんは、
腰につけていたシザーケースをゆっくり外しワゴンの上に乗せた。
そして受付にいるスタッフに事情を説明すると、静かに裏口から店を出たのだ。
動揺することもなく、心配や不安を感じることもなく、
傘も差さずに駐車場へ向かい、さっと車に乗り込む。
病院に着くまでの道のりをいつもと何ら変わらずに運転した。
暫く走るといつの間にか糸のような細い雨から、
小豆ほどの大きさの雨粒に変わり、ザアザアとフロントガラスに打ちつける。
海棠さんはワイパーをハイに切り替え、尚も冷静に車を走らせた。
頭の中で同じ質問を何度も繰り返しながら。

 

 

 

海棠「(何故、涙が出ない。
  どうして、腹立たしさも狼狽さえもない。
  数年間も大切にし愛し合った仲なのに、
  百姫の顔すら浮かんでこない。
  一度は真剣に結婚まで考えた女のはずだろう。
  なのにどうして俺は冷静で居られる。
  無事で居てほしいという思いすら湧いてこないばかりか、
  まるでずっと昔に絶縁していたような感情だ。
  あいつの言葉が全てを無かったことにしたからか。
  それとも俺の心がとうとう壊れて歪んでしまったのか。
  もしかしたら神様が『もう忘れろ』と諭しているのかもしれない。
  昨日、俺は高樹さんに言った。
  『二人とも俺の前から消えてくれ』って。
  それが現実になっただけのことじゃないか。
  高樹さんが事故を起こし、ついていった百姫が巻き込まれた。
  ただそれだけのことじゃないか……)」

 

 

 


百姫さんの収容された病院へ着くと、
海棠さんは総合案内で事故の件と彼女の行き先を尋ねた。
救急外来へ向かうとやはりそこは負傷した人たちでごった返していて、
あまりの惨状にゴクンと生唾を飲み込み立ち止まる。
辺りを見回した海棠さんはここに来て初めて動揺する。
その時、人を掻き分けて進む百姫さんのお姉さん真姫(まき)さんに気づき、
彼は暫く廊下の縁に立って彼女の様子を窺っていた。
しかし真姫さんもすぐに海棠さんの存在に気づき、
ホッとした表情を浮かべて小走りに近寄ってきた。

 


真姫「太勇くん!?」
海棠「……真姫さん」
真姫「来てくれて良かった!
  電話しようと思ってたのよ。
  百姫ならさっき処置が終わって病室へ移動したの」
海棠「あの。彼女の容体はどうですか。
  病院から連絡をもらって、輸血が必要だって聞いていたんですけど」
真姫「ええ。
  車が何台も大破するほどの大事故だったって、
  警察の方から説明があってね。
  左腕の骨折と数か所ガラスで切れた外傷もあって緊急手術したの。
  一番ひどいのは左指の複雑骨折らしいけど、
  完治にはかなり時間が掛かるらしいのよ。
  これから内臓も精密検査するんだって。
  でも、大きな事故だったのに百姫が助かって本当に良かったわ」
海棠「そうですね……
  (左指の複雑骨折。聞き手じゃないか。
  これから先、シザーを握れるのか?
  スタイリストを続けていけるのか)」
真姫「さっきやっと両親に連絡がついたんだけど、一人じゃ心細くて。
  太勇くんが傍に居てくれたら私も心強いわ。
  百姫も喜ぶだろうし、元気も出ると思う。
  今から病棟へ行くから一緒に行きましょう」
海棠「……いえ。俺はここで」
真姫「えっ。どうして?
  百姫が心配で病院まで来てくれたんでしょ」
海棠「そうですけど……
  俺はもう、百姫さんの恋人じゃありませんから」
真姫「えっ……それ、どういうこと。
  私、百姫から別れたなんて聞いてないわよ」
海棠「俺たち、別れたんです……一ヶ月前に。
  今日一緒に居たのが今の百姫の恋人です」
真姫「そ、そんな。
  事故を起こしたっていうあの人!?」
海棠「多分、ですけど。
  状況を聞いて知らん顔もできなかったもので、
  無事かどうかだけ気になって病院まで来ました」
真姫「そうなの。ありがとう。
  別れた後であの子がこんなことになって、太勇くんも複雑でしょうけど、
  貴方達は長い付き合いだったじゃない。
  気になって来てくれたのなら、少し顔だけでも見てやって。
  別れても一度は妹のこと、愛してくれたんでしょ?」
海棠「それは、そうですが……やはり俺はここで。
  仕事の途中で抜け出してきたので、もう帰ります」
真姫「太勇くん」
海棠「百姫さんに、お大事にとお伝えください」
真姫「お願い。もう少しだけ居てくれないかな」
海棠「すみません。失礼します」
真姫「ねえ、待ってよ。太勇くん」

 

 

病院


海棠さんは真姫さんの引き止める声にも振り向かず、
そのまま正面玄関へ向かった。
外に出るとまだ雨は降っている。
駐車場に停めた自分の車まで戻った時、
斜め前の駐車場に停まった黒い乗用車に目をやった。
すると携帯を握り話しながら出てくる秋真さんを見かける。
その顔に血の気はなく、恐怖で顔がゆがんで映った。
海棠さんは思わず声を掛ける。
その声に秋真さんは手を上げて答え、
電話を終わらせるとゆっくり近寄る。

 

 

海棠「卯木さん」
秋真「海棠さん。
  ……ああ。状況が分かったら連絡する。じゃあ。
  どうしたんです、こんなところで」
海棠「知人が事故に遭ってここへ運ばれたので。
  夕方に東名高速道路で起きた大事故の」
秋真「あぁ。それは、お気の毒に。
  その方はご無事でしたか」
海棠「大変な怪我をしてかなりの重症のようですが、
  なんとか命は助かりました。
  卯木さんも何方かこの事故に関連が?」
秋真「家族が巻き込まれたんです。
  今から会いに行くところで」
海棠「そうですか……ご無事を祈ってます」
秋真「ありがとう。
  それじゃあ、急ぐんで。また」
海棠「はい」

 

再び降り出した雨粒は、レースのカーテンを引いたように景色を隠し、
悲しい現実を押し流すように凄まじく降り注ぐ。
濡れながら走り去っていく彼の背中を見た瞬間、
海棠さんは百姫さんの時には感じなかった疼くような嘆きに襲われる。
秋真さんの憂苦に引き入られるように呆然と立っていたのだった。

 

 

 


私は秋真さんと海棠さんの意外な繋がりに改めて驚かされた。
当時を振り返りながら淡々と語る彼の姿にこの心も疼き、
奥底から込み上げてくる悲しみの涙を何度もハンカチで拭った。
海棠さんはそんな頼りない私の姿を心配そうに見つめ、
頭を撫でながら優しく微笑んだ。

 


海棠「また辛い記憶を思い出させたかな」
未來「いえ……
  お話を聞いていて、海棠さんの心の痛みや秋真さんの心の痛みが、
  ダイレクトに伝わってきたんです」
海棠「そうか……
  こうやって話していても、当時どれだけ辛かったなんてもう覚えてない。
  ただ不思議な感覚だったのだけは覚えてる。
  百姫が大怪我をしたと聞かされた時よりも、
  卯木秋真の家族が事故に巻き込まれたと聞かされた時のほうが辛かったこと」
未來「海棠さん。
  百姫さんとはそれっきりなんですか?」
海棠「ああ。あいつが店に戻ってくる前に、
  俺はあの店から立ち去りたかったからな。
  百姫は、事故の後遺症でシザーが握れなくなってね。
  今はスタイリストではなく、あの店で受付と補助作業をしている。
  高樹とも関係は続いているらしい」
未來「海棠さん……」
海棠「まぁ、今の俺には関係のないことだ。
  あの事故の後オーナーに相談したら、
  福岡の不動産屋に知り合いが居るからって紹介してくれてね。
  以前美容室だった空き店舗を安く買い取れたんだよ。

  一からやり直すために巡ってきた俺の本当の居場所、

  それが今の“ドゥース・エモーション”ってわけだ」
未來「そうなんですね。
  それじゃあ、私が二号店でスタイリストとして働けるのは、
  とても幸せなことですね」
海棠「えっ。どうしてそう思う」
未來「だって。
  海棠さんが一からやり直す為の場所だったからですよ。
  私も一からやり直しですから。
  仕事も恋愛も」
海棠「葦葉……本当に卯木秋真と付き合ってるのか」
未來「それが、実感が湧かなくてよく分からないんです。
  彼の事は気になるし大好きですし、大切にしたい人ですけどね。
  記憶も断片的に戻っただけで、過去を全て思い出したわけじゃないから」
海棠「だが、彼に逢ってようやく愁眉を開くことができるんじゃないか?」
未來「そうですね。
  そうであってほしいと思ってます」
海棠「しかし。
  事故の裁判の説明会で卯木秋真と君を見かけて、
  5年も経ってまたこの福岡で、二人が並んでいる姿を目にするとは。
  本当に世間は狭いよな」
未來「海棠さん。
  その時の私は、どんなだったか覚えてますか?」
海棠「ああ。よく覚えてるよ。
  俺は君らの座っている席の斜め後ろに座っていたからな。
  葦葉は濃紺のスーツ姿で、説明会の詳細を必死でメモっていた。
  もちろん笑顔では無かったが、泣きっ面でもなかった。
  きっと傍に卯木くんが居たからだろうな」
未來「そうですか。
  海棠さんもこの事故がキッカケで、福岡で開業したんですよね」
海棠「ああ。のれん分けで横浜に出す予定だったサロンの話を断ってね。
  誰も居ない土地で、何もかも忘れて、
  偽りのない本当の居場所を作りたかったんだ」
未來「そして実現したんですね。素敵な居場所を。

  (私でいう夢の“ア・レーズマンション”が、

  海棠さんにとってはドゥース・エモーション”なんだな)」
海棠「ああ。葦葉」
未來「はい」
海棠「“スフマトゥーラ”に行くかどうかはゆっくり決めればいい。
  俺から可愛い後輩へのアドバイスとしては、
  他のサロンで働けと声を大にして言いたいところだけどな」
未來「海棠さん」
海棠「東京に住むと決めたら、
  俺の知り合いが何人か居るから何時でも相談しろ」
未來「はい。ありがとうございます」
海棠「ただ“スフマトゥーラ”で務めるなら百姫には気をつけろよ。
  そして粟田日菜乃にもだ」
未來「粟田日菜乃、さんって……女優の。
  秋真さんの、元カノだった女性ですよね」
海棠「ああ。
  百姫と粟田日菜乃は今でも繋がってる。
  だから君が卯木秋真と関係を持ってると知れば、
  百姫と通じて粟田日菜乃がすぐに動き出すだろう。
  詳しいことを知ってるわけじゃないが今までの経験上、
  君と卯木秋真には厄介な相手になるんじゃないかと察してる。
  何かあれば何時でも力になるから遠慮なく言ってくれ」
未來「海棠さん……本当に、ありがとうございます」
海棠「大切にしたいなら、今度は無くすなよ」
未來「はい」


海棠さんの一言一句には重みがあって、この心にストレートに入ってきた。
私は懐の大きなこの人物の部下で本当に良かったと、改めて痛感したのだった。

 

 

 

糸島から帰るとすぐ千早さんから電話があり、
話し合いが長引くから先に会場入りして欲しいと言われる。
私は演芸座に着いたらメールをちょうだいとお願いし、
入り口で待ち合わせる約束して電話を切った。
秋真さんのマンションでお出かけ着に着替え、
今からデートにでも行くかのように、いつも以上に気合を入れてお洒落する。
誰に見られても恥ずかしくないように。
後一時間もすれば、秋真さんから来るなと言われた千秋楽公演が始まる。
スポットライトに煌々と照らされている舞台から、
一番前の席の観客の姿は見えるかどうかは分からない。
ただ私は、千早さんが来ても一番前の席には座らずに、
後ろからそっと観ようと決めていた。
彼に至らない心配を掛けたくないから。
今日はバレンタインデー。
早起きして必死で作ったハートのチョコレートと、
プレゼントの入った紙袋をソファーの上に置いて私は出かけた。

 

 

 

2月14日17時。
私は千早さんから貰ったチケットを持ち、
地下鉄に乗って博多区にある演芸座へ向かう。
会場はすごい熱気で、黒山の人だかりだ。
観劇という初めての経験と、
彼の晴れ舞台を観れる嬉しさでいっぱいになる。
私は波打つ胸を押さえ、
波に乗るように広く長い階段を一歩づつ上がっていった。
正面玄関の壁には『戦国、この愛咲くや物語』の看板が飾ってあり、
秋真さんや智輝さん、キャストの写真が大きく写っている。
これだけの人を惹き付ける彼の魅力と偉大さを痛感しながら、
数十分掛けて中へ入ったのだ。


未來「(始まってる……秋真だ)」


会場のライトがすでに落とされ、
緞帳の上がった舞台上はススキに囲まれていた。
そして舞台中央に、甲冑姿の秋真さんと智輝さんが胡座をかき、
酒を酌み交わしている。

 

智輝「なぁ、こうやっておまえと酒を酌み交わすのも今宵で最後かもしれんな」
秋真「最後だと?
  やっと口を開いたかと思えば、何を戯けたことを」
智輝「なぁ、幸。あの娘、名はなんと言ったか。
  おお、そうだ。お絹だったな。
  去り際はなんと言ったのだ?」
秋真「俺とおまえは会うべき縁では無かったと言った。
  ただそれだけだ」
智輝「好いてくれた女をいとも簡単に冷たく突き放すとは、
  おまえも罪な男だな」
秋真「いくら好いていようが、明日にはないかもしれぬこの命。
  儚く消えてゆく俺に何が言える。
  蛍のような俺にできることは、お絹との短くも身を焦がすほどの思い出を、
  草葉の陰まで持っていくだけだ」
智輝「語らぬ恋心も、また美しきかな。だな」
秋真「俺にとってお絹は……
  この世に生まれて初めて巡り合った美しい恋心であった。
  お絹……
  (俺にとって、未來。君は俺が身を焦がすほどの女なんだ。
  この世に生まれて初めて巡り合った偽りのない愛なんだ。
  未來、君は気づいているか)」

 

未來「あぁ……秋真。
  (どうしてだろう。涙が止まらないよ。
  秋真の演技に感動してるから?
  ううん、違う。
  このセリフがお絹じゃなく、私に染み込むように伝わってくるからだ)」

 

 

正面を向いてお絹への思いを語る幸村は、
私の目には卯木秋真にしか見えなかった。
そして彼の語る言葉は何故か、
この場に居るはずのない私に投げかけてくれているように感じたのだ。
止めどなく流れる涙を収めようと私は一度外へ出る。
ロビーにはお土産やグッズを買える売店やレストランが入っていて、
そこにもたくさんの人が居た。


未來「まだお芝居は始まったばかりなのに、
  私ったら何泣いてるんだろう。
  秋真の言うとおり、来ないほうが良かったのかな……」

 

 

 

 

 

恥ずかしさと少しの罪悪感を誤魔化すように、
私は三階の女性専用の化粧室に向かい、化粧を直すことにした。
涙を拭って化粧ポーチからファンデーションを出し、
大きな鏡を見ながらパフを頬に当てる。
すると、黒のミディアムフレアワンピースを身に纏い、
黒のミンクコートを羽織った女性が入ってきた。
ショートヘアでとても品のある容姿。
どう見ても一般女性には見えない。
私は手を止めてガラス越しにじっとその女性を見つめた。
すると彼女も私に気がつき、立ち止まって冷たく見つめ返す。
そしてゆっくり近づきながら話しかけてきたのだ。
私は彼女の咎めるような厳しい視線にたじろいだ。

 


未來「(この人。何処かで見たことがあるような……)」
女性「貴女……葦葉、未來さんよね」
未來「えっ」

 

 


(続く)

 

この物語はフィクションです。

 


 

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