立場が変われば
現在、イラクのロマ(ジプシー)は非常に迫害を受けていたので仕事がなく、生活苦から女は売春をすることが多い。ただ、直接そのことを尋ねることは彼らのプライドを傷つけることになるというので、不本意だが確認できなかった。とにかく今は、食べるるために何でもしているという状況らしい。
「昔、わしらには身分証もなかったし、定住もしていなかった。移動しながら商売をしたり、バンド演奏で金を稼いでいたんじゃ。それが八〇年代になってサダムの命令で定住させられた。でも、サダムはそのためのアパートも建ててくれたんだよ。他の住民から暴力を振るわれないように、警備までつけて保護してくれた。サダムの時代になって、わしらはようやくイラク人の迫害を受けないようになったんじゃ。ところが今は住民に追い出されちまって、こんな暮らしを強いられとる」
ハニン老の話に、集まっていたロマたちはみな一様に肯いた。
米英、そして日本に「独裁者」とされたサダム・フセインは、実はマイノリティ(少数者)の味方だったのである。
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「ところが今はどうだ!金もないし家も追い出され、何もかもなくなってしまったよ」
上原善広 著 『被差別の食卓』 新潮新書より