春花秋月その後番外 29青天に霹靂が飛ぶ | **arcano**・・・秘密ブログ

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緑袖の姪、緑泉は試合開始の合図と共に雪蘭目掛け切り掛かった。雪蘭は身をかわしながら隙を突き緑泉の身体に掌打を与え距離を取る。

緑泉にすれば大した痛みもなくただの防御的な衝撃として物足りるはずもない。

緊迫した空気に耐えられる気はしなかったが春花は雪蘭を見つめた。

臨戦態勢を崩さぬ緑泉に対し雪蘭は一見ただ棒立ちに立っている様に見える。

『あの子…戦う気ないんじゃないの?緑袖の姪ごの緑泉があんなに勇ましく覇気を持って挑んでいるのに…肝心の雪蘭は棒みたいに立って…もしかして疲れているの?』

何も答えない秋月に春花は不安を募らせる


『……そりゃあそうだ、雪蘭様は連続して手合わせしている。疲れが出てもおかしくない』


周りの者達も口々に雪蘭を心配し始めた


『そうだな。しかも今まで戦ったのも鳳鳴山荘で常に鍛錬を重ねた者達だ…いくら雪蘭様でもやはり女子だ…』


『そうか?しかしあの盟主夫人は顔色は至って沈着冷静。連続した手合わせなどなかったようにも見えるぞ?あれは余裕がある表情ではないか?』


『…ふむ。確かに呼吸も落ち着いているようだ…』


別門派の者達は訝しんだ。


『あ、兄上?どうなの?』


『さぁ?お前はどう思う?雪蘭が緑泉に敗すると?』


『そ、そんな!それはダメ。絶対。これは女の戦いよ。それに雪蘭が負けるはずがないわ』


『何故分かる?』


『あの子はあなたの子だものしぶといのよ』


秋月は春花の言葉に思わず顔を綻ばせた。


『おい、魔教の頂が笑っているぞ…』

『本当だ…』


対岸にいる者達は春花と秋月の夫婦の様子に驚き口々に噂した。


『盟主夫人。お疲れでしたら休憩を挟んでもよろしいですよ?』


『休憩?いいえ必要ありません』


緑泉の嫌味にも顔色を変える事はなかった。


『…いつまでも子供みたいな戦いをしているの?あなたあの恐ろしい魔教の娘でしょう?』


周囲には聞こえぬ程の囁きで雪蘭の心を崩そうとする。

当の雪蘭は意に介すことはない。


懐から暗器を取り出すと緑泉は雪蘭に向けて放ちそれを避けた雪蘭に素早く刀を振り下ろす。

地に突き刺さる刀は日に反射しギラギラと光っている。持ち主の剥き出しの悪意そのものである。

しかして目掛けた雪蘭は残像であり、実体は緑泉の背後に立つ。


『なんだ?あの速さは…対戦の女子もなかなかだが…』


観衆は追いつかない戦闘速度に目を凝らした


『……暗器を使うとはな…あの者本当に鳳鳴の関わりか?』

秋月は蝶瑶を見遣る


『恐らく星僕と何某かのやりとりがあったのではないかと…』

『まぁ、そうであろう?あの憎しみに満ちた表情は安穏や平和とはかけ離れておる…あの様な腹持ちの人間は見てすぐ分かる。放つ気が禍々しい』


『え?どう言う事?』


『葉顔…実際に千月を離れた月星僕はどれほどだ?あの暗器は見覚えがあるが…』


『はっ…私の不行き届でございます。実際私が洞主になり離れた星僕は三、そしてそれらは渾星主がまとめる三星僕で…』


『ああ、確か次は自分が洞主になると画策しておった渾星主…そういえば功力を失くした間も執拗に我を探しておったな…面白い…』


『な、なに?何が面白いの?』

春花は何か嫌な予感がし寒気を感じていた。

『大丈夫だ。春花は兄の腕の中におれば良い…そなたの娘はしぶといのだ安心せよ』

秋月は怯える春花を腕に抱いた。


隣の試合場にも歓声が届き何事かと人々が増えていく。


『……ちょこまかと逃げまわるばかりで攻撃できないの?本当に盟主夫人が聞いて呆れる』


再び緑泉は攻撃を仕掛けていく

全てを難なく弾きながら、雪蘭はようやく顔を上げ口を開く


『緑泉とは良い名前だわ…枯れる事なく悪意が湧き出るのね…その暗器は何処から手に入れたかしら…』


『なっっ…』


『確かにあの暗器は魔教の道具だ…何故緑泉が持っているんだ?』

鳳鳴山荘の武人達も次第に疑問を持ち始めた。


緑袖さんは陶然派の門派だったけど陶然掌門は千月教の星僕と秘密裏に繋がっていたようね』


『……』


『何?…どう言うことだ?』

『掌門の出の者がかつての魔教と通じておったと言うのか?』


『緑泉!!お前…まさか…』


長年鳳鳴山荘で蕭白を支えてきた緑袖は蒼白で立ち尽くした


緑泉は妬みの一瞥で雪蘭を睨むと

指笛を鳴らした

山々にこだました甲高い指笛の音に羽を休めていた鳥達は危険を察知し飛び立った。

『な、なんだ?』

物々しく騒然とし始めた鳳鳴山荘のあたり一帯に不穏な空気が流れ始める。

立ち所に四方八方から黒煙が鳳鳴山荘目掛けて急襲した。うねる黒煙は黒い蛇のようにも見え、はたまたそれは地を這う竜のようでもあった。

『ほう、これはこれは…』

秋月は面白いとばかりに思わず笑みが溢れた。

ただ、鳳鳴山荘の者達は違った。

女達は叫び声を上げ逃げ惑い男達もただ襲い来る黒き龍の如き黒煙を茫然と見上げるだけである。

ある者は刀を抜き臨戦の構えを見せ、それは冷凝や流風とて同じであった。

迫り来る黒煙は無数の敵である。

湧き出る敵に逃げ惑う村人達。

今や江湖の平和の象徴鳳鳴山荘は渾沌の中であった。


30へ続く