捕鯨をテーマに、私たちのあり方が問われる「おクジラさま」 | SOTOBORI STREET EYE!~赤坂外堀通りで働く広報コンサルタントの視点~

捕鯨をテーマに、私たちのあり方が問われる「おクジラさま」

佐々木芽生監督と、真木太郎エグゼクティブ・プロデューサー(試写会にて)

 

明日、9月9日より、映画「おクジラさま」が公開されます(渋谷・ユーロスペース)。
クラウドファンディングで資金集めをしたという点で、“いま風”の作品です。
私は、出資した友人が出資者向け試写会に声をかけてくれ、一足先に拝見する機会に恵まれました。

日本人に捕鯨のことを聞くと、「西洋の人が反対しているけれど、自分たちだって牛や豚を食べているじゃないか」「食文化に口を出すのは、過干渉だ」という声が主流のように思います。

私も概ね、このような考えを持っていました。
しかしこの映画を見ると、自分の本当の声は、「捕鯨の実態についてよく知らず、鯨を食べる習慣もないけれど、聞かれたら賛成と答えている」ではないかと思うようになりました。

「おクジラさま」は、中立な作品だと評論されることも多いですが、佐々木監督は自ら「中立は無理だと、作りながら気づいた」とお話されていました。それくらい、いろいろなYES、いろいろなNOが作品に出てきます。平行線のまま、お互いのルールは尊重しているところもあります。意見を壇上に出した上で、着地点(妥協点)を考えるのが話し合いの意義だと思いますが、改めて世の中を見ると、「移民」「原発」など、二項対立している話題の多いこと。ある意味、白か黒かに決めたところで、それ以上思考する力を失っている気がします。

PR的にも、気づきがありました。それは、「発信した者が、ソーシャルメディアを制す」ということです。捕鯨に関しては、SNSの活用が世論の形成に大きく影響したことが分かります。作品の中にはマスメディアも登場しますが、SNSはマスメディアよりも手軽に、頻繁に発信でき、かつその情報をそのまま拡散してくれるファン(読者)がいます。ツールを使いこなす術を持ち合わせていないと、議論を闘わせるのに非常に不利、ということが見て取れます。言語的なことを言えば、多くの方が理解できる英語での発信が圧倒的に有利となる。それを理解しているか否かのちがいは大きいです。

捕鯨をテーマにした作品でありながら、メディアの時代に生きる私たちのあり方を問う、そんな作品だと感じました。内容は見てのお楽しみですが、複雑な事柄を、複雑なまま自分の中に取り込んで味わう、そしてどんな感情や感覚、言葉が湧いてくるかを観察するプロセスは、実験のような感覚です。おススメです。

田中