「ケンネル殺人事件」(1933年)
原題:The Kennel Murder Case
米ワーナーブラザース 白黒作品 トーキー(サイレントではありません)

 

 

監督

マイケル・カーティス(47歳)
出演
ウィリアム・パウエル(41歳…上図でメインの男性)
メアリー・アスター(27歳…上図の女性)
ユージン・ポーレット(44歳、ヒース刑事部長)
ラルフ・モーガン(50歳…上図でメアリー・アスターの横の男性)

ヘレン・ヴィンスン(26歳)

ロバート・マクウェイド(61歳、マーカム検事)
フランク・コンロイ(43歳)
ロバート・バラット(44歳)
エティエンヌ・ジラルド(77歳、1856年生まれ、ドアマス博士)
ポール・カヴァナー(45歳)
ジャック・ラリュー(31歳)
ほか

…エティエンヌ・ジラルドは1856年生まれ、幕末の安政三年の生まれということです。

 

 

○初めて見たのは20代。ビデオで買いました。古い映画だと単純に安かったのです。

 

○以下のメモは1996年1月7日のときのもの。★が3つプラス1/2とわりと高評価をつけていました。個人的思い入れから。

(●部分の文が1996年当時の文、……以下が現時点の文)
 

●センスがよくて、モダンで、軽くて、当時おしゃれな映画だったろうなあと思わせるに十分な、言わずと知れた、S・S.ヴァン・ダインの推理小説の映画化。1930年代のアメリカでは、ヴァン・ダインの一連の小説が映画化されている。有名なのが、ウィリアム・パウエルがフィロ・ヴァンス役で出る映画である。「ケンネル殺人事件」は映画として名作の部類に入るらしい。
……私の見方が偏っていることよくわかる。内容よりも雰囲気で評価している。映画としてのレベルは名作というよりも水準作で、ただ本格推理映画として堂々とした作りです。おどろおどろしさは皆無。モノクロで画質はあまりよくないので、私は雰囲気を味わいます。

●大学時代にヴァンスものに夢中になったことがあり、その興味は本格推理の醍醐味というよりも、登場する人物たちにあった。ヴァンスにマーカムにヒース刑事部長、それに警察医ドアマス。これらが、本作にはそっくり出てきて、感激した。
……ファイロ・ヴァンスにハマったのは大学3年か4年、就職活動の頃という思い出があります。読んだのは創元推理文庫版ではなく、1950年発刊の単行本『僧正殺人事件』でした(下の写真)。面白くて、レトロで気に入ってしまい、この古いヴァージョンのヴァンスものを神田の古本屋街で探し集めました。23歳かそこらですが、私はかなり変わっていました。これらの本は今は全て手放しています。


●ウィリアム・パウエルはヴァンス役者として定評があり、私のイメージとしては少し違うのだが、映画を観ているうちに彼は適役なんだなと思った。博学無比、ペダンディシズム、おしゃれなエグゼクティヴ感はこの人にしか出せない。
……ウィリアム・パウエル(下写真)は、往年の名優さん。マーナ・ロイと夫婦役で探偵映画をやっていて、「影なき男」とかヒット。ソフト帽にダブルブレストのスーツ、今見てもシャレオツ。口髭がトレードマーク。でも、私のなかのヴァンス像は無髯で片眼鏡をしています。



●ヴァンスとヒース刑事部長(ユージン・ポーレット)とのやりとりが何カ所か出てきて、愉快な味を出している。特に映画のラストシーンは二人で終わっていて、なんとも言えない温かみがある。このユージン・ポーレットもヒース役を何回か演じている。原作でも同じように、毎回、食事時に呼び出される警察医ドアマスをエティエンヌ・ジラルドが演じているが、「なんでいつもこの時間にわしを呼び出すんだ」とぶつくさ言いながら現場にかけつける老医師役が、ほんとうにハマリ役。

……作品の安定感をつくりあげているのはこういう脇がためにあると思いますが、1930年代の会話を今も楽しめる自分でよかったと思います。

 

●女優としては、ヒルダ・レイク役のメアリー・アスターに注目。「マルタの鷹」や「若草物語」の時代よりも前の新鮮なころ。いかにも当時のモダンガールぶりを披露。ドリス・デラフィールド役のヘレン・ヴィンスンというブロンド女優も捨てがたい。
……また「モガ」って言葉を使ってます。メアリー・アスターは「マルタの鷹」でハンフリー・ボガートを籠絡しようとした美魔女です。「マルタの鷹」のときは35歳になっていますが、そのほうがずっと魅力が増しています。「マルタの鷹」も「ケンネル殺人事件」も監督は同じ、マイケル・カーティス(「カサブランカ」の監督)。ヘレン・ヴィンスンの名前を知っている日本人は希少でしょう。


●音楽(レオ・F・フォーブスタイン)もよろしくて、メインタイトルが1930年代風のモダニズム感を醸し出す。ヴァイタホンで録音。ワーナーブラザースのマークが出てくるところの音楽、後の時代(1950年代)に使われる曲を予兆させるメロディ。
……レオ・F・フォーブスタインは音楽監督で、でも、この映画ほとんど音楽はないです。メインタイトルとラストぐらいしか印象にない。ヴァイタホンは録音方法。ワーナー映画は会社のマークが出るとお決まりの音楽が流れていました。この映画はその源流に近いヴァージョンの音楽が聞けます。すんごいマニアックな楽しみ方です。メインタイトルでは、役者たちが顔と名前入りでいちいち紹介される、大時代風なつくり。そこも超好き。

 

○眉、細っ、ヘレン・ヴィンスン。「ケンネル殺人事件」のときのオフショットでしょう。ボンネットというか帽子というか、つくづくオシャレだなあと思う。