(書店の書棚を見る限りはおそらく)今最も勢いのある歴史小説家、今村翔吾さんの作品を初めて読んでみました。
直木賞受賞作である「塞王の盾」や、”真田もの”の「幸村を討て」にも惹かれたのですが、一番気になったのがこの「茜唄」。
平家滅亡の話を”相国最愛の息子”と言われた平清盛の四男知盛の目線で描いた作品です。
平知盛と言えば、個人的には大河ドラマ「義経」で阿部寛さんが演じていた知盛の印象が強く、この作品の中で描かれる知盛の容姿は阿部寛さんではないものの、一族を率いる武将としての風格は阿部寛さんの演技がぴったり当てはまるものであったため、阿部寛さんのイメージで読ませていただきました。
歴史は勝者によって都合のいいように書き換えられるもので、今を生きる我々もその書き換えられた歴史に流されがちですが、こうして平家サイドに立ってみると、知盛や教経をはじめ、平家一族もけっこういいやつばかりに見えてきて、対する頼朝の冷酷無比さが際立ってくるのがおもしろいところ。そして、後白河法皇はどちらの側に立っても大天狗。
平家物語は滅びの美学と称されますが、この小説では平家物語の筋を追いつつも、知盛の思い描くこの先の世のあり様、平家の生きる道、木曽義仲、源義経との邂逅など、こんな史実であったら面白いというようなエピソードが盛りだくさんで、最後の最後もまさかの展開で、”見るべき程のことは見つ”にそういう意味も含ませるかと驚嘆しました。
各章、琵琶の音に乗せて、平家物語を朗々と唄い、語り継がんとするある二人の人物のやり取りに始まり、回想シーンのように物語が進行するという構成もよかったです。
やがて明らかになるこの平家物語の作者と思われる人物がいったい誰なのか...という謎が頁をめくる推進力に加わり、下巻に入っていよいよ源平の戦いに突入してくとギアがさらに一段上がって一気に読み終わりました。
今村翔吾さんの小説、いいですね。また違う作品も読んでみようと思います。