☆☆

 

静かだなぁ。いや、いつだってここは静かに決まってんだけど。

ぐぅの匂い、いい気持ちだな。

 

部屋がほぼ真っ暗に近いのもあって、ぐぅの胸に顔をつける。

パジャマはワイシャツより生地は厚いけど、そのかわり胸元が最初からあいてるから、

体温や匂いとか、そういった身体的なものは案外、直接的に伝わってきやすい。

 

すぅ~っとおひさまの匂いを吸い込んだら、背中を小さく叩かれた。

 

「あのさぁ。さっきもそうだけど、ひょっとしなくても僕の匂い嗅いでない?」

 

なんだよ、いいところで。邪魔するなよ~。

 

「そんなことない。弟は気にしなくていいから寝てな」

「はっはっは。ね、この状況で寝てなって言われんのおかしいでしょ」

「べつにおかしくないって」

「いやいやいや、おかしいでしょ。いきなり自分の胸に顔押しつけられて、匂い嗅がれて、

 お前は黙ってそのまま気にしないで寝てろって言われる!?普通。

 普通、そこで拒否ったりなんだりするでしょーが!」

「じゃあ、ぐぅだっておかしいじゃん」

「なにが」

 

ハハハ(笑)なに、そのちょい不満そうな声は。

お前、自分が何言ったかわかってないの?

 

「そこで拒否ったりなんだり、しないじゃん」

「?」

「あのさ、どう考えてもそこで拒否ったりなんだりは、されてる側がするんじゃないの?」

「……」

 

ふふ、墓穴掘ってんの(笑)意外と抜けてる?

 

「そういうところが可愛いんだよっ」

 

思わずぎゅっと抱きしめて、目の前にあった素肌の胸に、ふざけて軽くチュッてしたら。

ぐぅったら体強張らせて、ちょっと息吸ってんの。

で、焦った声出してくる。

 

「可愛くない、可愛くない。つーかほんと、さっきっから人の体で何してんの!?」

「べつに?(笑)」

「べつにってことないでしょ!このバカ兄!!ヘンタイ!!!」

「ヘンタイ?誰が?」

 

せっかく人がいい気分なのに、うるさい口だなぁ。

 

「ぐぅ、うるさい」

「え、なにそ…んんっ」

 

横向きのままじゃキスしにくいから、しながらぐぅを下にする。

 

お前、ほんとチョロいからヤバイね。

少しは護身ってのを学ばせないと危ないな。

 

柔らかい唇を塞ぎながら、一瞬そんなことを思う。

なんだかんだ言って、結果的に俺に従順なんだから、

そこも可愛いというか何というか。

 

ひとしきり味わってるうちに、そういえばぐぅからのキスも良かったな、と思い出し、

ちょっと口を離す。

 

「ぐぅ」

「…ん?」

「あのさ」

「うん」

 

右手の人差し指をぐぅの唇にそっと当て、下唇を摘まんで軽く引っ張りながら、左耳に囁いた。

 

「ぐぅう~。んねぇ~、ててにもしてぇ~?」

「……………はぁっっ!?」

 

この暗がりでも、ぐぅの目が点になっただろうことが、なんとなくわかった。

それぐらい、すっとんきょうな声だった。

 

「お願い」

「…」

「…ねぇ~。おねがい、おねがい~!それとも、ぐぅはやなのぉ?」

 

精一杯、可愛ぶって言ったら。

溜息が聞こえ、次の瞬間、物凄い勢いで抱き締められ、体が反転した。

 

「もう。何言ってんの!てて、意外と悪い子だね」

「え?」

 

なに、どうしたの?

急に低い声なんだけど。

 

「人のこと煽っといて知らないから。たぶんっていうか、

 この感じだときっと俺のほうが力も強いと思うし、ほんとにどうなっても知らないよ。

 残念ながら俺は女じゃないから(笑)」

「え、どういうこ…」

 

突然の豹変ぶりに、頭がついていかない。

 

「グクはテヒョンに大人しい感じするけど、俺はそうじゃないってこと。

 江戸時代では兄上は絶対かもしれないけど、俺達は現代だからね。それにこっちは同級で同い年だし」

「え?」

「俺のほうが上っていうか、強いっていうか、有利ってことだよ、藤堂葵くん?」

「うえ?」

「力というか、今の立場的にね。でしょ?てて?」

 

ぐぅは言いながら右手で俺の左頬を撫でる。

言ってる内容とは裏腹に、その手つきはとても優しい。

 

そういえば…

 

「お前、俺って言うことあんの?」

 

ちょっと驚きながら言うと、はははって笑い声が返ってきた。

 

「当たり前じゃん!小学生だって俺って言うのに、てて何言ってんの?

 あ~。いつも僕だから、そうなんだと思ってたの?」

 

そっか。そういえばそうだよな。

しかも「あれはててだから敬意を表してそう言ってるんだよ」だってさ。

 

「敬意ってどんな敬意?」

「ん~~、そうだな~~~~」

 

お~い。なんだそれは。まぁまぁ考えてるじゃないか。

 

「そんなに考えるなよ~。ってか、すぐ出てこないのかよ!それ嘘だろ!(笑)」

 

腕を叩くとぐぅは可笑しそうに笑う。

 

「ははは、いや、ほんとだってば」

「ほんとかぁ~?ぐぅ、笑ってごまかしてるぅ」

 

ちょっと拗ねた声を出したら、「ふっ、可愛い」って言われた。

 

「ごめんごめん。でもててだからわざと僕って言ってるんだよ。僕と俺はかなり違うからね」

「可愛いってなんだよ。べつに可愛くないし」

「ははっ、俺と同じこと言ってる(笑)」

「うるさい。…で、僕と俺って、ぐぅ的にはどう違うの?」

 

なんとなく、言わんとすることはわかる。わかるけど…さ。

それなのにわざと聞く俺も俺だ。

ぐぅが何て言えば納得っていうか、満足?すんのかな。

 

…っていうか、俺はぐぅに何を期待してるんだろう。

期待してる?期待?

 

そもそも、ぐぅは俺を大好きとは言ってたけど、

どういう意味の大好きなのかは言ってないよな。

どういう大好きなんだ?

 

「そうだねぇ…」

 

ぐぅの声に、我に返る。

 

ぐぅはちょっと考えてたけど、「わかりやすいほうがいい?」って聞いてきた。

そんなの聞くまでもない。

 

「うん。え、わかりにくいほうもあるの?」

「うん、あるよ。…で、わかりやすい僕、のほうはねぇ…」

「?」

 

するとぐぅはちょっと体の位置を俺より下にずらして、両腕も離して、

俺の体の両脇について…

 

「!」

「…って感じ。ちょっと体勢的に難しかったけど、まぁ許容範囲かな」

 

はぁ、許容範囲ねぇ。って、なに、勝手に一人で許容範囲とか決めてんだよ。

 

「で、俺のほうは…」

「いやっ、もういい、いい」

 

予測ついて、慌てて遮る。

 

うん、もういい(笑)

そんなの百どころか、千も万もわかったから。

 

「さっき俺のこと煽ったの忘れてないよね?それも加算されるからね」

「加算!?加算って、どんなかさ…んんっ!!」

 

唇を奪われるっていう言いかたがあるけど、ほんとにそういう感じだった。

噛みつくような感じとは違うけど、最初から深くて、さっきまでのとは全然違っていた。

もちろん、いつものぐぅの感じとも。

 

あの優しい、可愛い、きゅるきゅるおめめの子じゃ、なかった。

 

物凄く簡単に言うと、控えめで何でも俺の許可を得てから、そっと優しく…みたいな感じから、

超絶対等になったってことだよな。

このキスから判断するに、いささか「そうなりすぎ」って感じだけど。

つーか、正直なところ、お前の「俺」は、対する俺が完全に負けてる気がしてしょうがない。

まぁ、それ言うときっと笑うから、黙ってるけど…。

 

お前さ…。

 

そんなこと言って、こんな大層なキスしてきて…。

俺のこと、どう大好きなの…?

どう思ってんの…?

普通、これってもう…

 

 

 

(つづく)