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59、その想い、ここに眠る
白い息を吐きながら新宿駅西口から歩いてアモールに向かう。
一年前の今日。
そう。ちょうどこのくらいの時間だった。
あの日も一日晴れていて、日中の気温は確か15.2度。
夜は5、6度まで下がって北西から吹き付ける風が冷たかった。
ダッフルコートを羽織っていても、身震いするくらい寒くて。
でも……
入口前の階段に座っている茉を見て、
一瞬で身動きできなくなったんだ。
誰かを待ちながら冬空を見上げる彼女。
俺の凍えそうだった心が一気に温かくなった。
胸はきゅんと轟いで、激しく波打つ鼓動は、
出会えた喜びと動揺に暴れていた。
出会った日と同じように、
俺はぼんやりとアモールの入り口を見る。
しかし今は……
同じ場所に立って夜空を見上げているのは。
星之「あれは……茉。
いや、違う。
あの子は美羽さんだ。
同じような素振りをしていても、美羽さん。
でも。もしかしたら……
いや、そんなはずはない。
茉はもうこの世に存在しないんだから。
統合治療最後の日に、
あの日のことも過ごした想い出も、
必死で押さえていた恋心も全部永遠に眠らせたんだ。
なのになんで……参ったな。
どんな顔をして美羽さんに声を掛ければいい。
容姿は同じなんだから仕方ないが、
一年経った今でも、
消えたはずの茉は……俺の心を掴んで放さない」
きょろきょろと探す仕草をしていた美羽さんは、
俺の姿を見つけると、
嬉しそうに手を振って駆け寄ってきた。
ほのぼのとした空気を味わいながらも、
何故か空虚に感じるのは、
この場所にはまだ茉が居るからか。
そうなのか……茉。
美羽「せのさん!」
星之「美羽さん」
美羽「お疲れ様です!」
星之「お疲れ様。
ごめん。待たせたね」
美羽「そんなに待ってないので大丈夫です」
星之「エントランスで待っててくれて良かったのに。
今夜も一段と冷えるし、ここはビル風が強いからね」
美羽「いえ。
寒さよりもその、楽しみのほうが上回ってて」
星之「そうなの?」
美羽「はい!
だって、やっとせのさんと二人デートが実現したんですもの。
『行っておいで』って言ってくれた彩に感謝!」
星之「えっ。これはただの買い出しだよ?
しかも注文品を取りにいくだけだし」
美羽「それでも、私にはデートなんです。
せのさんだけとしか味わうことのできない、新鮮なデート」
星之「そう……じゃあ。そういうことにしとこう」
美羽「はい」
俺は美羽さんをエスコートするように車道側の歩道を歩く。
彼女はすれ違う人とぶつかりそうになると、
時折腕に凭れるように寄り添ってきた。
とても照れくさそうに。
そしてとても申し訳なさそうに。
そんな遠慮深い彼女を横目でちらっと窺い、
「掴んでていいよ」と言った。
美羽さんはニコッと微笑んで、
はしゃぐ子供のようにしがみついた。
今日は“英雄、時をゆく”クリスマスイベント日。
俺となるの愛の巣……オホン。
は置いといて、自宅マンションに皆が集まり、
クリスマスパーティーを兼ねて、
イベントの特別ダンジョン攻略に挑む。
買い出し担当の俺と美羽さん。
料理担当のなる&彩、飲み物担当の流偉さんに涼火、
機材セッティング担当の田所に津上の8人だ。
買い出しを頼まれた俺と美羽さんは、
クリスマスムード漂う街並みを歩きながら、
オードブルの注文をしていた店に向かった。
美羽「せのさんが以前、
『クリスマスはこんなものじゃないよ。
街中宝石をまいたようにキラキラ輝いて、
本当に溜息が出るくらい綺麗だよ』って、
私に話してくれましたよね」
星之「そうだったね」
美羽「本当に宝石みたい。
どこもかしこもキラキラしてて、綺麗……」
星之「ああ」
美羽「クリスマスの街並み、見てみたいって思っていたから」
星之「美羽さんが最後まで統合治療を頑張ったら、
俺がエスコートするって約束だったな。
ごめんね。
いろいろとバタついてたからなかなか誘えなかった」
美羽「ううん。今日やっと叶いました!」
星之「えっ。こんな序でみたいなのでデートなんて、
なんだか申し訳ないよ」
美羽「序でじゃないです。
これはれっきとしたクリスマスデートなんです」
星之「ふっ。そうだね」
美羽「……あの。せのさん」
星之「ん。何?」
美羽「あれから、どうですか?るなさんとは」
星之「えっ。どうって」
美羽「私と彩は、彩のご両親が理解してくれて、
結婚式まで何とか話を進めることができたんですけど。
せのさんとるなさんは……大変ですよね」
星之「大変……とは」
美羽「ご両親が神道社長にお話に行った後、
きっと揉めたのだろうと思って。
いろいろあったって、その件なのでしょう?
お二人の仲に亀裂が生じたりはしていないですか?
今日のイベントで、
もっともっとお二人の愛が深まればいいのだけど」
星之「……美羽さん、ちょっと待ってくれ。
君は何の話をしているの?」
俺は立ち止まり、美羽さんの腕を掴んで、
行き合う人を避けるように歩道脇によけた。
そして両肩に手を掛けて覗き込み真顔で話す。
彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、
目に深い悲しみの色を見せて俯いた。
美羽「……もしかして、ご存じではなかったですか」
星之「俺の両親が神道社長に会ったって、いつの話し?
君は何があったのか知っているんだな」
美羽「彩ほど詳しい事は、分かりませんけど……
るなさんとのことでご相談があったと。
お二人を別れさせてほしいと。
でも、社長は断ったと伺って」
星之「彩も知ってるのか。
知ってるなら何があったか教えてほしい」
美羽「……では、今から教会に行きたいです。
品物を受け取った後に」
星之「教会」
美羽「はい。せのさんのお気に入りの場所。
そこで私が知ってること、
彩から聞いたことをお話します」
星之「分かった。じゃあ急ごう」
俺達は注文品を受け取った後、青山の大聖堂へ向かう。
到着するといつもよりカップルが多いけれど、
それでも優しいイルミネーションは変わらずに揺れて、
「よく来たね」と出迎えてくれた。
美羽さんは躊躇いながらも、
聖堂の十字架をじっと見上げる俺に、
知っているすべてを話してくれた。
母が神道社長に土下座し床に頭を擦り付けて、
俺となるを引き離してほしいと言い寄ったこと。
父が俺を解雇できないなら、
福岡支社に転勤させてほしいといったこと。
社長から断れた後も、本社の社員を見かけると、
見境なく話しかけ探りを入れていたことも。
以前、彩からなるのことを聞いていたのもあって、
少しは想像できたが、両親のあまりの醜態に言葉を失う。
吐き気がするほどの情けなさと、
やり場のない怒りがこみ上げてきて俺は頭を抱えた。
星之「父さんはともかく、
母さん……何をしてくれてるんだよ」
美羽「あぁ……私、どうしよう。
こんな形でお伝えしてよかったのかな。
ごめんなさい。
せのさんを、困らせただけだったかも」
星之「いや、教えてくれてよかったよ。
知らないままならそれこそ大問題だ。
社長にまで迷惑かけて、
自分の親ながら常識がなさすぎて呆れかえる。
俺はもう、いい大人だぞ。
自分の進む道くらい自分で決める!」
美羽「せのさん」
星之「美羽さん、話してくれてありがとう。
俺となるは大丈夫だから、もう気にしないでいいよ。
それに、今日はダンジョン攻略して、
トナカイマウントをゲットするんだろ?」
美羽「……はい」
星之「俺と君、ヒーラーコンビで皆を癒そう」
美羽「そうですよね。
ヒーラーの底力、みんなに見せつけてやらないと」
星之「そうだ。
じゃあ、そろそろ帰ろう。
みんなが腹を空かせて待ってる」
美羽「はい。
(現実でも魔法が使えたら、
せのさんの深い傷も疼く心も、
ヒールで癒してあげれるのに……)」
いっそ、嘆かわしさも怒りも失望も、
不快に感じた感情のすべてを、
この地に留め眠らせることができたらどんなに楽だろう。
そんな非現実的なことをよぎらせながら、
俺は美羽さんの手を握り、大通りへ向かった。
俺達はタクシーに乗り、自宅マンションへ戻った。
到着して玄関に入ると、
今か今かと待ち構えていた田所と津上が、
俺と美羽さんの背中を押してリビングルームに連れていく。
もう既に場が盛り上がっていて、
重ねたローテーブルにパソコンが8台並んでいた。
彩 「買い出しお疲れ様」
涼火「遅いぞ、二人とも」
星之「待たせてすまん」
流偉「クリスマス前だから人多かったでしょう」
美羽「はい。すごく賑わってて」
月 「よし。全員集まったな。
そろそろご飯にしよう」
星之「あ、ああ」
田所「アツアツのピザもあるぞ。
シーフードミックスに照り焼き。
モッツァレラチーズとバジルの葉たっぷりのマルゲリータも」
流偉「美羽もせのさんも、突っ立ってないで座って座って」
美羽「は、はい。ありがとうございます」
津上「せのさん、美羽さん、何飲みます?」
美羽「じゃあ、私はレモンサワーで」
津上「了解!せのさんは何がいいです?」
星之「……」
津上「せのさん?」
涼火「ん。せの、どうした」
彩 「星之。何かあったの?神妙な顔をして」
美羽「せのさん」
星之「みんな。悪い。先に始めてて。
俺、ちょっと急用あるから、電話してくる」
月 「急用?」
彩 「星之?」
美羽「まさか。今からご実家に……」
田所「実家?」
彩 「美羽、何があったか知ってる?」
美羽「……うん。実は……」
月 「せの」
俺はバッグからスマホを取り出し、
リビングルームの窓を開けるとベランダに出た。
皆、ビックリした顔で、
カーテンの隙間から見える俺の背中を見守る。
しかし、様子がおかしいと察したなるは、
エプロンを外し、キッチンからスタスタと歩き、
窓を静かに開けるとベランダにやってきて、
仁王立ちで様子を窺った。
感情的に話す俺の姿を心配そうに見つめて。
星之 「母さん。なんてことをしてくれたんだよ!
スターメソッドは俺の大事な職場で、
神道社長は命の恩人なんだ。
それなのに勝手に社長室まで押しかけて、
忙しい社長に迷惑かけて、
常識のある人間のすることじゃないだろ!」
星之母『私は貴方が心配だからよ。
職場でも私生活でも、あんな男性と居て。
星之にとって悪影響だわ。
これからの人生を一緒に過ごすのは絶対に女性がいいの。
私とお父さんのように、貴方を産んで育てたように、
温かい平穏な家庭を築くことこそ、
人間の本来の姿で真の幸せなのよ。
だから。あんな男性と早く別れて、うちに帰っていらっしゃい』
星之 「……」
星之母『お見合いの話しも数件あるし、
電話じゃなく顔を見て話しましょう。
それにお父さんの伝手で仕事の話しだって』
星之 「俺は!なると絶対に別れない」
月 「(せの!?)」
星之母『まだそんなことを言ってるの!?』
星之 「なるは俺の人生の全てを掛けてもいい男だ。
ずっとあいつとバディを組んで、いい仕事をして満足してる。
どんな時も常に相手を思い合い、
いい上司、いい仲間に囲まれて、今とても幸せなんだ。
毎晩あいつと肌を重ねて、愛し合って絆も深めてきた。
今まで知り合った女性達には感じなかった、
最高の満足感を、俺はなるからもらってる。
あいつを失ったら俺は……生きていけないんだ」
星之母『あぁ……もう止めてちょうだい。
男同士で愛し合うなんて、ご先祖様に顔向けができないわ。
本当に、なんて罰当たりな子なの!?』
星之 「父さんと母さんの期待に添えなくて申し訳ないけど、
二人がどうしてもなるを受け入れられないって言うなら……
貴女の息子、秋津風星之は死んだと思って欲しい」
月 「(えっ!?
おまえにそこまで言わせるって。
せのにいったい何が起きて……」
星之母『星之。何馬鹿なことを言っているの!』
星之 「俺の家族はなるだけでいい。
父さんにもそう伝えてくれ」
星之母『そんなこと、お父さんが絶対に許すはずがないでしょ!?』
星之 「話は以上だ、母さん。
もう連絡はしないでくれ」
星之母『ちょっと、星之、まだ話は終わってないわよ!?』
星之 「……」
電話を切った後も何度も着信が入るスマホ。
鬱陶しいと思いながらすぐに電源を落とし、
「はぁー」と重い溜息をついた。
伝う汗も凍りそうなほど冷たい夜風にあたりながら、
荒ぶる心を必死で立て直す。
けれど、背後から俺の名を呼ぶ声に一瞬で癒される。
月 「せの」
星之「あぁ……なる。そこにいたのか」
月 「いたよ」
星之「いつから」
月 「最初から」
星之「あぁ。全部聞いていたのか」
月 「僕に隠し事はないんじゃなかったかな?」
星之「……ふっ。そうだな」
月 「何があったんだ。
またお袋さんが、僕のことで何か」
星之「大丈夫。何も問題はない。
母さんは母さん。
俺は俺だからな。
おまえでいう陽立さんと一緒さ。
俺達の仲を認めようとしない、ただそれだけのことだ」
月 「……そうか。
僕が女だったら、せのが家族を失うことはないのに」
星之「それはお互い様だろ?
俺が女だったら、陽立さんを怒らせることもないんだから」
月 「いっそ転換手術でもするかな」
星之「何を言ってる。
そんなことする必要はない。
女になったおまえなんて、魅力半減だ」
月 「あー。それすごく酷いよ」
星之「俺は今のままのなるがいいんだ」
月 「うん……僕もだよ」
なるは俺に近づいて、宥めるようにぎゅっとハグをした。
少し早くなっている彼の鼓動を聞きながら、
この幸せを絶対に守り抜こうと改めて決意したのだ。
そしていつも俺に安心と癒しをくれる仲間も。
月 「みんな心配してる。さぁ、中に入ろう」
星之「ああ。そうだな」
(続く)
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
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