一服のお茶
ところが、飛び立った直後突然エンジンの不調で不時着し、負傷する事も無く命を落とすことも無く終戦となった。
そして、お互いに故国に帰り、ある時、千さんは東京に用事があって出掛けた時、ちょうどメーデーの時で労働者の旗をふった列が前を通って行った。その時、その行列の中から誰かが自分を呼ぶ声がし、自分は労働組合とは何の関係もないのに一体誰が呼んでいるのだろうと思ったら、偶然にもそれが特攻隊で一番仲の良かった西村晃さんだった。お互い生きて帰って来たことをその時初めて知り、抱き合って泣き、千さんも西村さんと一緒に演劇労働組合の旗をもって行進した。
仲間の中で、命を落とさず生きて帰ったのは千さんと西村さんの二人だけだったそうです。
皆若くして、夢も希望も一杯あったでしょうけれど、お国のためと言って命をささげ、無念にも志半ばで亡くなっていった。その人達の犠牲があって初めて今こうして戦争のない平和な世の中があるのでしょう。
戦争から帰り戦後になり、進駐軍があちこちにいた。それを見て「この野郎!!」と千さんは思ったそうですが、それでも千さんのお父様は、日本の文化を知りたいと言ってやって来る敵であった進駐軍に対しても、区別も差別も無く、同じように一服のお茶をお出しすると、ついこの間までは敵であった人達が自分達の前で正座をしてお茶を頂いている姿を見て、日本は武には負けたけれど、文には勝った。これからは文で行こうと思ったと。
400数名もいる中でたった二人だけが生き残り、これもきっと意味があるのかもしれません。そしてお二人の御縁と言うものもとても強く不思議なものなのでしょう。
千さんも西村さんも、こうして自分達だけが生きて帰った以上、その恩を多くの人々に返していきたいと思われた。それが生きて帰った自分の使命だと。
そして西村さんは、俳優として水戸黄門となり国の平和の為に全国行脚し、人の心を癒し、励まし、千さんは今迄に70か国以上をまわって、お茶の素晴らしさを世界中の人達に伝える事で世界平和を願って回っている。
お茶は決してただ、たてて飲むだけのモノではなく、
「いかがですか」「お先にどうぞ」という、お互いに許し合い、お互いに思い合う精神を教えるものが茶道なのだと。
この一服のお茶によって、世界中の平和を願って回る事で必ずその思いは伝わる筈だと信じ、非常に地味な活動ではあるけれど、戦後ずっと世界中を回り続け、それが生き残って生かされた自分の使命なんだと今も命ある限りその思いを持ち続けておられる千さんのお話でした。
今世界中で起こっている天変地異も、千さんの様に、きっと私達に何かを訴えているのでしょう。
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