続いて、後編「建築論 最後の授業!!」です。
全19回に渡って行われた建築論の講義も、今回の授業で最後です
最終回は、東洋思想の勉強です
建築論のスタートは、「存在とは」「芸術とは
」「美とは
」から始まり、これまで西洋哲学
を中心に勉強をしてきましたが、全ては最終回の「東洋哲学」
を勉強するための布石だったのです。
ここでは、
西洋から輸入した哲学からではなく、我々の国:日本の先人達の教えだけを学び独自の禅思想を展開させた哲学者西田幾多郎と、
そして、日本の禅文化を広く世界にしらしめた仏教学者 鈴木大拙を通して、東洋思想を学んでいきます。
鈴木大拙は般若系経典の一つである、金剛経の一節、
「仏説 般若波羅蜜多、即 非般若波羅蜜多、是名般若波羅蜜多」という表現に着目し、
これを「仏説A、即 非A、是名 A」(Aは(即)非Aである、故にそれはAである)と、分かりやすく公式化しました。
Aをコップに置き換えて、もう少し分かりやすく表現してみると、
「“コップがコップである” のは “コップ” が(即)“コップでない”からである」となるわけですが・・・
ん~どこか矛盾を感じます
しかし、この「矛盾」というのが、東洋哲学の肝なのです
「矛盾」を悪とし認めないのが「西洋」、「矛盾」をそのまんま受け入れるのが「東洋」ということになります。
ある禅僧が、「禅の目的は何ですか?」という弟子の問いに、「真実の自己を発見することです」と答えたそうです。
禅では、「真実の私(自己)というものは、私(自我)を捨てることによって浮かび上がって来るもの」という、実に矛盾に満ちた考えをするわけです。
しかし、禅では「真実の自己」を「仏性」と呼び、それは誰しもが生まれながらに持っているもので、それが俗世間を生きていくなかで、自我という泥にまみれて見えなくなっているだけなのです
「捨て果てて、捨てきれば自我の心もはたらかなくなって澄んだ心でこの世に住むことができる―――」
これは、道元禅師の言葉を現代訳したもので、僕の好きな言葉でもあるのですが、禅の世界では、座禅し修行をすることで「真実の自己」に出会うことが出来ると説いています。
それを、西田幾太郎は次のように説明しています。
「我々の自己(個)は、どこまでも自己の底に自己を超えたもの(超個)において自己をもつ。自己否定において自己自身を肯定するのである。」
これまた矛盾を感じます
そこで西田幾太郎は、この自己矛盾をどのように解決したらよいのか、という点について哲学的に徹底的に考察し、「絶対矛盾的自己同一」という言葉を使って説明します。
矛盾した(矛盾と見える)ことがらも、実は表と裏の関係にあり、自己同一と見なせるとしたのです。
これは仏教思想に根差した柱であり、西田幾太郎の親友でもある鈴木大拙も同じことを言っています。
実は、フランスの哲学者サルトルや、ドイツの哲学者ハイデッガーも、同じようなことを考えていたのです。
これは、ハイデッガーの著書で有名な「存在と時間」を、イメージとして分かりやすく書いたものです。
(ゆきゆき亭「哲学館」http://www.h6.dion.ne.jp/~yukineko/top.html より引用)
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針葉樹の森全体を「自我」、生い茂った木々を「(真実の自己にこびり付いた)泥」、老いた木こりが木を倒す行為を「座禅(修行)」、そして、まばゆい太陽の光、或いはその光がさす場所を「真実の自己」として考えると、禅の思想と同じように見えてきます
2000年感もかけて、西洋の哲学者たちが考え手に入れたことを、実はそれよりもずっと昔に、日本では道元禅師たちが、もっと遡れば、「般若心経」の僅か300字足らずの中で、既に説明されていたのです。
そのことにハイデッガーも、晩年に「存在と時間」を書くなかで気付かされることになります。
この動画は、ハイデッガーが、その時の気持ちを日記に記したものを紹介した動画です。
これは、すべての建築をやる日本人に体に入れていただきたい言葉です。
素晴らしい教えが、遠い昔から受け継がれている日本に私たちは生まれたのですから、どんな些細な事に当たる時にも、日本人としての誇りを忘れてはいけません
授業の最後に、前田塾長から次の言葉が送られました。
「建築論は、直接 建築に反映されるものではない。制作に向かう態度をつくるものである。」
建築論の授業では、建築に向かう者として最低限知っておかなければならないことを学んできましたが、それはほんの一部に過ぎず、勉強しなければならないことは、まだまだ沢山あります
建築塾の授業は、その「入口」や「道しるべ」であり、ここからは自分自身で勉強し身に入れなければなりません。
ここからがスタートなのです!!
今回はこれで終わりです。
次回はいよいよ最終回!!
お楽しみに
前田紀貞建築塾 第4期TA 尾茂田太