「原子人間」(1955年)

The Quatermass Xperiment

(The Creeping Unknown)

英国ハマープロ 白黒映画

 

監督

ヴァル・グゥエスト(44歳)

出演

ブライアン・ドンレヴィ(54歳)

ジャック・ワーナー(60歳)

マージア・ディーン(33歳)

リチャード・ワーズワース(40歳)

ライオネル・ジェフリーズ(29歳)

ゴードン・ジャクスン(32歳)

 

 

宇宙に関連する映画で、古いですが、今回は「原子人間」です。邦題と原題はまったく異なります。この映画には女宇宙怪人OXのようなものは出てきません。このメモは1995年のもので、初見はもっと前。ビデオですが、冒頭音楽部分が欠落、よく見るとイタリア語だったので、イタリア公開版をビデオ化したもののようです。本作品はイギリス、怪奇映画の老舗ハマープロの初期の作品となります。当時の私の評価は★★★です。●は当時のメモ、○は現在のメモです。ネタバレがありますが、ネタがバレてもバレなくても、面白いと思います。

 

●(ネタバレあり)当時としては画期的なSFホラー映画。ガガーリンが宇宙飛行する前の時代の映画で、宇宙から飛来してきた宇宙生物がまったく形をなさずに、人体に入り込み、ロンドンを恐怖のどん底に陥れる。最後はタコ状と化し、ウェストミンスター寺院の梁の上から醜怪な姿を見せるショット、とくに高電圧で燃やされるとき、これは本物のタコではあるまいかと思わせる、タコ肌の感触が気味悪い。このときにテレビ生中継のディレクター役がゴードン・ジャクスンである。

○(ネタバレあり)ガガーリンが世界初の有人宇宙飛行するのは1961年ですから、それよりも6年前の映画となります。もうすぐ本当に有人飛行が現実化しそうな気配が濃厚に漂う作風です。なお、もっと前に有人飛行をしたのは、江戸の少年・寅吉なのですが、それはまた別途。話の内容をはしょっていますが、イギリスから有人飛行ロケットを飛ばしたら、戻ってきて、調べたら宇宙飛行士たちのほとんどが乗っておらず、1人だけ生存していた。その飛行士は記憶喪失の上、別人のように変貌していた。この宇宙飛行士に宇宙生物が宿ってしまったらしく、手に触るものを自分にどんどん同化していって、ロンドンを歩き回り、最後は高電圧で……という感じです。さいごはタコみたくなって、というか、本物のタコをつかって特撮していました。全体にゆったりのんびりした時間ですが、それなりにインパクトがある画面づくりとなっています。ゴードン・ジャクスンは「大脱走」などでも有名です。まだ若い頃です。主人公ではありません。

 

ゴードン・ジャクスン

 

●この映画の主役はクェータマス博士役のブライアン・ドンレヴィだ。おそらくこれほど異色の主人公も珍しい。機関銃の弾のようにまくしたて、仕事第一優先の科学者だ。マッドサイエンティストに近いたぐいで、もう非常識といったところか。

○マッドサイエンティストというわけではないのですが、仕事一途な男です。アイルランド出身ですが、ハリウッドで西部劇に出て、悪役でもならした俳優。この映画ではロケットを飛ばした責任者で、悪質?というかそういう乗り移り型の宇宙生物と対決するというヒーローですね。

 

ブライアン・ドンレヴィ

 

●ロケットにしろ、科学技術(鎮静剤やマジックハンド)にしろ、なんともお寒くなるような代物ばかり。しかも冒頭には骨董級の消防車や救急車が登場する。それだからこそ、得体の知れない恐怖か感じられる。

○当時の東宝映画などと比べると、本当に骨董品みたいなものが次々と出て来るので、すごい昔感があります。そこも楽しみです。

 

 

●原子人間のサボテン腕で殴られると、相手は骨のように変形してしまう。

○同化するときのことですね。同化されたほうは骨みたくなります。サボテンを触ると、手がサボテンのようになってしまいます。

 

この腕がサボテン化しています。原子人間を演じるのが、リチャード・ワーズワース。苗字から分かるように、あの詩人ワーズワースの曾孫さんです。まさかこんな役をやるとは……。

 

●音楽がジェームズ・バーナードだから、神経過敏症的音楽が、かすかに使われるから、効果的(まるで彼の「吸血鬼ドラキュラ」や「フランケンシュタインの復讐」や「妖女ゴーゴン」だ)。

○この辺はかなりマニアックなことを言っています。やや病的で怖い旋律をつくる人ですが、「原子人間」はさほどでもありません。かすかにそういう感じがします。

 

●唯一明るいキャラクターは、スコットランドヤードのロマックス警部(ジャック・ワーナー)だろう。「私は聖書しか読めない」というほどのクリスチャンというか、常識人だが、神妙に何をするのかと思えば、電気カミソリで髯を剃りだすだしたり。

○他の出演者はみな真面目に深刻な顔をしているのですが、ロマックス警部だけはひょうひょうとしていて、救われる存在かもしれないです。夫婦のシーンも出てきて、ほのぼのとします。警部の机でなにをしだすかと思ったら、髯を剃りだすシーンは珍妙。まだ電気カミソリは珍しかったのかも。あとロンドンが舞台ですから、逃げて徘徊する原子人間を捜索するのはスコットランドヤード。イギリス陸軍はあまり出てこなかったような。警官たちの動きがセミドキュメンタリータッチで私は好きです。高い塀をよじのぼったらしい痕跡を見つけるシーンや、嘘ばかりつく老婆が怪物を見たと警察に垂れこむシーンも好きです。

 

ジャック・ワーナー

 

●後年、「チキチキバンバン」などで陽気なおじいさん役を演じたライオネル・ジェフリーズでさえ、神妙な国防省の役人で出てくる。

○つまり演技達者ということですね、ライオネル・ジェフリーズは。名優です。「チキチキバンバン」は私の中ではかなり好きな作品です。

 

ライオネル・ジェフリーズ

 

原子人間になった宇宙飛行士の妻を演じたマージア・ディーン。夫を助けようとするが、サボテンのようになった腕を見て、絶叫する。この女優さんの名前を知っている日本人はいるでしょうか。