こんにちは

 

 有名なギター曲に「アルファンブラ宮殿の思い出」という名曲があります…

ギターを手に取った人がたいていはじめにおずおずと真似るのは、「湯の町エレジー」か「影を慕いて」か「禁じられた遊び」とこれかもしれませんね…

 この曲の全編に流れるトレモロはこの城の水の音を表し…このトレモロの上に主題の旋律がゆっくりと流れる美しけれど難しい曲です…

 

 「アルファンブラ宮殿」はスペインのグラナダにある美しい王宮です…

南国スペインでも夏の暑さがひときわだというグラナダの高地に、涼しい風がそよぎ、湿気もない高地にこの宮殿はあるそうです…

 

 今ではラテンの国のスペインもかつてはイスラムの国だったことがあります…

8世紀頃から、彼らの言うムーア人=イスラム人の侵略が始まって繁栄し、やがて14世紀頃に女王イサベルによってスペインからムーア人とその文化は駆逐されます…

 背景にはキリスト教の十字軍的な土地の奪還がありました…

 

 「アルファンブラ宮殿」もその最後の砦になりますが、その壮麗さと築城の巧みさから、以後のキリスト教=ルネッサンス様式が追加されて現在に至ります…

 「アルファンブラ」とは「赤い城」と言われて、その名に諸説ありますが建築当初、工事のためのたき火の光が一晩中赤々と輝いていたからと言われます…

 

 大きな城というよりは城塞都市です…王や貴族、町人や兵士たちがここで暮らしたそうです…

ここからはグラナダの町が一望に見下ろせ、目の前には山頂に雪をかぶったシエラネバダ山脈の高い頂が連なります…

 ここでは気候の穏やかさと雪の山々がスペインの光と影さえもが、暑さを忘れさせてくれます…ここが後年「夏の離宮」と呼ばれたのもわかります…

 

 全体は美しい列柱やパテオ、高い天井や壁、床は木やタイルの幾何学的なモザイク模様に覆われてムーア人の高い建築技術と装飾性に満たされています…

 

 ここではヨーロッパ各地の城館や教会で見られるような…人によっては辟易するような…キリスト教的な神や聖人が見られません…偶像崇拝を嫌うイスラム文化の特質です…

 

 特に有名なライオンの噴水のあるパテオでは八頭のライオンが口から泉水を吹いています…さらさらとこの宮殿の光と影の物語を語りかけます…

 

 イスラム建築の特徴の一つが水、噴水だけではなく庭園のプールがまるで砂漠の中の蜃気楼のように大きな鏡となって、建物を地上に浮かびあがらせます… 

 

 イスラム建築は光や水、花や木を大事にした自然志向で、この美意識は日本の古来から愛した花鳥風月の建築美と似ています…

 

 そんな「アルファンブラ宮殿の思い出」をF・タレガがこの美しい曲にします…

全編に流れるギターのトレモロが永遠を伝える噴水の水音なら、その上に刻まれる物悲しい旋律は「涼」に憧れた砂漠の民の想いのありったけが、今ではキリスト世界にポツンと残されたことを伝えます…人間の「憧れ」はいつだって美しく悲しいものです…

 

 暑さを嘆く合間にこの曲を聴くのも一興です…

「グラナダ」とは「ざくろ」の意味だそうです…そういえば目の前の小さな庭のザクロの樹も小さな実になり少しずつ色づいています…季節は秋に向かっているようです…

 

 暑さもあと少し…「アルハンブラ宮殿」だって暑いのですが、僕たちの先人は「風鈴」や「つりしのぶ」で風の音を聞き、打ち水や団扇で「涼」を求めたんですね…

 耳をすませば夏を惜しむような蝉の声と、秋の虫たちの鳴き声も聞こえてきます…

 

 あとひと頑張りです…

 

 この曲はYoyTubeで「朴葵姫=パク・キュヒ」さんの演奏をよく聴くのですが、寄せられたコメントの中に『ネトウヨだけれど(彼女の演奏を)お気に入りに入れた』とあります…ネトウヨといえば理由もなく韓国を攻撃する人と思っていたのですが、こんな人もいたんですね…他国の文化の良さを良しと表現するこの自由さと心こそ大切なようです…右でも左でも良いものはいいのです…「アルファンブラ宮殿」は彼にこそふさわしいのでしょう…願わくば彼の中の否定的なものが理解と共存を求めるものであってくれればと願います…そして僕たちにもです…彼はいいやつのようです…

 

 

 ありがとう

 もう数十年前「朝日ジャーナル」の創刊の頃、カラー写真はこのアルハンブラ宮殿のライオンの噴水で、確か本多勝一さんが文章を添えていたような?気がするけれど…記憶違いかな…

 それにしても風鈴の音もうるさいなんて! 風情なんてなくなる一方です…ね、ご同輩!