タマゴサンド三郎のブログ

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 私は、この日本で何処にでもある地方都市の一つで生まれ育った。

 何年かこの街を出ていた期間はあるけれど、今また戻り、何処にでも溢れた日常を過ごしている。



 船を見ていた。朱く染まった水面が、落陽の時を知らせていた。秋の夕刻。

 眼前に聳え立つ巨大な白亜の船体は、ここ、戦前から栄えた港町が母港で、だからか、二ヶ月ないし三ヶ月に一度程度の頻度で寄港していた。

 世間が豪華客船と認識しているように、全長290メートルの巨躯を俯瞰出来るほどに離れた場所から見ても、その絢爛たる姿は一目瞭然に映る。

 その姿を一目見ようと、埠頭には毎回多くの人が立ち寄り、船出を見送る。私も、その一人だ。

 海風が頬を撫ぜる。晩秋というよりは、初冬に近かったかもしれない。
 だから、風が冷たく感じた。

 地元の高校生達が、出航パレードと称して軽快な吹奏楽を港いっぱいに響かせるなか、豪華客船はゆっくりと私の故郷を離れていった。

 知り合いが乗船しているわけではないし、いつまでも冷たい風に当たるのも堪えられないものがあったので、踵を返して足早に帰路に着いた。

 いつか。いつか、あの船に、あいつと一緒に乗りたい。
 そう、思いながら。