フォトグラメトリの素材写真

 前回は写真を使った3次元計測を体験してもらいました。

 

 前回は僕が撮った写真を使っての体験でしたので、次はご自分で撮った写真を使ってモデリングしてみましょう!

 …でもその前に、フォトグラメトリの素材写真にはコツがあるので、それを押さえておきましょう。

 

 何度か出ていますが、写真を用いた3次元計測を「フォトグラメトリ」とか「SfM/MVS」といいます。

 フォトグラメトリは写真を使って計測するという性質上、モデルの出来栄えは写真の質に大きく左右されます

 では、何に気を付けて写真を撮ればいいのか。

 (経験則で書くところもあるので、ご自分でもいろいろと試行錯誤してみてください)

 

 上手な写真の撮り方についてはコチラも参考になさってください。

 考古学のためのSfM土器撮影 システマティックマニュアル

 

 

基本的なルール

 metashapeのマニュアルでは、写真の撮影方法について基本的なルールを示しています。
 マニュアルからいくつか抜粋して解説します。
 
 マニュアル(英語版)のダウンロードはコチラ
 

ルール1 面に対しては正面から

図1 ルール1

 

 面に対しては正対し、斜めから撮らないようにしましょう。

 例えば土層を撮りたいなら土層に正対した状態で撮影し、壁に平行になるように移動しながら撮影しましょう。

 
 

ルール2 空間に対しては立ち位置を変えながら

図2 ルール2
 
 建造物・石室の中を撮る場合は、少しずつ動きながら写真を撮りましょう。
 フォトグラメトリは多少のズレのある写真から距離を割り出す技術なので、立ち位置を変えながら撮った方が効率的にズレを作ることができます。
 

ルール3 モノに対してはグルっと囲むように

図3 ルール3
 
 遺物や石塔などを撮影する場合は、その周りをグルっと囲むようにまんべんなく撮影しましょう。
 上下左右、足りないところがないように気を付けてください。
 また、撮影の際は角度を意識して次の例を参考にしてみてください。
 (あくまで例なので試行錯誤してみてください)
例)
遺物の真上から撮影(0°)…全体が入るカットと数分割のカット
遺物の斜め上から撮影(45°)…横に45°ずつズレながらの8カット
遺物の真横から撮影(90°)…横に30°ずつズレながらの12カット
(可能なら)遺物の斜め下から見上げるような撮影(135°)…横に45°ずつズレながらの8カット
 

ルール4 ズームは絶対固定!

 これ、地味だけどとっても大事!
 ズームは使わずに固定して撮影してください!
 

ルール5 撮影環境は変えない!

 撮影中は絶対にモノを動かさないでください!
 また、屋外で撮影する場合もできるだけ同じ時間帯にぱっと撮影し、日光の具合が変わらないようにしましょう。
 

Q&A

 まずは、上に書いてある基本ルールをマスターしてください。

 あとは補足としてQ&Aを書いてみます。

 

Q 写真は多ければ多いほどいいの?

A ちょうどいい量で。

 フォトグラメトリの仕上がりは写真次第ではありますが、多ければいいということでもありません。

 確かに写真が多ければそれだけ点のマッチングはしやすくなりますが、その分処理にめちゃくちゃ時間がかかりますし、データ容量もかさみます。1個の土器に数GBも使っていたらやってられません。省エネを目指しましょう。

 また、少なすぎてもモデルに穴があいたり、そもそもモデルにならなかったりします。

 やはり、ちょうどいい量を体得していただくのが一番かと思います。

 

 目が2つある動物は2つの目から見える映像の微妙なズレから距離を測っています。フォトグラメトリも原理は同じで、ちょっとズレた写真から距離を割り出しています。

 逆に言えば、ちょっとズレた写真が無ければモデルは作れません。

 そのためには移動しつつ、ある程度オーバーラップ(重なり)のある写真が必要です。

 だいたい60~80%重なるように写真を撮れば大丈夫です。

 

 このオーバーラップ率を意識して、実際に写真を撮る前にどの向きから、どんな角度で、何枚くらい写真を撮るか頭の中でで結構ですから、計画を立てて撮影に臨むと省エネにつながるでしょう。

 

Q 写真は高画質な方がいいの?

A はい

 写真がはっきりしていないとマッチングできないため、できるだけ高画質がいいでしょう。
 ただし、処理に時間がかかることも考えられるため必要以上に高画質を求めなくてもいいかもしれません。
 
 実際の処理ではjpegでも可能ですが、マニュアルではRAW画像をTIFF形式に現像・変換して使用することを推奨しています。
 ファイル形式についてはコチラを参考にしてください。
 RAWからTIFFへの変換には基本的にカメラに付属のソフトがあると思いますので、そちらで処理されてください。
 
 また、コツとして、三脚を使うと(当たり前ですけど)よりキレイに撮影できます。
 絞りを絞って被写界深度を深くとれば、奥までくっきりするので、より少ない枚数でモデリングできるようになります。
 絞り、被写界深度についてはコチラを参考にしてください。.
 
 カメラの設定は
  • ISO感度…できるだけ低く
  • 絞り(F値)…できるだけ高く(絞る)
  • シャッタースピード…できるだけ速く(分母を大きく)

 することが重要です。

 やはり手持ちではブレも出ますので、三脚を使いましょう。

 

Q 回転台で撮影できるの?

A できます

 LANGさんのサイトでは回転台を使うのではなく、撮影者が周りを回る方法をとっています。
 野外で石塔の撮影などでは、石塔を回すわけにはいきませんから、これが基本となるでしょう。
 また、マッチングについても、被写体を回すより撮影者が回る方が上手くいくような感覚があります。
 (感覚なので、違うかも)
 
 では、回転台を使う場合に気を付けるべきことは何か。
 まずは、被写体以外の色を統一しましょう。白や黒一色の紙や布があればベストです。
 理由は今後書きますがマスクがけのしやすさ、マッチングのしやすさにあります。
 背景がごちゃごちゃしている状態で回転台を使った撮影をするとさすがにPCさんも混乱してかわいそうです。
 できるだけ、必要な情報を絞ってPCさんにもわかりやすいようにしてあげるのが人情です。
 また、これも三脚を使うとより上手くいくと思います。
 三脚と自動回転台を使えばもーお手軽にまんべんなく撮影できます。
 

Q 表裏があるものもモデリングできるの?

A できます

 これも今後書いていきますが、例えばお茶碗をモデリングしたい場合、表と裏がありますから、まずはそれぞれ別々のチャンクで処理しましょう。
 その際、撮影で気を付けることは、口縁部や高台など表と裏の境目となる部分は念入りに撮影しておくこと。
 逆に、体部外面はどちらでも撮影できるので、少々手薄でも問題ないと思います。
 特に、口縁部や高台は型式を判断する重要なところなので、いろいろな角度から撮影しましょう。
 

Q 他に念入りに撮影する場合はある?

A 細工が細かいところ、重要なところは念入りに

 上では境目だからという理由で重点的に撮影すること、と書いていますが、他にも特に重要な部分は念入りに撮影しましょう。
 例えば瓦なら、のっぺりした面はそこそこで大丈夫なのですが、巴文などが描かれている面は多めに撮りましょう。
 

Q 少ない枚数でモデリングするコツは?

A ミクロとマクロを使い分ける

 上の方でもちらっと書いていますが、全体を俯瞰するような写真と細かい写真とをそれぞれ撮ることでより少ない枚数でモデリングが可能になります。
 先述したようにマッチングにはオーバーラップ率が重要なので、俯瞰写真を各方向(上下左右前後)からそれぞれ撮影しておけば最低限のオーバーラップが担保されますので、あとは細かいところを近づいて撮ればOKです!
 もちろん、ズームの倍率を変えないようにご注意!
(以前テスト用に使ったマンホールの サンプル写真 もミクロとマクロが使い分けられていますね!)
 

まとめ

 以上のように長くなりましたが基本的なルールを守りつつ工夫して撮影していくことで、短い時間で良質なモデルを作ることができるようになります。撮影方法については、上記を一度頭に入れたら習うより慣れよでどんどん試してみてください。そのうち感覚がつかめるでしょう。