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静かだなぁ。いや、いつだってここは静かに決まってんだけど。
ぐぅの匂い、いい気持ちだな。
部屋がほぼ真っ暗に近いのもあって、ぐぅの胸に顔をつける。
パジャマはワイシャツより生地は厚いけど、そのかわり胸元が最初からあいてるから、
体温や匂いとか、そういった身体的なものは案外、直接的に伝わってきやすい。
すぅ~っとおひさまの匂いを吸い込んだら、背中を小さく叩かれた。
「あのさぁ。さっきもそうだけど、ひょっとしなくても僕の匂い嗅いでない?」
なんだよ、いいところで。邪魔するなよ~。
「そんなことない。弟は気にしなくていいから寝てな」
「はっはっは。ね、この状況で寝てなって言われんのおかしいでしょ」
「べつにおかしくないって」
「いやいやいや、おかしいでしょ。いきなり自分の胸に顔押しつけられて、匂い嗅がれて、
お前は黙ってそのまま気にしないで寝てろって言われる!?普通。
普通、そこで拒否ったりなんだりするでしょーが!」
「じゃあ、ぐぅだっておかしいじゃん」
「なにが」
ハハハ(笑)なに、そのちょい不満そうな声は。
お前、自分が何言ったかわかってないの?
「そこで拒否ったりなんだり、しないじゃん」
「?」
「あのさ、どう考えてもそこで拒否ったりなんだりは、されてる側がするんじゃないの?」
「……」
ふふ、墓穴掘ってんの(笑)意外と抜けてる?
「そういうところが可愛いんだよっ」
思わずぎゅっと抱きしめて、目の前にあった素肌の胸に、ふざけて軽くチュッてしたら。
ぐぅったら体強張らせて、ちょっと息吸ってんの。
で、焦った声出してくる。
「可愛くない、可愛くない。つーかほんと、さっきっから人の体で何してんの!?」
「べつに?(笑)」
「べつにってことないでしょ!このバカ兄!!ヘンタイ!!!」
「ヘンタイ?誰が?」
せっかく人がいい気分なのに、うるさい口だなぁ。
「ぐぅ、うるさい」
「え、なにそ…んんっ」
横向きのままじゃキスしにくいから、しながらぐぅを下にする。
お前、ほんとチョロいからヤバイね。
少しは護身ってのを学ばせないと危ないな。
柔らかい唇を塞ぎながら、一瞬そんなことを思う。
なんだかんだ言って、結果的に俺に従順なんだから、
そこも可愛いというか何というか。
ひとしきり味わってるうちに、そういえばぐぅからのキスも良かったな、と思い出し、
ちょっと口を離す。
「ぐぅ」
「…ん?」
「あのさ」
「うん」
右手の人差し指をぐぅの唇にそっと当て、下唇を摘まんで軽く引っ張りながら、左耳に囁いた。
「ぐぅう~。んねぇ~、ててにもしてぇ~?」
「……………はぁっっ!?」
この暗がりでも、ぐぅの目が点になっただろうことが、なんとなくわかった。
それぐらい、すっとんきょうな声だった。
「お願い」
「…」
「…ねぇ~。おねがい、おねがい~!それとも、ぐぅはやなのぉ?」
精一杯、可愛ぶって言ったら。
溜息が聞こえ、次の瞬間、物凄い勢いで抱き締められ、体が反転した。
「もう。何言ってんの!てて、意外と悪い子だね」
「え?」
なに、どうしたの?
急に低い声なんだけど。
「人のこと煽っといて知らないから。たぶんっていうか、
この感じだときっと俺のほうが力も強いと思うし、ほんとにどうなっても知らないよ。
残念ながら俺は女じゃないから(笑)」
「え、どういうこ…」
突然の豹変ぶりに、頭がついていかない。
「グクはテヒョンに大人しい感じするけど、俺はそうじゃないってこと。
江戸時代では兄上は絶対かもしれないけど、俺達は現代だからね。それにこっちは同級で同い年だし」
「え?」
「俺のほうが上っていうか、強いっていうか、有利ってことだよ、藤堂葵くん?」
「うえ?」
「力というか、今の立場的にね。でしょ?てて?」
ぐぅは言いながら右手で俺の左頬を撫でる。
言ってる内容とは裏腹に、その手つきはとても優しい。
そういえば…
「お前、俺って言うことあんの?」
ちょっと驚きながら言うと、はははって笑い声が返ってきた。
「当たり前じゃん!小学生だって俺って言うのに、てて何言ってんの?
あ~。いつも僕だから、そうなんだと思ってたの?」
そっか。そういえばそうだよな。
しかも「あれはててだから敬意を表してそう言ってるんだよ」だってさ。
「敬意ってどんな敬意?」
「ん~~、そうだな~~~~」
お~い。なんだそれは。まぁまぁ考えてるじゃないか。
「そんなに考えるなよ~。ってか、すぐ出てこないのかよ!それ嘘だろ!(笑)」
腕を叩くとぐぅは可笑しそうに笑う。
「ははは、いや、ほんとだってば」
「ほんとかぁ~?ぐぅ、笑ってごまかしてるぅ」
ちょっと拗ねた声を出したら、「ふっ、可愛い」って言われた。
「ごめんごめん。でもててだからわざと僕って言ってるんだよ。僕と俺はかなり違うからね」
「可愛いってなんだよ。べつに可愛くないし」
「ははっ、俺と同じこと言ってる(笑)」
「うるさい。…で、僕と俺って、ぐぅ的にはどう違うの?」
なんとなく、言わんとすることはわかる。わかるけど…さ。
それなのにわざと聞く俺も俺だ。
ぐぅが何て言えば納得っていうか、満足?すんのかな。
…っていうか、俺はぐぅに何を期待してるんだろう。
期待してる?期待?
そもそも、ぐぅは俺を大好きとは言ってたけど、
どういう意味の大好きなのかは言ってないよな。
どういう大好きなんだ?
「そうだねぇ…」
ぐぅの声に、我に返る。
ぐぅはちょっと考えてたけど、「わかりやすいほうがいい?」って聞いてきた。
そんなの聞くまでもない。
「うん。え、わかりにくいほうもあるの?」
「うん、あるよ。…で、わかりやすい僕、のほうはねぇ…」
「?」
するとぐぅはちょっと体の位置を俺より下にずらして、両腕も離して、
俺の体の両脇について…
「!」
「…って感じ。ちょっと体勢的に難しかったけど、まぁ許容範囲かな」
はぁ、許容範囲ねぇ。って、なに、勝手に一人で許容範囲とか決めてんだよ。
「で、俺のほうは…」
「いやっ、もういい、いい」
予測ついて、慌てて遮る。
うん、もういい(笑)
そんなの百どころか、千も万もわかったから。
「さっき俺のこと煽ったの忘れてないよね?それも加算されるからね」
「加算!?加算って、どんなかさ…んんっ!!」
唇を奪われるっていう言いかたがあるけど、ほんとにそういう感じだった。
噛みつくような感じとは違うけど、最初から深くて、さっきまでのとは全然違っていた。
もちろん、いつものぐぅの感じとも。
あの優しい、可愛い、きゅるきゅるおめめの子じゃ、なかった。
物凄く簡単に言うと、控えめで何でも俺の許可を得てから、そっと優しく…みたいな感じから、
超絶対等になったってことだよな。
このキスから判断するに、いささか「そうなりすぎ」って感じだけど。
つーか、正直なところ、お前の「俺」は、対する俺が完全に負けてる気がしてしょうがない。
まぁ、それ言うときっと笑うから、黙ってるけど…。
お前さ…。
そんなこと言って、こんな大層なキスしてきて…。
俺のこと、どう大好きなの…?
どう思ってんの…?
普通、これってもう…
(つづく)