前編見てないって人 前編から見てね
宿屋のオヤジ 後編
少年の献身的な働きは、少しずつではあったけれど店の客を増やしていきました。
それでも貧しい生活はあいも変わらず・・・
少年と店のオヤジは節約しながら毎日を生活していました。
そんなある日の事
少年は数週間の間、サンドリアを離れなければならない用事が出来たと店のオヤジに告げました。
勿論、店のオヤジはダメだとは言えません。
でもくれぐれも体を大事にする様にと少年に言いました。
まだあどけない少年の顔を見た店のオヤジは、その少年を優しく抱きしめました。
少年もゆっくりとオヤジの背中に手を回したのです。
翌日、少年は朝早い時間に起きて、いつもの様に店の準備をし、オヤジの為に食事を作りました。
そして、まだオヤジが寝ているであろう部屋を見つめ、ゆっくりとお辞儀をしました。
ありがとう・・・・おじさん・・・・いや・・・・お父さん・・・・
初めてこの宿屋に来てから1年が経っていました。
宿屋のオヤジから受けた恩は、計り知れないほど大きなものでした。
そして少年も今から計り知れない決意でこの宿屋を出てゆくのです。
宿屋のオヤジは勿論、もう起きていました。
でも少年の前に姿を出す事が出来なかったのです。
オヤジは直感で感じていたのです。
少年は冒険者
いかなる理由があるかは知れないが、旅立つ時が来るのだと・・・
そして・・・もうここに戻る事はないのだろうと・・・・・
オヤジは店を出て旅立っていった少年を窓の淵からそっと覗きました。
初めてこの宿屋にやってきた時の少年の後姿ではありませんでした。
立派な冒険者
立派な青年へと育っていたのです。
オヤジは起きてくるであろう他のお客を出迎える準備を、粛々と始めたのでした。
少年が旅立ってから1年・・・・
店のオヤジは変わっていました。
自ら積極的に呼び込みをして、美味しい食材を調達し、お客さんに好評な宿屋のオヤジになっていました。
それもこれも、いつか戻ってくるであろう少年を迎えるために・・・・
そしてあの日がやってくるのです・・・・。
サンドリア王立騎士団の使いの者が宿屋に入ってきました。
そして粛々と威厳のある声で何かの文章を読み上げ始めました。
店のオヤジはサンドリアに生きて70年・・・一瞬でその意味を悟りました。
そう、あの少年・・・いえ・・・息子は戦で名誉の死を遂げたのでした・・・・・・。
その知らせを一緒に聞いていた宿屋の客からも、悲鳴にも似た泣き声が漏れ始めました。
王立騎士団の使者は、大きな麻袋を店のオヤジに手渡そうとしました。
遺品でした・・・・。
最初オヤジはその袋をどうしても受け取る事が出来なかったのです。
受け取ると息子の死を認める様な気がしたのです・・・。
気持ちを察してか、その使者も無理に袋を渡そうとせず、店のオヤジの前にその袋を置き去っていきました。
夜になってようやく息子の死を受け止める事ができるようになったきがしました。
手渡された麻袋を自分の元に引き寄せ、中を見ました。
まず1枚の手紙が入っていました。
それからその麻袋から1枚の引換券も入っていました。
サンドリア城で受け取る様になっていました。
オヤジの目から大粒の涙が流れ始めました。
手紙をそっと開くと、その手紙は息子から自分に宛てられた手紙だったのです。
どうしても、どうしてもその手紙を読む事が出来ないのです・・・・
読もうとしても、手が震えるのです・・・。
優しいお客の一人がそっと近づいてきて代わりに読んであげる事を提案してきました。
店のオヤジはゆっくり頷きました。
お父さんへ
お父さんと呼んだ事はありませんでしたね。
でも僕にとって間違いなくお父さんでした。
僕が一度瀕死になった時を覚えていますか?
あの時全財産を投げ打ってくれたお父さんに何も返せない自分が悔しかったのです。
今、獣人との激しい戦の只中にいます。
僕は冒険者だから、死なんか怖くないし、命燃え尽きるまで冒険者でありたいと思っています。
でもサンドリアから遠く離れれば離れるほど、お父さんともう一度会いたいな・・・・って思うのです。
ちゃんと宿屋続けてるのかな?
ちゃんと食べてるのかな?
何もかもが心配です。
なぜ強くなりたいのか・・・そうお父さんが僕に聞いた事ありましたね。
この戦場の中で答えが見つかったのです。
その答えを出せたのも、お父さんのおかげ・・・・
僕は冒険者なのだから・・・
ありがとう
体をいたわってね。
オヤジは泣き続けました。
翌朝引換券でオヤジが受け取ったものは、見たことのない大金でした。
何百万ギルものお金
1年間、少年が自分の命を賭け、そして親父に渡そうとしていたもの・・・・
お金の為に動く冒険者
そう思って嫌っていた冒険者
その冒険者からの大金
オヤジはその大金を受け取りました。
そしてオヤジの心は決まっていました。
このお金の価値を無限の価値にする方法を・・・・・・
息子の死から3年が経ち、オヤジの寿命が尽きる時がやってきていました。
寿命が尽きるその時も、オヤジは少年の事を考えていました。
この3年間、自分がやって来たことで息子は喜んでくれるだろうか・・・・
その数日後、静かに息を引き取った親父の目からは涙の後がありました。
サンドリアの多くの国民や、多くの冒険者がその死に対して敬意をはらいました。
宿屋の店のオヤジは息子からのお金を一銭も残らず、ある事業に使ったのです。
その事業を成功させる為、空き地だった場所を買い上げました。
あの少年との出会い、あの少年との生活、そしてあの少年と親子になれたこと・・・
その全てがオヤジにとっては財産だったのです。
アルタナの女神の前で、再開できているのでしょうか・・・・・
サンドリアの空き地に建設されたもの・・・・
そしてその善意の事業に多くの資産家が、そのオヤジの意思に感銘を受け、全世界各地でその建設は進められました。
冒険者が無料で使う事のできる宿・・・・
今ではそう・・・・
モグハウスと呼ばれています。
読んでくれてさんきゅ!!!